不定形な文字が空を這う路地裏

ある種の理解は手段を選ぶもの



そこにしなだれかかるのは嘘のノスタルジーだ、君はそのずいぶんと確かな感触に決して心を許してはならない…雲の中に潜り込み、水の粒の冷たさと傷みを確かめながらおぼろげに感じるようなものでなければ君は君自身の狂気に折り合いをつけることなど決して出来ないだろうよ
例えば今は真夜中だが、窓の外に何か見えるかい?いいからカーテンを開いて、光を反射する邪魔な硝子をスライドさせるんだ…そうしなければ僕の言っていることは半分以上取りこぼされてしまう…開けたかい?よろしい、今夜はなかなかいい風が吹いているね、冷たいがある種の覚醒にはもってこいの温度だ、そう思わないか…僕たちは少々温度に対して麻痺しすぎた、それは疑いようのない事実だ―寒いと感じる前にヒーターのスイッチを入れてしまうだろ?それが全ての答えだよ
窓を開けたら少し身を乗り出してごらん…ああ、そんなに邪魔になるんならカーテンは本棚の本にでも噛ませときゃいいじゃないか―脱線するのはあんまり好みじゃない―ひとつ迅速にお願いする
さて、どうだろう、君が今身を乗り出しているそこはいったい何処だ?住んでる場所を答えろなんて誰も言っていない、もうひとつ断っておくけれど―君のイマジネーションのレベルを計測しようとしてるわけでもないぜ…そんなのは白髪のポップな芸術家にでも任せておけばいいことだろう?しいて言えば視力だ―僕は君の視力を試そうとしているのさ、さぁ、君が今いるそこは何処だ?中空、なるほど、中空か、まあいいだろう!なにが見えた?その中空から、君はなにを見ることが出来た―はじめは闇だった、そうだね、そんなにすぐに夜目なんか利くもんじゃない―はじめに闇が見えたね、それから君はどうした?かなり長い間見つめていたじゃないか―?もっとよく見つめようとした、そうだね?僕が暗に視力という表現で見ることを匂わせたからだ、それから質問があった―何処だ!?とね―だから君は無意識に答えになるものを探したというわけだ
続けよう!君は目を凝らした―闇の中にあるものを見つめようとしてね、それはもうしっかりと見ようと勤めたはずだ、そうでなければ答えを導き出せないことは本能として理解していたはずだからね!本能として理解している―これがどういう意味合いか判るかい?暗闇の中でなにかを見つけ出そうとすれば、きちんと目を凝らして辺りを懸命に見つめなければならない―僕たちは本能でそのことを理解しているのさ!…なんだよ、不服そうな顔をしているね…今の説明にどこかおかしなところがあったかい?これでも僕はあますところなく君に全てを話したつもりなんだけど?―僕は昔からそういうことが上手なんだ、自分の中にあるあらゆる事柄をちょっとした比喩とジョークできちんと説明することが出来る―ああ、もちろん、自分で確認出来る程度のあらゆる事柄という意味なんだけどね、さっきのは―脱線だって!?冗談言うなよ、僕は少しも話をそらしたりなんてしていないよ―むしろ君が僕の話をきちんと聞いていないのではあるまいね…?怖い顔をするなよ、僕は議題を他人に押し付けるのみで話を進めようとするクラス委員じゃない―クラス委員って何かって―?ものの例えだよ…言葉のアヤってやつさ
それで君はなにが判らないんだって…?答え?答えって何の!?さっきの、なんて言い方は駄目だよ、それは問いかけとして適当じゃない…僕の中ではきちんと段階を踏んだ結果のすれ違いなんだから、今君に渋い顔をさせてることの原因となっているものは―質問!?僕が君に何か質問をしたかい…ああ、あれか、あれのことか―「さて、どうだろう、君が今身を乗り出しているそこはいったい何処だ?」―我ながら良い台詞だよね、簡潔で、なおかつ謎を含んでいて、深く読み込もうと思えば、なんらかの衝動を促しているようにも見える―衝動!!ふるえるね、ゾクゾクする…君はこのセクションをクイズか何かだと感じたのか!ふふ…はははは……可笑しいよ、可笑しいね、君―僕はそんなつもりでこの言葉を発したわけじゃないんだ、これくらいは君にも理解出来ると思ったんだけどな―怒るな、怒るなよ…今の言い方は良くなかった、まるで僕が君を見下しているみたいに聞こえてしまったね、今の発言は少しの間君の心に憮然とした感情をくすぶらせるだろう…怒るなよ、僕はそんなつもりで言ったわけじゃない、そうだ、君の疑問に答える前に場所を変えようか?美味い珈琲を落とす店をこないだ見つけたんだ、君だってたぶん気に入ると思うな…金のことなんか!!今のは僕の落ち度だ、お詫びのつもりでご馳走させておくれよ、このことでこれ以上議論はしないよ…さあ、行こう!心配は要らない!あの店は真夜中すぎまで開いている!!おっと、窓を施錠しておけよ…君の隣人にもしも物をくすねるような手癖の持ち主がいたらどうするよ?…失ったものの幾つかは簡単には取り戻せないよ…おや、いい外套じゃないか、何処で買ったのか教えてくれよ―準備は出来たかい?じゃあ、出発だ!!玄関を開けて、廊下に身を乗り出せ…「さて、どうだろう、君が今身を乗り出しているそこはいったい何処だ?」
おっと、冗談だよ、怒るな、怒るなって…

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