不定形な文字が空を這う路地裏

術式の標的










記憶の陽炎が
燃え盛る
熱の無い炎のように、俺の頬を打つ、おお
死に例えるほどの苦しみは
もう、無くなってしまった
蒼褪めた頬が削げ落ちたぶんだけ余計な言葉を覚える
君の心臓のひだに俺の致命的な欠陥を移植したくなる、お近づきの印しに
ブレイクビーツのようながらくたの鼓動を忘れられないと思って欲しい、君の心臓に致命的な俺を
昨日の雨音を数えていた、今になって
認識という感覚にそれほどまでのタイムラグがある
フィルムをセットして三日後ぐらいに
ようやくオーバーチュアを映し出す映写機のようなものだ
いったん針が飛び出すとデジタルは対処のしようがない、それが怖くて
新しいしきたりとやらを取り入れる気になれないのさ
記憶の陽炎が燃え盛る、熱の無い陰鬱な紅い炎のように
何を燃やしているのか俺には判り過ぎるくらい判るよ、あの中で縮こまる曖昧な肉塊は
まさしくこの俺が取り逃がしてきた大切なもの達さ
それは他の誰でも無いこの俺の落度なのに
被害者面をして蹲る荼毘の午前零時
指先の震えは交感神経の欠損だと皆が言うけれど
俺はそんなもの認知した覚えが無い
人ひとり老け込んでしまうほどの長い長い年月の果てに、ようやく見つけたものがそれしきのものだなんてどんな脚色を施しても嘲笑えない
墓穴を掘るには往生際が悪過ぎる、死後硬直の姿勢にはきっと
四肢をぶった切らなきゃ棺に収められないような手間の掛かる形を選ぶだろう
なにかがぶすぶすと焼けて灰を天井まで舞い上がらせている、ささやかな気流によってそれは渦を巻いて
まるで神に拒まれた天国への階段のようだ(どんな韻律を使用してもあの上まで辿りつくことは出来ないだろう)
鼻先をなぞるように外気は冷たく暗く
陰鬱な紅い炎が壁に投影する揺らぎに照らされながら温度を失っていく
劣化劣等ホモサピエンス、いったいどうしてこんなものにしがみついてきたのか
子供のころに集めた切手が全部くだらない紙切れに見えるみたいに、壁を抜けられない自分の影に中身の無い感慨を投げつけた
中身の無い感慨は卵のように脆く壁の上で砕けて
跳ね返った破片が右の眼の眼球に刺さる、俺は意地でも眼を閉じようとは思わなかった
それは具現化された熱の無い炎、涙のように俺の目尻から滴ってくるのは
傷を受けたことを幸せだと思った、俺の存在は
手早く施工された細工よりはなんとかなるものかもしれないということが判ったから
それがいったいどういう意味かなんて誰に説明するようなことでもない―そんなことがあったって説明だけでそれはひとつの証明になる類のものさ―ト書きのついた日記帳に書かれているものは日記ではなくて脚本のはずだ
説明の仕方を間違えることだけはしないんだ、それだけは確実に上手くなるものなのさ
取扱説明書なんて、書くにも読むにも蓄積が必要になるとしたものだろう
俺は説明の仕方を間違えることだけはしない、それは俺の存在を
のっぴきならない場所へ追い込んでしまうことにもなりかねないから
もっとも、それが出来たからってこんな場所に居るようなら―それはまったく無駄だったってことになるんだけどさ
熱の無い紅い炎はこちらの思惑を全て理解しているらしくて
噛みつかない程度に執拗に炙り続けている、その中で追い詰められる影のように縮こまる肉塊が
いったいどんなものを抱きしめていたのか俺はきっちりと理解している
炎が消えるころ降り積もる灰は遺書の代わりになるのかもしれない
俺は遺言を残すほどの規律を求めてはいないから
降り積もる灰の形状に様々な言葉を見るのかもしれない
死に続ける暁に見える灰の形状とはいったいどういうものだろう?炎はまだやむことを知らない、それがもしも俺という存在を媒体にして燃えているのであれば―俺はメスを左胸に突き立てて脈を打つ心臓を君に差し出すかもしれないね
移植したいんだ、君に
その無軌道な流れを記憶してもらいたい、存在などどんなことをしても永遠になどなれないから
オペは何時でも始められる、俺は




無造作に身体を床に投げ出せばいいだけさ

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「詩」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事