ひところの炎が緩やかに偲びながら揺るがないものに形を変えてゆく放熱の午後
ぼんやりとしていたが心情は生きていた
ひとしきり刻み付けた傷に眼を落として、しばらくは何も知るつもりもなかったけれど
吸い込み、吐き出した隙に紛れ込んだ幾つもの微生物が強引に指針を歪ませた
サイクルの狂った惰眠を貪るソファーの上で体内のプログラムが派手に組み換えを始める
要らないものが硬質化したナイン・ボールが排泄に続くポケットに落とされ
新しいボールが中枢から投げ落とされた
俺はある意味で俺である必要は無く、誰かの―もう少し執拗な比喩を用いるならひとつ上か下の階層に潜む俺の知らない俺の様な誰かが
手玉を勝手に弾き飛ばして新しいゲームを始める
乾いた音が跳躍を始めると眠ることなんかもう出来はしない、せめて身体を起こして
新しい何かを飲み込むか吐き出すかしなくちゃ
長く休んでいた身体は軋んだ、油の足りない古い機械の様にね
だけどここしばらくの間に気付いたことの中で一番重要なことだったのは、新しいものを紡ぎだすのは新しい感性などでは無く
むしろ様々な企みが堆積した結果の上にあるってことだった、そいつを知ってしまったから
そろそろ何かを書き始めなくちゃならない
近頃のペンには電源のボタンがある、起動を待つ間にFMをチェックしよう―蓄積の無い新しい歌を聴いて
古臭い怒りを燃え上がらせよう
俺という気体の行き場所を探している
俺という気体の行き場所を探しているんだ、どんなに休息を願ったところで
ノルマを果たさなけりゃ神様は笑いかけてはくれないに違いない
勘違いだろうがお門違いだろうが始めたものは先に進めなけりゃ
完結しないものがどれだけ人を不安にさせるかは知っているつもりだから
夕刻の太陽が山の向こうの他人の墓石に反射して朝日の様な影を作る、それはもしかしたら目覚めろという暗示かもしれない
ジャスト・チューニングの後流れてきたのは昔歌ったことのあるメロディーで
何度目かのナイン・ボールを落としたあと俺の身体は勝手に歌詞を辿り始めた
忘れる、忘れないに関係無く、染み込んでる空気というものが確かにある
時に穏やかな教師の様な態度を気取って見せる色褪せた回想
こじづけでも何でも繋げちまったやつの勝ちだ
いくら景色が変わっても求めるものはひとつなんだから
こめかみを叩いて蘇生の準備を始めた、ハード・ディスクに移植される俺の亜種
稼動音がシンクロを促す、前頭葉から触手を伸ばして液晶画面とリンクしよう
新世紀の悟りにはCPUの匂いがするのさ
入力、変換、エンター…もはや鉛など不要だけれど指先のリズムは大切に
欲しいもの以外は何も取り入れないようにしよう、気紛れが頭をもたげない限りは
理由なんて求める必要は無いのさ、流れに乗って跳ねるだけで
あとは適当に休憩地点で辺りを見回せばいい
結論なんて孵化の様に次第に始まるものさ
それがいつか…幾つかの事柄が徐々に形を成したときに
何が俺をここまで来させたのか判るのかもしれないなんて、そんなことが
そんなことが近頃変に愉快に思えるんだ
いつか
いつか俺の頭の中だけで
誰も知らない蝶が無数に飛び交うんじゃないかって思えてさ
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