不定形な文字が空を這う路地裏

廃道に続く国道








コインを集めて買えるものの数を数えた
パンを頬張りながらなくしたもののことを思った
靴下を穿きながら一瞬だけ頭によぎったことは
思わず殴りつけたときのあいつの表情だった
窓の外では飢えすぎたカラスが鳴いて
汗に濡れたシャツを着替えながらくちばしのことを考えた
何も無いのに窮屈な部屋の中で
ささやかなほころびがいくつもの痛みを放った
青春という熱病の後にわざわざ構築した
自分の名を被せた廃墟
温度はフラットに、上にも下にも無い所にとどまり
唾を飛ばして語ることだけが
宿命ではないことを知り
ささくれ始めた畳の
蜘蛛の糸を目指す幾千の亡者の手のようなそれを
出かけることも忘れてしばらく眺めていた
あてがどこにも無いときほど
何かを探しているような顔を造るものだ
しいて言うならそんな虚勢のようなものが
風にふらつく自分を生かしてきた
混ざりきらず
体内で断層を作る現実と幻想への希望が
昔患ったバセドウ病の
指先の震えを肩口から引きずり出す
そんなに絵になるような悲劇じゃなかった
ほんの少し苦労の数が増えただけのこと
押入れから布団を出し入れはするものの
ここ最近まともに眠った記憶など無い
中途半端に発熱したがる狐火の欲望は
一日の無常を何もかも済ませてからこそ口を開き始めるのだ
おかげで白目がいつも
祭りの後のようにぎらぎらと艶めいている
滅びることを怖がりながら
積み上げるべき煉瓦の倉庫を開けようとしない
いざとなったら、なんて最後の切り札を
さも深刻そうにちらつかせたりするものの
それは決してすべてをやりつくした後のことではないのだ
チャンネルが切り替わることが怖いと思えるだけ今はまだましなのかも
時間とともに配列を崩した畳の上にパライソは無かった
出かけなくちゃいけない、ここにいると
のるかそるかの選択ばかり迫られてしまう
悩むのは愚かだからさ
賢いやつはやるべきことに手をつけるものだ
ドアノブに鍵を突っ込みながら去年患った歯の根にまとわりつく炎症のことを思った
鎮痛剤を倍飲んでも痛みは引かなかった
アフリカン・パーカッションのように鳴る鉄の階段を下りながら
一昨年に原付ですっころんだ事故のことを思った
雨の日に路面電車の線路でスリップして
線路脇の民家の玄関のガラス戸に突っ込んだ
足に
分厚いガラスの欠片が三つ入って足が泡のように腫れ上がった
本当にやばいときには
身体はピクリとも動いたりしないものだ
雨に打たれながら感じたあの奇妙な冷静さ
足りないものはあの感覚なのかもしれない
キャッチするということは精神の脱皮のようなものだ
やはり使い古されたものは脱ぎ捨てられる必要があるのだ
階段を下りきって見上げた青空には容赦無い夏の視線が雲の隙間にあった
アパートの前にあるダイドーの自動販売機でアロマダークを買った
近頃の缶コーヒーのコクは使えない詩人のようによく喋る
ローンの終わらない原付にまたがり
結構快適なエンジンを鳴らした
明日は雨だとテレビが言っていたから
今日のうちに閉ざされた道を見に行くことにしよう
山深い閉ざされた道の
ささくれたアスファルトをじっと眺めながら
ささやかなパライソの香りを嗅いで逃亡しよう
立ち向かうなんて馬鹿みたいさ
立ち向かうなんて馬鹿みたいなものだ
だからといって進行方向はおいそれとは変えられない
選び続けてしまったものは
筋肉のように四肢にまといついて
明らかに動く理由として
この抜き差しならない場所まで俺を連れてきた
恥ずかしいから
先が無いから
そんなことは理由にならない
もとより保険をかける元手などもう有りはしないのだ
もしかしたら
受け止めてもらえたと思えるだけで
幸せだって類のものかも判んないしね
多少恥ずかしいぐらいのものが
キャッチーだってこともあるものさ
慣れた道をゆっくり走りながら
昨日無理やりな追い越しで危うく衝突しかけたでかいワゴンのことを考えた
そんなことでも
何かをぶちまけようというきっかけにはなるものだ

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