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小さき花-第4章~31

2021-10-25 20:23:22 | キリスト教

 私は第二に聖体を受ける少し前から、何事にでも無駄に気づかいするという恐ろしい小心の病気に罹りましたが、一度試みに罹った人でなければ、とてもその苦しみを悟る事が出来ません。私は二年の間この病気にひどく苦しめられました。私の想いや仕業や、子細なことでも皆悲しみと憂いの種となり、これを長姉マリアに打ち明けてからでないと安心しません。しかし私の全ての想い、殊につまらぬ事までも、ことごとく打ち明けねばならんと思っていたから非常に辛くありました。そしてこれを打ち明けますと一時安心する事が出来ますが、この安心が稲妻のごとく過ぎ去ってまた他の心遣いが起こるのであります。これが為に長姉はさぞうるさかったでありましょう。また彼女自身にとっては忍耐の徳を守るよい機会となったでありましょう。

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小さき花-第4章~30

2021-10-24 20:22:19 | 小さき花

 ちょうどこれと同じく、私は父なる天主様に深く愛される子の子供でありまして、聖書にも「我が来たりしは義人を招ぶ為にあらず、罪人を招びて改心せしめん為なり(ルカ5の32)とある通り、罪人を改心させるためにご自身の御子を遣わされたるところの天主様に愛せられる子供であります。そして私は多く赦されたからではなく、みな赦されたのでありますから、深く愛せねばならぬ義務があります。否、罪悪にに陥らないよう私に恵んでくださったばかりでなく、この誘惑を遠ざけてくださったのでありますから、私は聖女マリア・マグダレナよりもなお一層深く聖主を愛さなければなりません。発狂するまでに愛さねばならないのであります。私は黙想会や説教の時に度々こういう事を聞きました。それは「真に痛悔した霊魂よりも多く主を愛した霊魂がまだ見当たらぬ」という事でありますが、私はこの言葉が偽りになって欲しいのです。余計にイエズス様を愛する私の身にとっては、この言葉に反対したいのであります。
 しかし話は又わき道に入りました。どこから続けましょうか?

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小さき花-第4章~29

2021-10-23 20:21:11 | 小さき花

ここに一人の上手な医者の息子があって、彼は路傍の小石につまづき倒れ、胸部の骨を折りました。そのとき父の医学士が急いで来て、その子を抱き起しその巧みな技術を以ってこれを療治し、なお心を尽くし大切に介抱しましたので、間もなくその子は全快しました。それでその子は父の深い愛情を厚く感謝しましたが、無論その感謝は至当の事であります。が、今一つ或る父が自分の息子の通らねばならない道に、危険な石があるという事を聞いて息子のまだ通らぬ以前に急ぎ走って行き誰も知らぬよう、この石を取り除いておきました。しかしこの深く愛せられる息子は、父のおかげで危険を免れたという事を知りませんから、父に対しても別に有難く感謝の意を表さず、また前の息子の如く死に迫るような傷を直してもらった人ほど父を愛しませんが、これは父の仕業を知らないからでありまして、もし父が自分の為にここまでも安全を図ってくださった事を知るようになれば、必ず前の息子よりも一層愛情が増すに相違ありません。

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小さき花-第4章~28

2021-10-22 19:40:40 | 小さき花

 ああ私は良く知っております。慈しみ深き聖主が私が弱すぎる者であるという事を良くご存じでありましたから、この誘惑には逢いませんでした。万一私がこれに逢ったならば此の世間の偽りの光に全部焼かれていたかも知れません。しかしこの偽りの光が私の眼に入りませんでした。強き霊魂はもしこいいう場合罪悪の便りとなることがあれば、その楽しみは直ぐに棄ててしまう勇気がありますが、人々がこういう愉快を感ずる場合には私はいつも却って悩みに遭いました。それで弱き私の霊魂が、こういう儚く危ない世間の愛情に身を委ねなかったのは私の手柄ではなく全く天主様の御憐れみ、慈しみの結果であります。もし主が私を助け護ってくださらなかったならば、私はマリア・マグダレナの如く、大いなる罪悪に陥っていたかもしれません。聖主がかのファリサイ人なるシモンに向かって仰せられたところの「赦さるる事の少なき人は、愛する事の少なし(ルカ7の47)」という御言葉が、私の心に強く響きます。実際、聖主は私に対して、聖女マリア・マグダレナよりも多く赦してくださったのであります。いま私はこの事について心の中に感ずる事を充分ありのままに説明致したいのですが、言葉文字を以ってこれを表すことが出来ませんから、仮に一つの喩えを挙げましょう。

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小さき花-第4章~27

2021-10-21 19:38:41 | 小さき花

また数人の生徒が特別に某童貞と心易くなるのを見て私も同じくこの童貞の気に入るようにしたいといろいろに力を尽くしましたが、どうも思う通りに行きませんでした。しかしこれは主の厚き恩寵であって、私は此の世間の俗悪な友情に唯苦みだけを与えてくださった事を今日主に深く感謝いたします。実際私の様な愛情に満たされたる心を以って世間の人々と親しく交わったならば、すぐに罪悪のために囚われ迷わされて、遂には翼までも切られ、後、主のもとに飛んで行って、楽しい休みに就く事が出来なかったのに相違ありません。これは自分の心を世間的の愛情に委ねるような者は、どうして天主様と親密になり一致する事ができましょうか、とても出来ないと断言致します。私はこの偽りの光に迷わされた多くの霊魂が哀れな胡蝶の如くになって、俗悪な愛情のもとに飛んでゆき、その偽りの光に翼を焼かれ傷つけられて罪悪に陥り、後、真の光なるイエズス様のほうに立ち返って、今度は傷つき焼けぬ主の愛の火にに温められ、恵みの火に照らされるのを見ました。

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