白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

出版予定&攻めの方向

2016年10月11日 23時53分33秒 | 著書
皆様こんばんは。
まずはご報告があります。

私の処女作、「やさしく語る 碁の本質」の発売日が決まりました!
11月15日頃書店に並びます。
amazonでの購入ですと11月16日頃届くようです。

碁には様々な要素がありますが、基本をしっかり学ぶ事が上達への近道です。
そこで、本書は碁で最も重要な「石の強弱」に特化した内容になっています。
石の守り方、攻め方を系統立てて分類し、一つ一つ学べるように工夫しました。

初級者、級位者の方々は、布石や中盤でどこへ打って良いのか全く分からない、といった状況に陥りがちです。
しかし本書でしっかり学んで頂ければ、石が見当違いの方向へ行ってしまう事は格段に少なくなるでしょう。
有段者の方には、基本の確認としてご活用頂きたいですね。
強くなって色々な事ができるようになると、基本を疎かにしてしまいがちです。
しかし、基本はどれだけ強くなっても一番大事にしなければいけません。
勉強しているのに伸び悩んでしまう方は多いですが、基本を忘れている事が原因になるケースが多いのです。

本書の売りとしては、構成・記述など全て私自身の手で行っているという事です。
私がお伝えしたい事がそのまま書籍としてまとまっています。
文章力がどうかというと・・・それは皆さんがご存知の通りですね。
文章のプロではないので粗は多いかと思いますが、とにかく分かりやすく記述する事を心がけました。
あえて自分でハードルを上げますが、自信作です!
なるべく多くの方に読んで頂きたいと思っています。



宣伝が長くなりました
本日は攻めの方向についてのお話です。
当ブログでもよく出て来るフレーズですが、攻め上手になるためには避けて通れません。



1図(テーマ図)
5子局です。
黒1と勢い良くボウシし、白は2とハザマを衝いて対抗した場面です。
黒はこの白をどう攻めたら良いでしょうか?





2図(失敗)
こういう形で黒1と押してしまう方が多いですが、白2と打たれて下辺の黒を痛めています。
所謂兄弟喧嘩ですね。
黒3、5の守りが必要ですが、その間に白6と悠々脱出してしまいます。





3図(失敗2-1)
実戦はこちらから押したのですが、これも失敗です。
白2と出られ、今度は黒△が弱くなっています。





4図(失敗2-2)
それでも黒1から一生懸命追いかけますが、白は当然逃げていきます。
白10までとなり、もう右辺白と繋がりそうです。
それは嫌だと、実戦は黒Aと切って行きますが・・・





5図(失敗2-3)
白10となって、どんな状況でしょうか?
黒3子が攻められていますね
攻めの方向を間違えたのが原因です。





6図(テーマ図再掲)
テーマ図を再掲します。
つい白を追いかけたくなりますが、こういった場面ではまず手を止めて周囲を見渡しましょう。
黒の弱い石はないでしょうか?
黒は攻めによって何を得たいでしょうか?
そう考えると答えは浮かび上がって来ます。





7図(正解)
黒1が正解です!
弱い黒△と繋がるように打ちます。
同時に白の出口を塞ぐ攻めになっています。
自分の石を守りながらの理想的な攻め方です。
A方面に出られるのが気になるかもしれませんが、そちらはダメ場です。
白に打ってもらいましょう。





8図(続・正解)
白5まで、白はただダメを繋がっただけです。
一方黒の打った手は全て左辺一帯を盛り上げて大きなプラスになっています。
立派に攻めの効果が挙がりました。

石を攻める時にひたすら相手を追いかける方が多いですが、自分の弱い石にも気を使って攻めなければいけません。
考え方一つで5図になるか、8図になるかが変わってしまいます。
皆様もご注意ください!

あ、その考え方はもちろん本でも触れていますよ!(笑)

10月の情報会員向け解説

2016年10月10日 23時31分29秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
本日は毎月恒例の日本棋院情報会員のPRを行いたいと思います。
なお過去の記事はこちらです→第1回 第2回 第3回 第4回 第5回
棋譜再生ソフトの使い方は第4回で詳しく解説しています。

今月は山田規三生九段村松大樹六段王景怡会津中央病院杯(当時)対稲葉かりん初段の2局を解説しました。
今回は幽玄の間でも中継された山田(黒)―村松戦の一部をご紹介しましょう。



(開始地点)
左上黒△と打った場面です。
ここから戦いが始まって・・・





(実戦進行)
白1~黒20まで進みました。
あえて1図にまとめましたが、目が回りそうな進行ですね
「途中でお互い左上黒の生き死にに関係なさそうな所に打っているのは何故?」
「黒20と転戦したけど、左上はどうなったの?」
といった疑問をお持ちになる方も多いでしょう。

派手な戦いはただ見ているだけでも面白いのですが、やはり対局者が何を考えて打っているのかぐらいは知りたいですよね。
私の解説ではその点を重視し、棋力に関わらず楽しめるようになっています。
それでは最初に戻って進行と解説を見ていきましょう。





(実戦)
「白も簡単には生かしません。
厳しく追及しました。」
この白1に対し、黒Aとハネ出したらどうなるか気になる方も多いでしょう。
そこを次の参考図で解説しています。





(参考図)
「黒1とハネ出すと眼2つの生きとなり、黒不満です。」
ハネ出した場合の参考図です。
これは黒が良くないので実戦では違う手を選びました。
なお手数が多いので画像では見づらいかと思いますが、ソフトでは一手ずつ並べられるのでご安心ください。





(実戦)
黒1「押さえる一手です。」
白2「しかし眼を作るスペースが無くなりました。
黒大丈夫なのでしょうか?」
黒7「スペースを広げますが・・・」
白8「この手は黒を取りにいくための準備です。」

先述した通り、白は隅の黒を簡単に生かさないように打っています。
しかしご覧のように、白8の曲がりで一旦攻めを中止しました。
この手でいきなり黒の眼を取りに行くとどうなるでしょうか?
皆さんの当然の疑問を次の参考図で解説しています。





(参考図)
「すぐに隅を取りにいくと、コウが避けられません。
Aなどにコウ材が多く、白いけません。」

前図白8でいきなり隅の黒を取りに行くと、黒14の後白△と取ってコウになります。
しかし黒Aにコウ立てされて困ります。
左上隅の黒を取っても、右上で連打されては白ダメです。

見直してみると、ここは初級者の方には解説が分かり難かったかもしれません。
「白がすぐに隅を取りにいくと、黒14の後白△と取ってコウになります。
しかし黒Aにコウ立てされて困ります。
左上隅の黒を取っても、コウ替わりに右上を連打されては白ダメです。」
こう直したいのでよろしくお願いします。
おっと、業務連絡が混じってしまいました





(実戦)
「それでも黒は受けました。」
えっ、隅を生きずにこちらを受けるのは何故?
その答えが次の参考図です。





(参考図)
「黒1と打てば生きられますが、白2と繋がられる事を嫌いました。
黒は右上白に狙いが無くなりますし、黒7子が弱くなる可能性が出てきます。」

黒が隅を生きなかったのにはこういう理由がありました。
でも、放っておいた隅はどうなってしまうのでしょうか?
それでは実戦の進行を見てみましょう。





(実戦)
白1「準備ができたので黒を取りにいきました!」
白3「一本道です。」
白5「これで白△の所が欠け目になります。」

この隅は死活の基本形で、プロは間違えません。
しかし何故白3と打たないといけないのか、分からない方も多いと思いますから参考図を入れています(掲載は省略)。

黒8「この手は隅との関係で先手です。」
白9「手を入れて左上の黒は完全に死にました。
黒が大失敗でしょうか?」

結局、左上隅の黒は全滅してしまったという事です。
黒大失敗と思われる方も多いでしょう。
何故黒がこの進行を選んだのかは次の手で分かります。
なお黒8が何故先手になるのかも参考図で解説していますが、省略します。





(実戦)
「実は黒は予定通りでした。
この置きが狙いの一手です!
左上を生きるより、こちらの白への攻めに勝機を求める作戦でした。」

なんと黒は最初から左上の黒を捨て、右上白への攻めに回る作戦でした!
そして白もそれを分かっていて、あえて黒の作戦に乗って行ったのです。
当ブログでご紹介するのはここまでですが、ここから終局に至るまで延々と戦いが続きます。
両者のプロならではの深い読み、碁盤全体を見た構想が魅力的な1局でした。
ぜひご覧頂きたいと思います。

来月は農心杯での李世ドル九段対一力遼七段女流本因坊戦第1局の謝依旻六段藤沢里菜三段の2局を解説します。
皆さんが注目された2局を選んでみました。
ご興味をお持ちになった方は、ぜひ日本棋院情報会員にご入会ください!

ひらつか囲碁まつり

2016年10月09日 23時46分16秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
本日は第21回湘南ひらつか囲碁まつりが行われました。
この時期ですから、毎年天候が心配です。
そして今日は案の定、朝から雨が降っている・・・
ですが午後には雨が止み、問題なく開催されました!

かつて平塚には木谷道場というプロ養成所がありました。
といっても公的なものではなく、木谷實九段が個人で開いたものです。
その歴史は戦前まで遡り、数十年に渡って数多くの棋士を輩出しました。
昨日登場した趙治勲名誉名人は木谷門を代表する棋士です。
木谷門の棋士の獲得タイトルは、合計数百!
木谷道場が無ければ、囲碁の歴史とレベルは大きく変わっていたでしょう。
そんな木谷九段の功績を称え、平塚市は囲碁のまちを標榜しています。
様々なイベントが行われますが、最大のものがこのひらつか囲碁まつり!

私が担当したのは1000面打ち指導碁です。
平塚駅近くの紅谷パールロード商店街に500面の碁盤を並べ、棋士72人で500人のお客様と一度に対局!それを2回!
1000面打ちには10回近く参加していますが、何度見ても圧巻の光景です。
ちなみに昨年の第20回記念開催では、本当に一度に1000面並べて対局が行われました。

棋士1人あたり7人×2回ほど担当しますが、多面打ちは棋士にとって難しい事ではありません。
ところが、今回は珍しくトラブルがありました。
1回目と2回目で参加者に開きがあり、2回目は急遽担当場所が変わって大混乱!
何しろ端から端まで数百メートル、情報が伝わりません
対局開始までお待たせしたり、途中で相手の棋士が変わったりと色々ありましたが、快く許して頂いて感謝です。
私も気持ち良く対局させて頂きました。

指導碁以外にも様々なイベントが開催されました。
入門教室、初心者指導、七路盤大会、トッププロのサイン会等々・・・
そして合間には猟師鍋のサービス、ジャズの演奏などの癒しの時間もありました。
囲碁を全く知らない方でも楽しめるようになっています。

今回もひらつか囲碁まつりには様々なお客様が参加されました。
北は北海道、南は高知から!
棋力は未経験から県代表クラス!
年齢は下は5歳、上は94歳!
参加者数は聞き漏らしましたが、確か前回は7000人ぐらいだったと思います。
この賑わいは、正に囲碁のまちですね!

囲碁まつり終了後は、棋士と囲碁ファン、囲碁まつり関係者参加の懇親会が行われました。
こちらも大変面白く、普段見られない棋士の姿を見る事ができます。
見せ過ぎていた方もちらほら・・・
ともあれ、最後まで楽しくファンの皆様と触れ合う事ができました。

平塚囲碁まつりは本当に素晴らしいイベントです。
いつまでも続いて欲しいですね。

一石碁(阿含桐山杯決勝)

2016年10月08日 21時19分45秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は永代塾囲碁サロンで指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。

さて、本日は第23期阿含桐山杯決勝が行われました。
還暦を過ぎてもまだまだ実力は健在の二十五世本因坊治勲と2年ぶりのタイトル獲得を目指す河野臨九段、両者の戦いは半目差の際どい勝負になりました。
それでは早速振り返っていきましょう。
なおこの対局は幽玄の間にて、三谷哲也七段の解説付きでご覧頂けます。



1図
黒番の二十五世本因坊治勲の模様志向の序盤です。
地にからいイメージがありますが、時々模様の碁も打っています。
さてここで白番ですが、次に黒Aと打たれると上辺の模様が大きくなります。
よって白は・・・





2図(実戦)
白1、3と打ちました。
黒模様を制限するための常套手段で、地にからい河野九段ならずともこう打ちたくなります。
しかし地ばかり気にしていてはいけません。
黒4の後どう打つべきでしょうか?





3図(変化図)
取られないように白1、3と逃げ出す方が多いでしょう。
黒2、4となって、この黒と形は似たようなものです。
しかし周囲の状況をよく見てみましょう。
黒△と白△、援軍としてどちらが強力でしょうか?
勿論考えるまでもなく黒ですから、この戦いは黒が有利です。
白としては不利な戦いは避けなければいけません。





4図(実戦)
という事で白1から捨てました。
黒8まで地を与えますが、1図黒Aと打たれるよりは得と判断しています。
苦しい戦いを避けて白9と新天地へ展開、これが正しい考え方です。





5図(実戦)
前図であっさりした打ち回しを見せた河野九段、右下ではしつこさを見せました。
黒△と守ったにも関わらず白1と動き出すとは





6図(実戦)
黒△まで一段落です。
白は黒〇、黒は白〇を取る分かれになっています。
白が地を得しており、成功と言って良いと思います。
正確な読みを武器とする河野九段らしい仕掛けでした。





7図(実戦)
その後白△と黒模様を消しに行った場面です。
次に白Aと切るぞと言っていますが・・・





8図(変化図)
正直に黒1と守っているようでは、白2と悠々と進出されてしまいます。
こうなると黒の上下がつながらず、大きな地も望めなくなります。
黒困ったように見えますが・・・





9図(実戦)
実戦は凄い手が飛び出しました。
黒1のツケ!
次に白はAと出る一手で、そう打たれて黒ばらばらになりそうに見えますが・・・





10図(実戦)
黒12まで力ずくで止めました!
黒2子は捨て石です。
二十五世本因坊治勲、なんとも格好良い打ち回しを見せました。
一方で河野九段もタイミング良く白5を利かし、後に白Aを狙っています。
見事な分かれでした。





11図(実戦)
そして白に手番が回り、左上白7まで20目近い利益を上げましたが・・・





12図(実戦)
黒1から中央を囲ったのもまた大きいです。
こうなっては形勢は黒が少し良さそうです。
しかしヨセの名手河野九段も必死に追い上げて差は詰まっていきます。





13図(実戦)
そしてこれが終局図です。
盤面全体を見渡してみて、何か気付きませんか?
一部の取られている石を除き、黒の石が全部繋がっていますね。
所謂一石碁です!
昔の武宮九段の碁にはよく出来ましたが、対極に位置するかのような人の碁に出来るとは面白いですね。
俗に一石碁に負け無しと言います。
という事は、結果は・・・?







白半目勝ち!
石が繋がるように打つ事は碁の基本で、非常に重要です。
全部の石が繋がるように打てれば理想的ですよ、というのが一石碁に負け無しという言葉の真意です。
ただし勝ちを保証してくれるとは限らないのでした。

今月はタイトル戦等が目白押しです。
棋戦カレンダーが凄い事になっていますね。
いずれも目が離せないものばかりです!
ぜひご覧ください。

さて、明日は第21回湘南ひらつか囲碁まつりで指導碁を担当します。
大勢のアマの皆様と触れ合う良い機会で、楽しみにしています。
読者の皆様も、ぜひお声がけください!

力のサバキ(幽玄の間棋譜紹介)

2016年10月07日 23時39分19秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
昨日の記事で200回目の投稿となりました
気付いたのはさっきですが
特に何があるわけでもありませんが、サボらずやってきたという実感は得られますね
今度は300回目指して頑張っていくとしましょう。

<お知らせ>
明日は永代塾囲碁サロンで13時から17時半頃まで指導碁を行います。
ご都合の合う方はぜひお越しください!
毎度告知が遅くて申し訳ありません

さて、本日も幽玄の間で中継された棋譜をご紹介したいと思います。
本日もテーマはサバキですが、上級編になるでしょうか?





1図(テーマ図)
沼舘沙輝哉四段(黒)と武宮正樹九段の対局です。
武宮九段が白1と切っていきましたが、黒2、4と強く対応されました。
左辺は黒石ばかりで、戦力的には明らかに白不利です。
白はどう動いたでしょうか?





2図(変化図)
命が危ないという事で、つい白1、3と左辺で生きに行きたくなる方が多いでしょう。
しかし黒4とかぶせられ、白はいかにも窮屈です。





3図(続・変化図)
窮屈だからといって死ぬわけではありません。
白7までなんとか生きました。
しかし黒8となって外が真っ黒、白△はボロボロに・・・
白即負けの図です。





4図(実戦)
実戦は白1、3!
黒△も強くないという事で、黒の上下を分断していきました。
苦しい状況でただ生きる事だけ考えていると一方的になります。
たとえ攻められていても、相手にもどこかに弱みがあるものです。
それを衝いていくのが表題の力のサバキです。





5図(実戦)
黒1と切られましたが、白も2、4と上下を切っていきます。
黒の上下の弱みが浮かび上がってきました。





6図(実戦)
黒1、3で上の黒は安全になりましたが、白8まで左下の黒が危なくなってきました。
一見黒Aで大丈夫に見えるかもしれませんが・・・





7図(変化図)
黒1には白2、4で白AとBが見合いになります。
これは黒まずい図です。





8図(実戦)
結局黒1から振り替わりになりました。
白の方が沢山取られたようですが、テーマ図と比べてみてください。
不利な状況からスタートして、そこそこに分かれたのですから白成功です。

如何でしたか?
今回は上級編でしたが、石を助ける事に拘らないのがサバキの基本です。
それだけでもできていれば武宮九段レベルまでは行かずとも、良いサバキに繋がるでしょう。