いい女よりもいい男の数は少ない

男の恋愛ブログです。
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失われた風景

2018-08-15 01:13:06 | 日記
すぐ好きになっていたのが20代で、簡単には付き合わなくなったのが30代。
何もかもがぐちゃぐちゃだったのが20代で、洗練された生活を送るようになったのが30代。
幸せだったのが20代で、色々なものを手にしながら不幸せなのが30代。

夜遅く丸の内線の駅を出ると、目の前に見たことがある男性が階段を上っていた。実際には他人だったのだが、昔付き合っていた男性にどことなく似ていた。こんなバッグをしょって、よく遊びに来てくれたっけ。今頃彼は何をしているのだろう。

平日のこの駅は住人以外はあまり使っていない。彼を見た事はなかったが、この辺に住んでいるのだろうか。手前の信号で待つ彼を、1つ先の信号で待つオレが上手に眺めている。スマホを見る姿勢もよく似ていた。もしかしたら彼もこれから誰かの家に向かっているのかもしれない。あの頃の彼のように。

好きになるのは早い。会った瞬間というと言い過ぎかもしれないがその日中には好きだと分かっている。そうして好きになって、初対面の帰り道に改めて気付くのだ。本当に好きかもしれないと。男はありきたりな事に慣れていない。おしゃれな場所でデート中に好きだと言うよりも、何でもない道端でそっと手を握ると驚かれる。え、とこちらを見た時に、好きだと伝えた。2回目のデートだった。まだ早いよ、と笑う彼に、そうだね、と答えて話題を変えた。また会いたいと連絡をしてきたのは彼からだった。

信号が青に変わったので歩き始めると、丸の内線の彼は真っ直ぐに歩いて行った。自分はもうすぐ右に曲がる。もうお別れだ。

好きだった。でも別れた。別れたばかりの頃は何も考えなかったが、なぜ後になって彼が優しくしてくれたこと、彼が言ってくれた言葉の1つ1つが思い出されるのだろう。未練はない。復縁しようとも思っていない。でも目の前の彼が本人だったらどうだっただろうか。人生とは自分が思っているよりも運要素が強いのかもしれない。自分はこうだと主張しても、結局状況が変われば考え方も変わるのだろう。未練はないのであれば、何も思う事はないはずだ。

好きだった。でも別れた。あの日、好きになったのは事実だ。この人の為にもっと鍛えてもっとお金を稼いで幸せにしたいと思った。でも別れたのだ。

右に曲がると、彼を振り向くことなく真っ直ぐ歩いて行った。