いい女よりもいい男の数は少ない

男の恋愛ブログです。
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電車が来るまでに

2011-03-28 02:20:32 | 男の生き様

08

「明日、出て行くわ。」

「分かった。」

同棲していた彼とケンカが絶えず、オレは出て行くことにした。5年前の話だ。もう別れてもいいやと思う気持ちと、まだ別れなくてもいい、という気持ちのせめぎ合いに耐えかねて、一旦オレが出て行く、という結論を出した。

次の日、ヤマトが大量に段ボールを届けてくれた。荷物を梱包して、発送するために。彼は部屋で大音量で音楽を聴いていて、時折、PCをカタカタ打つ音が聞こえてきた。

荷物をまとめる。ただそれだけのことが、なかなかできなかった。でも、しなければならない。出て行くと決めたのは自分なのだから。

雲が動いて窓から日差しが差し込んできた。服を畳みながら見上げると、いつもの景色が目に入った。彼と一緒に住んでいる間ずっと見てきた景色だ。もう、見る事はないのかもしれないと思うと、一筋の涙がこぼれた。

一緒にいた頃は、ケンカばかりしていた。
別れてからは、彼と過ごした楽しい場面ばかり思い出す。
好きだったから。その気持ちに嘘はない。

ヤマトがまた来て、全て運んでくれた。
そして、オレも家を出た。

電車が来るまでが長く感じた。
なぜこういう時に電車はすぐ来ないのだろう。

電車に乗ると他には誰もいなかった。静かな空間に、ガタゴトという音だけが響き渡る。そういえば彼がノーテンキに音楽を聴いていてくれたおかげで、オレが泣いたことは気付かれていない。もし横にいたら、もし音楽を聴いていなかったら、確実に気付かれただろう。

でも、と疑問がよぎる。ではなぜ、最後の日に彼はあえて違う部屋にいたのだろう。なぜ、大音量で音楽なんか聴いていたのだろう。そして、なぜオレはその不自然さにその場で気付かなかったのだろう。彼もきっと泣いていたのだ。

電車が来るまでに気付いていたら、あの景色を今も毎日見ていたのかもしれない。

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