因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団フライングステージ第35回公演『トップ・ボーイズ』

2010-08-06 | 舞台

*関根信一作・演出 公式サイトはこちら 下北沢OFFOFFシアター 15日まで(1,2,3,4,5,6,7,8)
 イギリスのキャリル・チャーチルの戯曲『トップ・ガールズ』に想を得た関根信一の書き下ろしである。現代日本のゲイカップルの結婚パーティに、その昔名を馳せたゲイたち(一部例外あり)が祝福に訪れる賑やかな第1幕、続く第2幕で彼らは現代のゲイとしてそれぞれの悩みや葛藤を抱きながら生きていく。

 

 第1幕は虚構に遊ぶ伸び伸びした雰囲気に溢れるが、豪華絢爛のゲイたちにもそれぞれ複雑な背景があり、特に三島由紀夫は「自分は三島自身ではなく、『仮面の告白』のなかの人物である」と言い張り、自己紹介でも名を名乗らずに「僕は僕です」とか「公(こう)ちゃんと呼んでください」とかわそうとする。しかし彼の主張が第2幕のゲイたちに微妙につながっていることが感じられ、この態度の悪いミシマが本作において複雑な役割を果たそうとしていることがわかる。

 あっけらかんと自分がゲイであるとカミングアウトしている契約社員の陽樹は、同じ職場の係長鷹雄と結婚式をあげたばかり。しかし鷹雄は自分のセクシュアリティを家族にも話せていない。2人は同居をはじめるものの、たちまちぶつかって生活は破たんする。2人が激しく互いの主張をぶつけあう場面は、たとえセクシュアリティが同じであっても相容れない部分があり、解決を見いだせずにもがき苦しむ様相に胸が痛んだ。陽樹と鷹雄、2人の言いたいことや相手に望んでいることが「わかる」と思った瞬間、「簡単に理解したとか共感できると思うのは失礼だ」と自分の心を打ち消す。2人の葛藤が自分の心を波立たせ、混乱させる。

 第1幕では仕事で遅くなると言ったまま、鷹雄はとうとうパーティに現れない。第2幕後半の2人の衝突と決裂、終幕に静かに描かれる結婚式の誓いの場面をみると、好きなものどうしが人生を共に生きたいというささやかな願いがかなえられるのは不可能なのだろうかと絶望的な気持ちになるのである。これまでみてきたフライングステージの舞台は概ねハッピーエンドであった。しかし今回は実に苦く重たく、痛ましい。

 遊び心に溢れた第1幕と第2幕のつながりの手ごたえをあともうひと押し、つかめなかったことや、第2幕だけでもじゅうぶん見ごたえのある舞台になったのではないかという疑問、また残念なことに観劇した日、台詞のじゅうぶんこなれていないところが散見したこともあって、本作を見終わったいまの気持ちはまだ不安定である。しかし複雑な味わいを残す終幕の苦さを大切にしたい。あの苦さはみた人の心の中でもっと深まり、もっと長く続くだろう。

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