因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

てがみ座『ありふれた惑星』

2009-06-15 | 舞台

 演劇ユニットてがみ座は劇作家長田育恵と俳優梶山明子によるプロデュースユニットの旗揚げ公演。今日は満席の盛況で、新しいカンパニーの出発を祝い見守る熱気が客席に漲っていることが感じられた。『カシオペア』を前嶋のの(思考動物)、休憩をはさんで『鉄屑の空』を楢原拓(劇団チャリT企画)の演出で上演する。ふたつの物語は季節も場所も設定もまるで違うが、屋上にある天体望遠鏡を共通のモチーフとした、いわば連作短編上演となる。王子小劇場 14日で終了。

『カシオペア』三十代なかばと思われる夫婦の部屋。子どもはいないらしい。夫(扇田拓也/ヒンドゥー五千回)はベランダで洗濯物の乾き具合をみており、妻(中島美紀/ポかリン記憶舎)は衣類を段ボール箱に詰め込んでいる。うちを出て行こうとしているのだ。始まったばかりの物語は既に不穏な空気を漂わせる。

 くじ引きで家具を取り合いながら、取った方が秘密を話すというルールの中から次第に二人の過去が浮かび上がってくるところはおもしろい。物語が過去のいろいろな場面に戻る作りは珍しいものではないにしても、手堅い作り、作劇の巧さを感じさせる。

 しかし観劇中自分はずっと言いようのない気恥ずかしさを感じていた。ややテンション高めの演技や、結局ラブラブな(おお恥ずかしい!)夫婦に、みているこちらが照れてしまうのか。この夫婦はちっとも憎み合っていないのである。それが別れると決めたのはなぜか。「自分の心の底にある流れみたいなもの」と妻は話すが、自分はそれこそをもっとみたかったと思う。表面は円満にみせていても内実は崩壊していたり、逆に諍いを繰り返しながら別れない夫婦もあって、そのどちらにも真実があり、他者には(おそらく当人たちにとっても)容易に理解できるものではないだろう。せっかく濃密な空間で二人芝居を作るのだから、夫婦というこの不可思議な関係について、もっと踏み込んだ描写をみたいと思うのである。

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