因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『THE BEE』日本バージョン

2007-07-05 | 舞台
*筒井康隆原作(『毟りあい』より) 野田秀樹+コリン・ティーバン共同脚本 野田秀樹演出 公式サイトはこちら 日本バージョンは9日まで シアタートラム
 客席最後列のトラムシートで観劇。ちょっと楽な立ち見状態なのだが、まったく疲れず眠らず、茫然と舞台に見入った70分。いつものNODA・MAPに比べると笑いは少なく、物語が進むにつれ客席は不気味に静まり返ってくる。

 サラリーマンの井戸(野田秀樹)が帰宅しようとすると、家の前の道を警察が封鎖している。井戸の自宅に脱走犯小古呂(近藤良平)が立てこもり、妻と息子が人質になっているという。突然の災難である。井戸は小古呂の妻(秋山菜津子)に夫を説得するよう懇願するが、もはや夫を愛していない妻はそれを拒否。逆ギレした井戸はあろうことか犯人の妻と息子を人質に立てこもり、井戸と小古呂の果てしない報復行為が続いていく。

 極めて小さな関係における残虐行為は、みるものの心を寒々とさせる。世界平和どころか、自分たちはこの2人をさえ、どうしようもできないのかと。パンフレット記載の野田の気合いは「感動させてなるものか。涙など流させてなるものかという心意気で作っています」とのこと。まずは受けて立ちますが、さてそれからどうすればよいのか。

 出演俳優の中では秋山菜津子に目を奪われた。「本番」もやっているという相当怪しげなストリップで稼ぎながら息子を育てている女。「脳みそのついてない肉の塊」などと散々に言われ、男の欲望を手っ取り早く満たすためだけの存在である。服装も言葉使いも上品とは言いがたい。井戸の言いなりにいたぶられる様子は悲惨きわまりないのだが、その中で日常の生活を繰り返す場面からは、次第に崇高なものが感じられてくる。映画『天城越え』に主演した田中裕子を評した新聞記事を思い出した。田中は殺人の容疑をかけられる娼婦である。警察の取り調べで自白するまで用足しを禁じられ、遂には失禁してしまう場面がある。記事には確か「ポルノの世界でしか描かれなかった場面において、田中はこの上もなく崇高な表情を見せる」とあった。自分はこの意味がわからず、映画もあまり好みではなかったのだが、今回の秋山菜津子をみていて、あれはもしかしたらこういうことなのだろうか。

12日からのロンドンバージョンはまだ席がある由、ロビーでもチケットを販売していた。日本版とは演出も異なるそうである。もとは英語で書かれた戯曲をイギリスの俳優が演じる。野田は犯人の妻役だというから俄然興味が沸いてくるのだが、終演後にチケット売り場へダッシュするのがためらわれ、劇場をあとにしてしまった。どうしてだろう、「おもしろかったから、英語版も見ちゃう」というリアクションに抵抗があるのだ。ちょっと自意識過剰ですかね。

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