険悪の夜

仕事から帰ってきたら、父と母が黙って座っていた。
明らかに様子がおかしかった。

そして母は「温泉に行ってくる」といって出かけていった。
父は追いかけようとしたが、口下手な父はかける言葉が見つからないのか
黙ったまま見送ってしまった。
「バタン！！」と激しく閉めた扉の音から母の気持ちが伝わってきた。

ひとまず僕はお風呂の準備。
その後、洗濯物をたたんでいたら父が晩御飯の準備を始めた。

そして父と二人で晩御飯。
当たり障りのない会話をしながら父の作ったぶり大根をつつく。
「寒い日は大根の煮物が温まるな！」
という父の言葉には強がりと寂しさが混じっていた。

しばらくして父に「お母さん、どうしたの？」と聞いてみた。
だが「うん・・・・」と答えるだけ。
何となく原因は分かっていた。だからそれ以上は聞かなかった。

晩御飯も終わり時刻は20時前。
父は黙って布団に入った。
「お母さん、待ってなくていいの？」と聞いたら
「具合が悪いからしばらく横になる」と言った。
完全な「ふて寝」である。

それから数分後、母が帰ってきた。
持っていたバッグやらを「ドン」と投げ捨てる様子から
まだ機嫌の悪さが伝わってくる。

「お父さん、具合悪いんだってよ」
と言ったら一瞬、心配そうな表情を見せたがすぐに元に戻った。
母とも当たり障りのない会話をしながら「どうしたの？」ときいたら
（やっぱり・・・）という答えが返ってきた。

一晩経てば少しは機嫌も治るかもしれないが
今回こうなった原因は長引くか、もしかしたら
ずっと冷戦状態になるかもしれない。

けんからしいけんかもしない仲のいい両親。
そんな二人がこんなに険悪になるとソワソワとして落ち着かない。
子供の僕は静観するしかないのだろうが・・・
明日からどうなるのか、心配だ。