24日に千秋楽を迎えた大相撲初場所は日本出身の大関・琴奨菊が初優勝を遂げ、外国出身力士の連続優勝記録は58場所で終止符が打たれた。58場所中56場所を制し、3横綱1大関を擁するモンゴル出身力士の黄金時代に陰りが見え始め、角界の勢力図は変わるのか。また、国技の看板を背負う日本出身力士の中から、琴奨菊に続く優勝者、さらには横綱を締める者は現れるのか。【大矢伸一、吉見裕都】

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 白鵬が3場所賜杯から遠ざかるのは、2007年名古屋場所の新横綱昇進後では最も長く、12年夏〜秋場所以来2度目。前回は続く九州場所で賜杯を奪還し、翌年春場所から4連覇して復活を遂げた。とはいえ、既に30歳を超えた白鵬に同様の活躍を求めるのは酷というもの。ならば、モンゴル勢のリーダー交代かというと、話はそう簡単ではない。

 1984年生まれの日馬富士、85年生まれの鶴竜は、85年生まれの白鵬と同世代。日馬富士は右肘や両足首などに古傷を抱え、鶴竜も左肩手術からの回復が万全とは言い難い。体重130キロ台の日馬富士は軽量を突かれて格下に苦杯を喫することがしばしば。鶴竜は攻め込まれた時に見せる引き癖が抜けず、取りこぼす。平幕にあっさり金星を配給する両横綱に白鵬レベルの安定感は望めず、「ポスト白鵬」は荷が重いと言うべきだろう。

 3横綱の後進の世代も順風満帆とはいかない。91年生まれの照ノ富士は昨年夏場所に初優勝し、大関昇進を射止めたものの、秋場所で右膝を負傷。相手を引っ張り込んで反り身で残したり、無理な体勢から小手投げを繰り出したりする悪癖がたたった。「投げちゃ駄目と言っているのに、やっちゃうんだね」と師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱・旭富士)も渋い顔だ。

 さらに、今場所は右膝をかばうあまりに左膝の半月板を損傷、初の休場に追い込まれ、場所中に手術を受けた。春場所は一転、カド番のピンチで迎える。八角理事長(元横綱・北勝海)は「腰が下りていないから膝に負担がかかる。若いうちに膝をけがすると心配だ」と大器の将来を不安視する。

 93年生まれの逸ノ城は前頭3枚目の今場所わずか2勝にとどまり、一時の勢いが止まった感がある。立ち合いに鋭さがないため得意の右四つにさせてもらえない。右四つになっても差し手を返したり、上手を引き付けたりする技術が伴わず、巨体を生かした攻めにつながらない。

 北の湖前理事長(元横綱)は生前、逸ノ城について「膝の前の方に力が入っていない。後ろに体重がかかっているから残せない」と防御面の課題も指摘していた。所属する湊部屋は少人数で、埼玉県に立地。親方衆の中には、不利な稽古(けいこ)環境を乗り越え、現状を打開するために出稽古を増やすよう求める声も多い。

 さて、勢力図はどうなるか。3横綱が引っ張るモンゴル勢の優位が急変することはないが、退潮傾向は否めない。八角理事長は「出身地に関係なく、全力士が頑張っていくことが大事。(琴奨菊の初優勝で)他の力士は俺もできるという勇気をもらったんじゃないか」と戦国時代を期待している。

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 琴奨菊の先代師匠、前佐渡ケ嶽親方(故人)の53代横綱・琴桜は32歳で横綱に昇進した。3月の春場所に横綱昇進が懸かる琴奨菊は今月30日に同じ32歳になる。琴奨菊の綱取りについて、61代横綱・北勝海の八角理事長は「連続優勝ならそういう話も出てくる。3横綱に勝った今場所のような内容も問われる」と語る。

 日本出身力士の新横綱は、98年夏場所後に昇進した66代横綱・若乃花が最後。以降は5人の横綱が生まれたが、米国出身が1人、モンゴル出身が4人となっている。

 横綱昇進の条件は、横綱審議委員会(委員長、守屋秀繁・千葉大名誉教授)の内規で、「大関で2場所連続優勝か、それに準ずる成績」と定められている。

 琴奨菊は、負け越したら大関から陥落する「カド番」を5回経験したうえで栄冠をつかんだ。琴桜も「うば桜」と呼ばれるなど大関では苦しんだが、最後には綱を張った。春場所は琴奨菊にとって、最後のチャンスになるかもしれない。

 他の2人の日本出身大関はどうか。29歳の稀勢の里は、序盤の取りこぼしも多いが、カド番は1回。優勝争いにも度々加わっており、協会内で優勝への期待度は高い。同じ29歳の豪栄道は大関で一度も2桁白星がない。今場所は4勝11敗と大きく負け越し、春場所は3度目のカド番を迎える。優勝未経験の2人は、大関の責任を果たし、殻を破りたいところだ。

 日本出身力士では、「平成生まれ」への期待もある。平成生まれで最初に三役に上がった25歳の高安や、琴奨菊の弟弟子で今場所自身最高位の前頭4枚目で勝ち越した琴勇輝、学生横綱のタイトルを持ち、新入幕で2桁勝利を挙げて敢闘賞を受賞した正代はともに24歳だ。

 守屋委員長は久しく日本出身横綱が誕生していないことについて、「ワールドワイドで考えた方が良く、私はこだわりはない。ただ、(日本出身力士よりモンゴル出身力士の方が)ハングリー精神はあると思う」。また、けがを抱える力士が多いことにも言及し、「基礎トレーニングからもっと俊敏性を鍛えないといけないのではないか」と指摘する。

 歴代3位の優勝31回を誇る58代横綱・千代の富士の九重親方は「モンゴル出身力士の方が稽古を頑張っているように見える。日本出身力士はやったことのないことにチャレンジしていかないといけない」と奮起を促した。

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テレビをもたず、モンゴル勢ばかりが勝つために大相撲をチェックする習慣も失ってしまっていたのですが、昨日はたまたまゴールドジム東中野店にいて、たまたま風呂上りに帰り支度をしていたら、たまたま琴奨菊・豪栄道戦が始まるところで、初めて琴奨菊を生中継で観ることができたのでした。

こういう偶然のめぐりあわせには無性に興奮するもので、しかも琴奨菊が期待に応えて立派な相撲で勝って優勝を決めたのですから、琴奨菊も偉いけれども、そういう記念すべき一戦を見物できた貧乏英語塾長も何かもっているかもとうれしくなったのでした。

こういう観ている人に幸せを与える力をもっていたのが、かつての大相撲でした。それが、なくなって久しく、かつての相撲ファンとしては哀しい想いをしていました。その流れが変わるかもしれないと思うと、さらにうれしくなります。

北の湖理事長の突然死直後の場所で、モンゴル勢の退潮をうまく利用できて優勝できたのも、琴奨菊がもっている何かのめぐりあわせ。それを素直に喜んでもらったら、また激しい稽古をして、来場所の優勝・横綱昇進につなげてほしいものです。ラストチャンスをものにできるかどうか、真価が試されます。