他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙への規制策が、瀕死(ひんし)の状況だ。昨年10月に打ち出された厚生労働省の厳格な規制案が、「喫煙の権利」を訴える自民党の一部議員の圧力に屈し徐々に後退。日頃見解が異なる全国紙各紙の社説が厚労省案に全て賛成するというごくまれな状況の中、妥協さえできずに健康増進法改正案の国会への提出断念に追い込まれている。このまま「世界最低レベル」(厚労省健康課)の喫煙規制で、2020年東京五輪・パラリンピックの開催に突入していくのか。(社会部 天野健作)

横たわる深い溝

 「受動喫煙は恐怖の対象だ

 自身も患者である、日本肺がん患者連絡会の長谷川一男代表(46)は1日、厚労省で記者会見し、受動喫煙対策を強化する健康増進法改正の早期実現を訴えた。

 同連絡会が肺がん患者215人にアンケートしたところ、9割が受動喫煙を「不快だ」と回答するとともに、受動喫煙にさらされた場所は「飲食店」が最多の88%で、職場で受動喫煙を受けたと回答したのは31%だった。

 厚労省は昨年5月、受動喫煙による死者数は年間推計約1万5000人に上ることを公表しており、被害者の訴えは切実だ。

 厚労省の規制案は、学校や病院だけでなく、飲食店なども原則禁煙とし、小規模のバーやスナックなどでのみ喫煙を容認する内容。悪質で命令に違反した場合、30万円以下の過料に処する。

 これに対し、自民党側は飲食業界やたばこ業界への影響を懸念。例外を拡大し、「喫煙」「分煙」など表示義務を課すことで、飲食店での喫煙を認めるように厚労省側に迫っている。たばこ業界は自民の有力支持基盤だ。関連団体を中心に厚労省案へ約120万人の反対署名を集めた。

 厚労省側は例外場所を拡大する方針を示しているものの溝は深く、今国会での成立は不可能な情勢。飲食店などでの喫煙室の設置や、周知期間を含めると、東京五輪に間に合わせるには、法案成立は年内が限度だという。

厚労省案に賛意示す各紙の社説

 新聞各紙の社説は軌を一にしている。

 産経(3月6日付)は厚労省案を「妥当な線引き」と評価し、「対策を急ぐのは当然のこと」と主張。厚労省案が罰則を設けていることについても「現在の対策が実効性が上がらない実情を考えれば、やむを得ない」と賛意を示した。

 産経とは、日頃意見の違いが際立っている朝日(4月17日付)も、「たばこの煙は好き嫌いの話ではない。生命・健康に直結する問題」として、「五輪に確実に間に合わせるには、今国会での法改正が望ましい」と求める。

 読売(3月14日付)は、厚労省の罰則付きの規制を「導入する意義は大きい」と認め、「健康被害は放置できない」と強調。毎日(4月24日付)は「独りよがりの自民の抵抗」と断じ、「五輪開催国にふさわしい受動喫煙対策を講じるべきだ」と訴えた。

ソマリアやルワンダと同等

 世界保健機関(WHO)には、日本を含む世界約180カ国が批准するたばこ規制枠組み条約がある(2005年発効)。条約では、飲食店を含む屋内施設を完全禁煙化することによる受動喫煙の防止を規定している。

 WHOによると、公共の場所(学校、飲食店など)で受動喫煙対策を4段階に分けた評価では、188カ国中、英国、ブラジルなど49カ国が最高ランク日本は韓国、エチオピア、ルワンダ、ソマリアなどと並んで最下位グループに属する。

 そもそも日本には屋内禁煙を定める法律がないためで、仮に厚労省案が施行されても下から2番目のグループになるだけで、世界から見れば、今のたばこ規制の議論はレベルが低いという調査結果もある。

 ただ、訪日外国人観光客を対象とした「日本の喫煙環境」調査によると、喫煙者、非喫煙者とも自国よりも「日本の方が良い」と答えた人が6割以上を占めた。日本の分煙対策は現状で世界に誇れるものなのだ。

 国際オリンピック委員会(IOC)とWHOは「たばこのない五輪」を求めている。2008年の北京五輪以降、五輪開催国では罰則付きの受動喫煙対策が取られており、ほとんどが屋内を全面禁煙にしている。東京五輪で海外から大勢の観客が訪れ、日本が“喫煙大国”であることを知った場合、日本のイメージはどう映るだろうか

**********

ルワンダ、ソマリアと同じくらい、国民の生命を大切にしない日本、どうなっているのでしょう。

自民党への不信感、はなはだしいです。少なくとも、東京都ぐらいはまともになってもらいましょう。がんばれ、小池都知事!