忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)。
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最後の最後で…「インファナルアフェア・終極無間」

2005年04月01日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


■DVD:「インファナルアフェア・終極無間」


アンディ・ラウとトニー・レオンという
アジア映画のスターを揃えただけでなく、
緻密に組み立てられたシナリオと大胆な演出で大ヒットを飛ばし、
香港映画の名を世界中に知らしめた「インファナルアフェア」。
ブラッド・ピット製作、マット・ディモン×レオナルド・ディカプリオの共演で
ハリウッドリメイクも決定した「1」が
非の打ち所のない傑作であることは誰もが異論のないところであろう。
続く「無間序曲」が思いの外良く出来ていたことも嬉しい誤算であった。
何の予備知識もなしに本作を観ることは自殺行為にも等しいので
もしご覧になる予定があるなら、前2作を復習(未体験者は予習)してから
劇場に足を運ぶことを強くお勧めしておこう。
私も念のため前2作を復習してから試写を観たのだが・・・

待ちに待った最終章がこれとは、
シリーズファンとしてはどうしても納得がいかない。
映画のジャンルそのものがまるで変わってしまっているのだ。
私は「インファナルアフェア」は人間を描いたドラマだと思っていた。
「踊る大捜査線」のような軽薄な警察モノではなく、
男が痺れる男のドラマだと思っていたのだ。
が、本作は出来の悪いサイコサスペンスのような映画になってしまっている。

停滞を続けていた香港映画が生んだ久々のメガヒット作だけに、
ヒット直後に続編製作が決まったのは当たり前の話かも知れない。
だが、続編を作ると決めたならシリーズの名に恥じない物にするべきだ。
アンディ・ラウもトニー・レオンも出演しなかった
「無間序曲」は、ラウとヤンの若かりし頃を描くことで、
何故潜入捜査官としてマフィア(警察)に身を置くことになったのかが
分かるように作られており、
ウォン警視とヤンの師弟関係を超えた繋がりや
サムの妻に想いを寄せるラウの心情など、
「1」のファンが知りたかった部分にきちんとスポットが当たっていたように思う。

しかし「終極無間」は、
別に知りたくもなかったエピソード無駄に膨らまし、
話の繋がらない部分を新たに用意したキャラクターで補完するという
かなり強引なやり方で辻褄を合わせようとしている。
いただいたプレスシートの中でアンドリュー・ラウ監督は
「『1』のヒット後『2』『3』のプロットが同時に立ち上がった」と語っており、
脚本も担当したアラン・マック監督は
「『インファナル』は当初から『1』と『3』の企画があり、
 『2』の企画は『1』の撮影中に生まれた」と語っている。

ここからはあくまでも予想なのだが、
「1」がヒットしたことで続編制作にGOサインが出たが、
どうせなら三部作にしたらどうだということで「2」を急に作ったのではないか。
「2」で過去の部分を随分と描いてしまったため、
残りのエピソードだけで「3」を作るにはボリューム不足になり、
不要な部分にまで手を出すことになってしまったのではないか。

最大の疑問は、今作で登場するヨンとシェンの二人が
ストーリーの根底を揺るがすほどの重要なポジションにも関わらず
「1」や「2」で描かれていないのことだ。
初めから続編を想定して作られたというのなら、
少しでも顔を出して伏線を引いておいてくれなければ
「実はこういうことでした」と言われても
「そんなのアリかよ」ということになってしまう。
「なるほど、そういうことだったのか」ではなく、
「いかにも取って付けたな」と思わせては失敗だと思う。

「2」で過去を描いたからもう過去に関してのエピソードが残っておらず、
完結編というからにはトニー・レオンを出さないわけにもいかず、
現代の話をアンディ・ラウだけで転がすにはキャラクターの数が足らず、
結果としてヤンが射殺された2002年11月27日を境に
アンディ・ラウとトニー・レオンのバランスを壊さないように
ストーリーが過去へ現代へと無意味に行き来する。
これでは、付き合わされた観客は(悪い意味で)たまらないと思う。

最後の最後でコレとは、もったいな過ぎてお化けが出そうだ。
もったいないお・・・止めた。



■DVD:「インファナルアフェアトリロジーBOX」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:インファナルアフェアIII 終極無間
    配給:コムストック
   公開日:2005年4月16日
    監督:アンドリュー・ラウ×アラン・マック
    出演:アンディ・ラウ、トニー・レオン、ケリー・チャン、他
 公式サイト:http://www.infernal.jp/index_top.shtml
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
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頑張る親父「大統領の理髪師」

2005年04月01日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


■DVD:「大統領の理髪師」


相変わらずもの凄い勢いで流れ込んでくる韓国映画だが、
ハリウッド映画ほどバイヤーの目が鍛えられていないのか、
日本で公開される作品の質にかなりムラがあるのが気になる。
どの国のどのジャンルであれ、アタリハズレは当然あるのだが、
韓国映画はハズレが多い一方、アタリを引いた時は
年間でも5本の指に入るほどの傑作だったりするため
「次こそは」という思いから止められなくなってしまう。

今回紹介する「大統領の理髪師」は「アタリ」だ。
1960年3月の李承晩大統領の不正選挙から
1979年10月の朴正煕大統領暗殺までの約20年間にスポットを当て、
大統領付きの理髪師という、一庶民であると同時に国の心臓部を
覗き見ることの出来る特権的なポジションの男の目線から
圧政により支配されていた当時の韓国を
少しの毒気と独特のユーモアを交えて描いている。

本作では、韓国軍事独裁政権下という時代の「空気」は再現されているものの、
そこで繰り広げられる悲喜交々のエピソードの大半はフィクションである。
映画の重要なウェイトを占めている下痢事件に関しても
実は監督の創作であると後で知った。
エピソードに笑いを誘うものが多いのは、
声高に非難するよりおちょくってやった方が面白いという
イム・チャンサン監督ならではのアプローチなのだろう。
韓国映画でこの手の題材を扱うとどうしても重く、
泥臭くなってしまうのだが、視点をぼやかすことなく、
ここまで軽い味に仕上げたのは素晴らしい。
聞き慣れない名前の監督だったので
過去に何を撮った人なのかと調べてみたところ、何とこれがデビュー作とのこと。
映画の振興に政府が強力な支援を行っている現在の韓国映画事情が
こういった若い監督を続々と生み出しているのだろう。
羨ましい話だ。
「箪笥」「殺人の追憶」「大統領の理髪師」
これらが全て若手の作品だということを考えると
日本は大丈夫なのかと不安になってしまう。

それにしてもソン・ガンホは上手い。
一庶民が大統領付きの理髪師という晴れ舞台に
連れて来られたことによる喜びや戸惑い、
周囲に対する少しの優越感や警護室長への畏れなどが
スクリーンから滲み出ている。
逆らうことの出来ない力と、
逆らってでも守るべき者の狭間で揺れる
ただの理髪師の親父の人生がこれほどまでに胸を打つのは、
ソン・ハンモという主人公をソン・ガンホが演じたからに他ならない。

2002年に公開された「バティニョールおじさん」という
フランス映画があるのだが、
あの映画も歴史の陰で活躍(と言ってもささやかなのだが)した
街の肉屋の親父の話であった。
「大統領の理髪師」は「バティニョールおじさん」に似ている。
体制に異を唱えて奮闘する親父というのは、
どこの国でも愛すべき存在なのかも知れない。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:大統領の理髪師
    配給:アルバトロス・フィルム
   公開日:2005年2月11日
    監督:イム・チャンサン
    出演:ソン・ガンホ(「殺人の追憶」)ムン・ソリ(「オアシス」)
 公式サイト:http://www.albatros-film.com/movie/barber/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
コメント (9)
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