漫画の思い出
花輪和一(19)
『護法童子・巻之(一)』(双葉社)
「旅之七 猫館の巻」
「猫館」の男は、前の「旅」の主人公の成長した姿だろう。
彼は母親に猫可愛がりされたかった。報われない夢を補うために、子猫を可愛がる。ところが、空想の世界で猫可愛がりされている自分自身に嫉妬する。彼は子猫が生長する前に殺す。猫可愛がりされて生長した自分を空想できないからだ。猫殺しの罪滅ぼしのために、彼はノミに血を吸わせる。この苦しみは、幸福な自分を空想できない苦しみの隠喩だろう。
作者の気分は徐々に解れている。だが、まだまだ怪しい。
「旅之八 神なし峠の巻」
護法童子に変身していないときの少年少女の二人が神なし峠に来かかると、老婆が赤子を親元に送り届けてくれるように頼む。
だが、罠だった。
神なし峠では、人々は喧嘩を始める。例の少年少女も例外ではなく、合体できず、化け物に負ける。赤子は、老婆の息子か何かの変身した姿だった。
無理な話だ。母親に虐待された息子が、赤子を演じることによって、母親と和解することを夢見つつ、離れる。
一進一退。作者の人間嫌いが治りかけ、しかし、そのせいで、ぶり返す。しかも、悪化して。ただし、悪化は好転反応だろう。デトックス。膿が出ているわけだ。
老婆と赤子が化け物に戻る様子、変身しないままの少年が霊魂を放って盗み見る。それは、彼の体の女陰のような穴から出て来た。
仲の良い母親と息子は、現実には存在しないが、妄想では存在する。ただし、化け物として、だ。他人に干渉されたら、つまり、理性的に考えたら、二人の関係は即座に破綻する。
女陰のある少年は、片割れである少女を見捨てる。彼女は「あのやろう 一人で自由に させてなる ものか」と、男言葉で彼を呪う。彼女には男根があるのかもしれない。
自立の始まり。「神なし峠」は思春期の隠喩か。
(19終)