過剰反応?
しかし,アスベストの脅威に対する異常なほどの過剰反応が見られることを非難する科学者も少なくありません。
彼らの主張によれば,一部の科学者がその危険について大げさに言うために“繊維恐怖症”なるパニック状態が広まり,良い影響よりも悪い影響が生じているというのです。
例えば,バーモント大学医学部のブルック・モスマンが主宰する科学者のチームは報告書をまとめ,それはサイエンス誌(英文)に載せられました。
モスマン女史とその同僚は,オフィスビルや学校からアスベストを撤去するために莫大なお金が費やされていることを非難しています。
それは多くの場合,吸ってもほとんど危険がない,少量のアスベストまで避けようとするからだと彼らは言います。
実際,彼らの主張によれば,アスベストの撤去を予定している幾つかのビルでは,現に外部よりも内部のほうが空気中のアスベスト量が少ないとのことです。
引き合いに出された統計からすると,子供たちにとってはそういう少量のアスベストより,自転車に乗ることや,たまに来る稲妻のほうがはるかに危険です。
その上,アスベストの撤去工事には,あわてて取りかかってずさんな仕事をしたために,粉じんをかき回すことによって実際にはビルの中のアスベスト量を増やしてしまったケースも少なくありません。
そういう場合は,アスベストをそのままにして密封するだけのほうが安全だったでしょう。
さらに,ヨーロッパの幾つかの国がアスベストに関する法律の中で認めているように,あらゆる種類のアスベストに針の形をした同じ繊維があるわけではありません。
温石綿は,もっと長い,うず巻き状の繊維でできており,このほうが容易にひっかかって肺から排出されます。世界中で産出されるアスベストのおよそ95%はこの温石綿です。
中皮腫の大半を引き起こしていると思われる角閃石はごくまれにしか使われていません。
モスマンとその同僚はさらに,『繊維一本説』,つまりアスベストの繊維は1本だけでも死を招くことがあるという考え方を退けています。考えてみれば,アスベストは天然資源です。
サイエンス誌のある編集員によれば,どんな人でも毎年約100万本の繊維を吸っています。
しかし,これらの点を挙げても,すべての科学者がおとなしく引き下がるわけではありません。
1964年にアスベストの害について画期的な研究をしたアービング・J・セリコフ博士は,アスベストを少量浴びるだけでも非常に危険性があると主張しています。博士と同意見の科学者は少なくありません。
そのような科学者は特に学校の校舎について心配しています。校舎内のアスベスト量を測るだけでは意味がないと彼らは言います。危険なのは,絶縁体で覆われたパイプやボイラーのような,アスベストが集中するごく限られた一定の場所だけだからです。
好奇心旺盛ないたずらっ子たちはよくそういう場所を見つけてはかき乱します。そうなると,守衛や用務員はアスベストを定期的に浴びるかもしれません。
温石綿の害についても科学者たちの意見は一致していません。1990年の春に開かれた科学者たちのある国際会議は,サイエンス誌に載せられたモスマンの報告に対する回答として,温石綿は他のアスベストと同じほど有害であると言明しました。
その上ある人々は,アスベストの危険性を過小評価する科学者はアスベスト業界に利用されているに過ぎず,中には業界から金をもらって法廷で証言する科学者もいると批判しています。
貪欲という要因 へ続く>>>