とある夏の日。
藪から棒に男たちは刈りを始める…。
爽やかな出で立ちとは裏腹に、血走った眼の浅黒い肌をした男が二人、庭を眺めていた。
その背中には数々の修羅場を掻い潜ってきたであろう殺気めいたものが漂っていた。
ふと兄貴分らしき男は不敵な笑みを浮かべ、弟分にぼそりと呟いた。
「よう生えたもんじゃ。…なあヤマ」
「ほうじゃのう、アニキ」
何の気無しに頷いたヤマであったが、その刹那何かを察したらしく、
瞬く間に顔は青ざめ、額から脂汗を垂らしていた。
「……。まさかアニキ、まさか…」
「おう、そのまさかじゃ。ヤマ、おんどれビビっとるんじゃなかろうのう」
「いや、そがなぁこと…。今までアニキとどれだけ危ない橋を渡ってきたか。
忘れたとは言わせませんぜ」
心の内を見透かされ、動揺したヤマであったがすぐさま切り返した。
彼には単なる後輩ではなく、長年苦楽を共にしてきた仲間であるという自負があったのである。
一方、覚えがあったのか内心怯んだアニキであったが、そこは経験の差なのかそんな様子はおく
びにも出さず、むしろより強気に打って出た。
「何を言うとるんじゃ。かばちたれるな。ほれ、とっとと準備しんさい!」
「へい…」
不満げな表情のヤマであったが、上下関係の厳しい世界。とどのつまり、先輩に従うしかない。
「ええいッ。やけくそじゃ」
腹を決め、段取りにかかるヤマであった。
さっそく刈りを開始した二人だったが、武器の選択にも違いが見られた。
小ぶりな刃物を手にしたのはアニキ。見た目こそ奥ゆかしいが、殺傷能力が高いうえに手になじん
で扱い易く、サツにも目をつけられにくい。ベテランゆえのチョイスと言えよう。
一方ヤマはと言えばこちらも小ぶりで目立たないが、より硬くて太い部位も断つことの出来る
バラシにはうってつけの凶器を選んだ。
邪魔するものは容赦しない。断つべし。断つべし…。
そして刈ったブツはおカミに咎められぬよう、処理しなければならない。
目指すは完全犯罪である……。
「アニキ、こんなんでええじゃろか」「そうじゃなあ…」
「よし、終わりじゃ。引き上げるぞ」
「へいッ」
始末を終え、額の汗を拭うと男たちは何事もなかったかのように、静かに姿を消した。
かくして男たちの刈りは終わり、インディペンデンスヴィレッジ成城西の美化は守られた。
すると待っていたかのように蝉がけたたましく鳴き始めた。
季節は足早に駆けていく。
今日も暑くなりそうだ。