4シーズンに渡った「高い城の男」も11/15で完結となった。
シーズン4になって木戸刑事の息子とか新しく出てきてどうなるもんかと思ったが、ぴったり完結するのではなく、一区切りついて彼らの物語は続く…という感じに収まったと思う。
シーズン3でジュリアナが平行宇宙にワープしたり、パラレルワールドの話が出てきて唐突にSF感出てきたなあと思ったが、よく考えてみれば原作小説はハヤカワ文庫だし、そもそももしドイツと日本がアメリカを占領して世界の覇権を二分したら…という設定がSFなので、そういう意味で原点に忠実になったと言える。逆にSFだと思わないほど、運命の歯車が狂っていったジュリアナと婚約者のフランクなどの登場人物のヒューマンドラマが丁寧に描かれていたと思う。まあこの言い方はSFがまるで人物描写をおざなりにしているようになるので失礼だが、それくらい謎のフィルムをめぐる権力者や反逆者たちの人物相関図が張り巡らされていて、シーズン2でフィルムの秘密が明かされる段になってSFだったことを思い出したようにパラレルワールドとか話が飛躍したので当初面食らったのだ。
この作中の登場人物に清い人はいない。ジュリアナも身柄を襲われる中で殺人に手を染めていくし、フランクはレジスタンスとして爆弾テロを起こした。ドイツ帝国側の主人公とも言えるスミスは非情な命令を幾度も下しドイツ帝国のホロコーストに荷担した。ただひとり田上はそうした場面がなかった。その一方平行世界へのチャネリングによって妻を亡くさなかった世界・連合国が勝利した世界を知って、ドイツとの直接対決に至る日本を止める為に立ち回っていた。
思い返してみればシーズン3は田上の回想というか平行世界での暮らしぶりに時間が結構割かれていたような気がする。ジュリアナがフィルムを見せて回るレジスタンス活動をしている所も描写されるが、家族で平穏に暮らそうとしながらどんどん権力に締め上げられているスミスの悲喜こもごもとスイッチしながらの場面展開だったので、がっつり1エピソード使って平行世界体験している田上の描写が長く感じた。
そしてシーズン4では田上に変わって平行世界に行って焼却した息子に会いに行くスミスの描写が長く割かれていた。シーズン4ではスミスとその家族の流転がとりわけ印象に残るような感じで、前半平行世界に行ったジュリアナが向こう側のスミスとその息子に出くわしてしまうくだりが余計ふたつの道を選んだスミスを見せられたように思う。シーズン4を見終わった時に思ったのが「ジュリアナやりきったな」ではなく「スミスかわいそう」だった。俺は幸せになりたかっただけなのに…というフレーズが思い浮かぶ。栄達より家族に良い暮らしをさせるために地位を求めていたら、なんか世界の重大な秘密を知ってしまい社会のシステムによって息子を喪うことになり家族も分裂していった、結果…という、ジュリアナ達はスミスがラスボスみたいに言ってるけどそこまで共感できないのがなんとも。これがフランクの死の原因にスミスがいるなら仇としてわかりやすいものの、実際フランク一族の仇は木戸なのでスミスを恨むのは御門が違う。ドイツ帝国の分裂縮小と日本の縮退、平行世界へのナチス侵掠が破壊されて世界から魔の手は去った…というのがハッピーエンドというのは事実だが、どうしてもスミスの娘はどうなるんだろうとか考えてしまう。本当ならシーズン2から革命戦士になったジュリアナがフランクたち喪われた人たちに対して「終わったよ…」という安堵を持つことに共感しても良いのに。まあ日本もドイツも普通に健在だし木戸も生きてるし、全然終わってないと言うのもあるが、そもそもジュリアナの心理描写がない、というか使命の為に思考し実践するというシステマチックな面しか見えないのに対して、木戸の不器用な親子関係とかスミスの家族を守りたいが足抜け出来ないとかのまごついた煩悶を見せられると、ジュリアナが相対的に無機質に感じてしまった。
だが、どう終われと?こうだったらよかったとか言い難い。しかし感動したとか安堵したとかいう感情とは遠く、なるべくしてなったなあ…という何とも言えない気分が残るだけだ。
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