☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『HAZARD』(2002)

2014年06月14日 | 園子温監督☆映画
『HAZARD』(2002)

監督:園子温
シン:オダギリジョー
リー:ジェイ・ウエスト
タケダ:深水元基
椋名凛
萩原明子
村上諭
石丸謙二郎
ウォン:池内博之

【作品概要】
撮影から4年たってようやく公開される、オダギリジョー“幻の”主演作。退屈な毎日を嫌い、NYに渡って一獲千金を夢見る、あぶない男の熱い青春ドラマだ。
1991年、日本。「退屈なだけの日曜日、どこへ行こうか」シン(オダギリジョー)は平凡な学生生活を送っていた。恋人との冷めた関係、退屈なクラスメート、希薄なリアル。なにも無い日常から一刻も早く抜け出したかった。そんなある日、大学の図書館で彼は「地球の危険な歩き方」という1冊の本に出会う。そこでNYの犯罪都市「HAZARD」について書かれたページを目にする。眠たい日本を飛び出す覚悟を決めたシンは、その本を手に握りしめ、走り出す。(Movie Walkerより)


【感想レビュー】
観ていて、真っ先に思ったのは、『アートフル・ドヂャース』や『すべては夜から生まれる』の空気感。

バブル崩壊後の日本の若者の閉塞感が描かれています。希望を見出せなくて、別の場所に何かを求める自分探しの旅…モラトリアム。
作品の中で、“眠過ぎる日本。だけど、眠れない日本。”というナレーションが何度か入るのですが、何て端的に心情を表しているのだろう!…と思いました。

アメリカ人と日本人のハーフのリーは、アイス屋を営んでいて、間接照明が映えるとってもお洒落な部屋で暮らしているのだが、オダギリさん演じるシンがベッドから起き上がったら、そこは羽毛だらけの荒れたベッドだった…。さっきまでは輝いて見えていたのに…!
深水さんの演じるタケダは、いつアメリカに来たのかさえよく分からない人物。よく分からない者同士だけど、シンパシーを感じて一緒につるんでいる。
このつるんでいる三人の画が、とてもバランスが良くて、素敵です。身体全体で爆発的なエネルギーを表現していてます!!アクションシーン…イイっ‼
衣装もとってもお洒落
対岸から摩天楼を三人で眺めるシーンが何度か出てくるのですが、うず高く積まれた廃棄物の山、詩を朗読するリーとシン。心象風景が画で表現されていました。青臭い感じがかえってイイ…‼
もどかしいながらも、持て余しているエネルギーに、若者たちの若者ゆえの輝きを感じる。まるでむき出しの感性が歩いているよう。
冒頭の音楽…格好良過ぎます…!!
ボリュームが大き過ぎて、オダギリさんの声があんまりよく聴こえないのだけども

ニューヨークのカラフルなネオンをボカした映像も、動きのあるカメラワークも、何か街の勢いを感じさせるし、登場人物達が感じているニューヨークのイケてる空気感が伝わってくるようです。
終始、とにかく格好良い映像と魅力的な役者陣と音楽に魅了されっぱなしでした

園作品の中でもかなり好きな作品になりました

【追記】
観て数日経って、あのベッドから起きたら羽毛だらけだったシーンは、眠い日本を飛び出して来たはずのシンのニューヨークでの未来を暗示しているニュアンスの方が強いのかなぁと色々思い始めた。少年時代のシンの心象風景。飛びたいけど、飛べない。→飛べたけど本当は飛べて…ない?→などなど。
やっぱりラストの終わり方も好きだなぁ


『真木栗ノ穴』(2007)

2014年06月11日 | 西島秀俊さん☆映画
『真木栗ノ穴』(2007)

監督:深川栄洋
真木栗勉:西島秀俊
水野佐緒里:粟田麗
浅香成美:木下あゆ美
沖本シズエ:キムラ緑子
佐々木譲二:北村有起哉
細見貢:尾上寛之

【作品概要】
山本亜紀子の「穴」を映画化した異色ファンタジー。現実と妄想の間で展開する不可思議なストーリーが深い余韻を残す。
築40年の安アパートに暮らす作家の真木栗勉(西島秀俊)は、ある日部屋の壁に隣室をのぞき見できる2つの穴を発見。片方の部屋には若い男が住み、空いている部屋に若い女が引越してくるのを期待した彼は、その妄想を小説に書き始める。期待通りに女が越してきたとき、真木栗は毎日のように穴をのぞき、その女のとりこになっていく…。(Yahoo!映画より)

【感想レビュー】
もうこの作品は大大大好きで、もう何回観たのか分からない位ですけども、毎回毎回、新しい発見があります

鎌倉がロケ地で、釈迦堂・切り通しや江ノ電、極楽寺周辺が出てきますが、時代設定が曖昧な感じもいいのです。
真木栗先生や沖本シズエ(キムラ緑子)さんの衣装を見ていても、もっと昔に見せているけど、80年代くらいかな…などと観ていると、雑誌に“ITの革命児”の見出しが出てきて、えっ⁉っと思っていたら、部屋のカレンダーの西暦がしっかり映されていました。なんと2007年…。…してやられた…。

現実と幻想の境界線が曖昧で、フワッとしています。展開に沿って観ていくと、違和感に感じる点が幾つもあるのですが、観終わった後に、あのシーンのあの演技や雰囲気は、そういうことだったのか!…と合点がいきます。
とはいえ、それでも尚、判然としない点はありますが、そここそが醍醐味で、それを楽しむ映画です

冒頭と最後のシーンが同じで、作品の世界がループするような印象を持ちます。
ラストには電話の鳴る音が入っているのですが、呼ばれている感じが、なんだかドキっとします。どこに、誰に呼ばれているのか…。

深川監督も西島さんも仰っていますが、美術が本当に凄いです、素晴らしいです。
低予算映画という事ですが、ちっともチープな感じがしないのです。真木栗先生のお部屋

そして!真木栗先生のシワシワの五千円札も、クタクタのジャケットも、ヨレヨレの茶色いパンツも、…いいっ!
話し方やそのイントネーション、語尾の感じ、仕草、表情、などのすべてが真木栗先生を描いていて、惹き込まれます

『深川監督に全シーン徹底的に演出された』と西島さんが仰っていますが、ユニークな真木栗先生のキャラクターが、サスペンスともホラーともつかない不思議なこの作品の中で、とっても魅力的に生きています。クスクス笑いながら観てしまいますから

そして、劇中音楽のピアノがとっても素敵でした
DVD特典で、映画に音を入れる様子があるのですが、演奏者が映像を観ながら演奏するスタイルで、興味深かったです。


冒頭シーンの台詞↓
『例え白日夢であったとしても、掴んだ手を離したりはしない。なぜなら、私たちは誰もが孤独であり、その命は刹那で、儚いものだから。』


『グランド・ブダペスト・ホテル』(2013)

2014年06月09日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『グランド・ブダペスト・ホテル』(2013)

監督:ウェス・アンダーソン
ムッシュ・グスタヴ・H:レイフ・ファインズ
ミスター・ムスタファ:F・マーレイ・エイブラハム
セルジュ・X:マチュー・アマルリック
ドミトリー:エイドリアン・ブロディ

【作品概要】
格式高い高級ホテルを取り仕切るコンシェルジュと、彼を慕うベルボーイが繰り広げる冒険を描いた群像ミステリー。常連客をめぐる殺人事件と遺産争いに巻き込まれた二人が、ホテルの威信のためにヨーロッパ中を駆け巡り事件解明に奔走する。(Yahoo!映画より)

【感想レビュー】@theater
どこから書けばよいのか分からないが…、結論から言うと、面白かったです

でも、大好きだー!って思うところと、うーん…好みでない…
って思うところが一つの作品にも関わらず、数多く混在して、目まぐるしかった…というのが正直なところです。
高速紙芝居を、ほとんど息つく暇もなく観た…!!という感じ。

確かに圧倒的な世界観に、どこを切り取っても画になるデザインでした。
画の事でいうと、やはり印象的なのは左右対称、シンメトリーです。
これは、ベルサイユ宮殿に代表されるような、ヨーロッパ人の美的感覚だと思うのですが、遠近感を感じれば良かったのですが、この映画では、きっとあえて表面的な画にしているので、それが高速で展開された時に、思わず酔ってしまったのです…

情報量の多さに、半ばイライラしたりもしたりして…

なんでしょう…スクリーンに向かって左斜めの角度で観ていたからかもしれません…。(真ん中に座れば良かった…)

しかしそうかと思うと、見応えたっぷりの衣装にウキウキしたり、シュールな台詞のやり取りにワクワクしたり、指が跳んで、ヒッ!ってなったり、移民の悲哀にハッと胸を突かれたり…。

何なんだ、もう完全にコントロールされている…

うーむ!ってなったところで、今度は高速ソリ滑り!!
カタルシスが半端ないです。

エンドロールの音楽とコサックダンスをするおじさんが可愛かったです

情報量が多過ぎて、もう一度観なきゃ分かっていないところが多々ありそうですが…こんな感じでした

『Strange Circus 奇妙なサーカス』(2005)

2014年06月08日 | 園子温監督☆映画
『Strange Circus 奇妙なサーカス』(2005)

監督:園子温
尾沢小百合/三ッ沢妙子:宮崎萬純
田宮雄二:いしだ壱成
尾沢美津子(小学生時代):桑名里瑛
尾沢美津子(少女時代):高橋真唯
不二子
編集長:田口トモロヲ
大口広司

【作品概要】
 「自殺サークル」「夢の中へ」の鬼才・園子温監督が、近親相姦や児童虐待を題材に、ひとりの女の歪んだ愛の行く末を華麗かつ淫靡に綴る禁断のエロティック・ミステリー。小学生の美津子は実の父親・剛三に犯され続けていた。しかし、それが忌むべき近親相姦と自覚することはなく、ただ心だけが壊れていく。妻・小百合は、そんな夫と娘の関係に激しい嫉妬覚え、娘への虐待を繰り返す――。一方、倒錯したエロスの世界を描く車イスの人気女流作家・三ッ沢妙子。新たに担当となった編集者・田宮雄二はそんな妙子に気に入られるのだが…。(Yahoo!映画より)

【感想レビュー】
またしても!またしても、園ワールドを惚れ直す結果となりました…

文学、音楽、美術、あらゆる芸術の分野を融合させ、監督自身の観念的なテーマを浮き上がらせていくスタイル。
それでいて、映画としてのエンターテイメント性もたっぷり兼ね備えています

とにかく、全体の構成が素晴らしく、いつも思うのですが、まるで交響曲を聴いているような心地になります。
ラストに向けて、盛り上がり加速していくところなんかも、まさに…

園作品で繰り返される、肉としての“本当の自分”と、容れ物としての“身体”のテーマに加えて、親子間の愛憎が描かれています。
…が、そういった事だけでもないような気がします。
つまり、母と娘、父と娘、妻と夫、男と女、自己と他者。というモチーフを使いながら、常に相対する二つの物事の関係を描いている気がします。
例えば…光と影、享楽と禁欲、真実と虚偽…などの表裏を描いているように思えるのです。

それは、劇中の画や台詞でしばしば可視化されます。
・赤い世界と白い世界。(赤い背景と白い背景、赤い衣装と白い衣装など)
・『私は母であり、母は私。』
・バッハのチェンバロ協奏曲 第5番 ヘ短調 第2楽章に乗せて、サーカスの『ショウタイム』の時の音楽が重なるところ。

園作品を形容する時によく言われる『エログロ』も、もちろんあるが(本作はそこが沢山出てはきますが)それはいつもながら、あくまでも一つのパートに過ぎません。

あらゆる煩悩や情念が渦巻きますが、これまたバッハのG線上のアリアなどのクラシックが劇中音楽に使用され、浄化していくようです。
昨年観た、モーリス・ピアラの『愛の記念に』を思い起こしました。

また、宮崎ますみさんやいしだ壱成さんが素晴らしかったです。
まるで、憑依しているみたいでした


色々とショッキングなこの作品ですが、圧倒的な画力がとっても映画的な魅力を放っていて、私は好きです

冒頭の一説↓
『その首を盆にのせて持ち来らしめ、これを少女に与える。少女はこれを母に捧ぐ
いま、首断役人は血に染んだ長剣の柄頭に手をかけ無感動な表情で立っている。
彼女は正真正銘の女である。火のように激しい残酷な女の気質に、そのまましたがっている。』
『さかしま』ユイスマンス








『丘を越えて』(2008)

2014年06月05日 | 西島秀俊さん☆映画
『丘を越えて』(2008)

監督:高橋伴明
菊池寛:西田敏行
細川葉子:池脇千鶴
馬海松:西島秀俊

【作品概要】
作家・猪瀬直樹の小説「こころの王国」を、『火火(ひび)』の高橋伴明監督が映画化した人間ドラマ。文芸ジャーナリズムの基礎を築いた作家・菊池寛と、彼の私設秘書、朝鮮貴族出身の青年の交流を通し、それぞれが激変する時代の波に立ち向かっていく姿を描く。大衆文化が花開いた昭和初期の風俗を再現した衣装や美術、全編に流れる昭和歌謡の数々も魅力。

女学校を卒業して就職先を探していた葉子(池脇千鶴)は、文藝春秋社社長の著名な作家・菊池寛(西田敏行)の私設秘書に採用される。下町育ちの葉子にとって、菊池を取り巻く世界はまばゆいばかり。日本の大衆文化の創造に乗り出す菊池にあこがれつつ、葉子は朝鮮の貴族出身の編集者・馬海松(西島秀俊)にも惹かれていく。(Yahoo!映画より)


【感想レビュー】
久しぶりに観ました
これも好きな作品で、レンタル後に、DVDを購入していたのですが、いつもながら手元に来て、しばらくパッケージを眺めているうちに満足する癖が…

好きなところが沢山ある作品です
監督が仰っていますが、役者陣が素晴らしいこと!
菊池寛を演じる西田敏行さんが、とってもキュートです
葉子と馬海松の空気を感じとって、ちょっと妬いた時にホッペがプクプク膨らむとことかなんなんだ、あの可愛さは
だらしない肉体、情にほだされる人間くささ、そして、葉子に、才能を磨くようにと多めにお給金を支払うきっぷの良さ。その魅力的な人物を、説得力ある存在感で演じる西田敏行さん…

池脇千鶴さんの葉子も、素晴らしいです。天性の小悪魔ぶりな感じが実にキュートです

この濃ゆいお二人に対して、ひき算の演技で応じる佇まいの美しい西島秀俊さん…。ハットが似合い過ぎる…。祖国の事を語る時の燃えるような眼差しが、良かった。菊池寛と対峙するシーンも痺れました!
蹴りのアクションがシャープで格好良かったし…。うーん!やっぱり馬さんにしか見えない…。

特典の舞台挨拶編にありましたが、監督や猪瀬さん曰く、昭和初期当時の日本人が抱いていた朝鮮の人への感情、朝鮮の人が抱いていた日本人への感情というのが根底にある、それありきの作品であるとのこと。

しかしながら、そういう歴史のしがらみとは、まるで無縁のような葉子。
菊池寛と馬海松の間を、自覚的か、はたまた無自覚かは分からないが、たゆたうのさえ楽しんでいるようだ。ここが、この映画の醍醐味でもあるのだけども!

関東大震災を経験し、第二次世界大戦前の不穏な空気がある、そうした背景がありつつも、モダンファッションや生活に根ざした文学が花開いていた時代。何か強い日本人像を感じます。

見所は、レトロな美術にしっくり馴染む役者陣です‼