角灯と砂時計 

その手に持つのは、角灯(ランタン)か、砂時計か。
第9番アルカナ「隠者」の、その俗世を生きる知恵を、私にも。

#170 『イエメンで鮭釣りを』・・・実際ありそうな話になっているところがスゴイです。

2016-10-23 06:56:22 | ぶらり図書館、映画館
『イエメンで鮭釣りを』ポール・トーディ(小竹由美子)白水社2007
http://www.hakusuisha.co.jp/book/b206348.html



もう2ヶ月以上前のことなのですが、
Facebookで池内恵さんがこの本を紹介なさいまして、


(→https://www.facebook.com/satoshi.ikeuchi/posts/10205538854749778

ちょっと良さそうだなあと思い、図書館で借りたのですが、
いや、実際面白かった。

ちなみに原題は“Salmon Fishing in the Yemen”で、ま、そのまんまです。


〈前代未聞の計画に翻弄される人々の夢と挫折を描く、ほろ苦い笑いに満ちた快作〉

なんて惹句が裏表紙にあり、続けて、

〈アルフレッド(フレッド)・ジョーンズ博士は、研究一筋の真面目な学者。水産資源の保護を担当する政府機関、国立水産研究所(NCFE)に勤めている。ある日、イエメン人の富豪シャイフ・ムハンマドから、母国の川に鮭を導入するために力を貸してもらえまいかという依頼がNCFEに届く。
フレッドは、およそ不可能とけんもほろろの返事を出すが、この計画になんと首相官邸が興味を示す。次第にプロジェクトに巻き込まれていくフレッドたちを待ち受けていたものは?〉


というストーリー紹介があります。

体裁としては、池内さんも触れてらっしゃるとおり、

〈手紙、eメール、日記、新聞・雑誌、議事録、未刊行の自伝などさまざまな文書から、奇想天外な計画の顛末が徐々に明らかにされていく〉

ツクリになってます。

イエメン(アラビア半島)に鮭を導入するなんて、
それはまあ、はなはだ荒唐無稽な話なのに、
リアルにありそうな話にしてしまっているところがスゴイなあという、
そういう「小説」です。


〈偉大なる夢は、叶ったかと思われたときにプチンとはじけて、すべては水疱に帰し、けっきょくフレッドは、世間的に見るならばスタート地点よりずっと下までずり落ちてしまうのだが、しかし彼はそれを補って余りあるなにか大切なものを得たようにも思える。小説の冒頭で、安定はしているものの索漠とした生活を送っていた中年男は、最後の部分では、満更やせ我慢でもなく、けっこう自足しているように見えるのだ〉

と「訳者あとがき」にありますが、

主人公のアルフレッドは、終盤、

〈新刊書を買うお金はありません、ですが、もうすでにいい本がごまんと書かれているんだから、新しいのを買う必要はないような気がしましてね〉

なんて呟きながら、
それでいて、

「私はそれを信じる。なぜならそれが不可能だからだ」

というお気に入りの言葉を披露してもいます。


あと冒頭に、著者さんが、

〈この本を、輝く陽光のもと、
浅瀬で鮭を捕らえることのできる妻のペネロペ、
タインやテイでともに釣りを楽しむ友人たち、
そして、我が国の河川における魚数激減を食い止めている
環境庁職員の方々に捧げる〉


という献辞を付けています。



ところで、この小説、
映画にもなってるということで、
そちらも観てみました。

映画『砂漠でサーモン・フィッシング』予告編



シャイフは、小説でも好人物ですが、
映画では、さらに磨きがかかってイイ男なってました。


だが英国人は謎だ
富者は貧者を恐れ 貧者は富者を恐れる
政治家たちは わざとくだけた喋り方をしたがる
実に不思議だよ

風雨や寒さに耐え ひたすら待ち続ける
成功の見込みはわずかなのに なぜ?
あなたに信じる心があるから

私は人々に プロジェクトを理解してほしかった
釣りだけが目的ではないと知ってほしかった
つまり 私は彼らに求めすぎたのだ



そんなセリフをのたまうシャイフの運命を含め、
小説とは結末が違ってて、いかにも映画的にまとまっていますが、
ま、それはそれで良いかなあと思います。

決して「コメディ」ではないのだけれど、
全体として何物かのパロディになっているという、
それでいて「faith(信心)」を強調してもいる、
ちょいと不可思議な映画です。


どちらを先に? と聞かれたら、
とりあえず小説を先にした方が(両方を)楽しめると思います、
と答えましょう。


さて、お次は『シン・ゴジラ』。
いつ観ようかな?

『シン・ゴジラ』TVCM②


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