(ABCテレビ ホームページより)
家庭での暴力や学校でのいじめにあい、生きる希望をなくした14歳の少女は、死の直前にマスクの男に救われます。行き場のなかった少女は、生まれて初めて好きだといってくれたマスクの男に、そしてマスクの男はこんな自分に感謝してくれる少女に、興味を持ち始めます。
少女は、両親につけられた名前を捨てて、「お兄さん」と呼ぶマスクの男につけてもらった「幸せになるように…幸(さち)」の名前に縋(すが)って、逃避行を始めます。それは、少女にとっては一縷の望みをかけた生活の始まりでした。極限状態の中、生と死のはざまで揺れながら、葛藤しながら、少女は束の間の幸せを探し求めていきます。
*ABCテレビ:幸色のワンルーム
→https://www.asahi.co.jp/sachiiro/
というドラマなんだそうです。
が・・・
〈テレビ朝日は18日、7月に開始予定だった連続ドラマ「幸色のワンルーム」の放送中止を決めた。〜〜〜同社広報部は「改めて精査した結果、総合的な判断として放送を見送ることにした」としている〉
*Web産経ニュース:テレ朝がドラマ中止 女子中学生誘拐事件肯定と批判も
→https://www.sankei.com/entertainments/news/180619/ent1806190001-n1.html
これまた「またかよ」ですわ。
テレビ朝日は「総合的な判断」なんて言ってますけど、要するに、
〈14年に埼玉県朝霞市で誘拐された中3少女誘拐事件をモデルに創作したのではないかとの臆測がSNS上で広がっていた。〜〜〜「テレビ局の中でも特に民放キー局は、スポンサーからの抗議にとても敏感になっている」〉
*日刊ゲンダイDIGITAL:「幸色のワンルーム」問題 テレ朝とABCの対応が異なるワケ
→https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/231651/1
ということが放送中止の理由かしら?
ま、主に広告収入で成り立っている「民間企業」として「世間」の顔色を窺うのは致し方ないことなんでしょう(と一応TV局側にも寄り添ってみる)。
けれど、じゃ、その「世間」(といっても、もちろん「みんな」ではない)の批判は当たってるのかしら? 『幸色のワンルーム』って、実際に「誘拐を誘発したり肯定しかねない」ものなの? ということで、ちと探ってみました。これから放送されるドラマは評価のしようがないので、とりあえず原作の方で。
東京都〇〇区にて中学2年生の✕✕✕さん(14)が 今月22日より行方不明のまま一週間が経過しました。
警察は誘拐事件の可能性もあると見て 捜査を続けています。
ねえ! 私のことがニュースになってる!! 誘拐の可能性だって!! お兄さんは私を助けてくれたのに!?
そうだねぇ・・・でも 誘拐したのは本当だしねぇ
**PIXIVコミック:幸色のワンルーム 第01話-①
→https://comic.pixiv.net/viewer/stories/21115
物語の冒頭、ネームだけ拾うとこうなるんですけど、どうなんでしょう? 掴みとしては、いい線いってるってところ?
それなりに面白かったので、ワタクシついうっかり、ネットで読める範囲は全部読んでしまったんですが・・・
いやいや「件の事件をモデルにしてる」のかもしれないし、そうでないかもしれない、「誘拐を肯定し誘発しかねない」のかもしれなし、そうでないかもしれない、いずれも受け手の感性次第ではないかというのが正直なところです。ワタクシ自身は、どちらに関しても「へ?」という感じですが。
アレとコレとを無闇に関連付けて傷ついたって叫ぶ人や煽る人、そういう優しい人達に限って批判を恐れ先回りして自主規制に走るってことですかね(で、その不自由を人のせいにする)。
こんな記事がありました。
マンガや小説といった創作作品はもともと、社会の中で埋もれている問題を掘り起こしたり、個人の葛藤や時代を象徴する出来事が描かれるものです。主人公は自分の意志を持った個性的なキャラが多い。
こうした前提を踏まえて『幸色のワンルーム』をみると、虐待、いじめ、孤独といった現代の闇をギュッと詰め込んだ作品だとわかります。作品のファンは、孤独やとまどい、大切に思い合える相手や居場所を見つける喜びに共感していて、「誘拐」というレトリックにこだわる人は少数でしょう。
実際に事件になった事柄を創作物にしてはいけないなら、殺人や詐欺、窃盗など、今現在公開されている多くの作品はNGです。ほかの事件は許されるけれど『幸色のワンルーム』は許されないのでしょうか。もしくは「人を傷つける可能性のあるもの」はすべて禁止するべきなのでしょうか。
*女子SPA!:放送中止のドラマ『幸色のワンルーム』は、そんなに危険な話なのか?
→https://joshi-spa.jp/859271
おー、素晴らしい。ほぼ同感です。
が・・・
記事は続けて、
とはいえ、もしも実際の事件の関係者が本作によって傷つかれたなら、それは大きな問題ですし、尊重されるべき感情です。
騒動になった要因としてひとつ感じるのは、この作品が当初pixivで公開されたということです。これがもし商業誌なら、企画の段階で編集が、実在の事件がモデルだと批判されそうな要素を注意深く取り去ったかもしれません。
〜〜〜
書籍出版やドラマ化の際には、多くのスタッフが作品を実際に読んで評価をしているはずです。そこで問題にならなかったのは、作品のテーマが誘拐そのものであったり、事件を彷彿とさせたり、揶揄してはいないという判断があったからこそだと推測します。
それでも関東での放送が中止になったのは、一部世論を重視したことに他なりません。ただ、ドラマそのものの制作・放映が中止になったのではなく、一部地域での放送中止は、適当な妥協点だったのかなと思います。
なんて、ちょっと要らんことを言っちゃってます。
中庸を狙ったつもりなのかもしれませんが、一部地域といっても、その地域在住の人にとって視る視ないの選択肢はないわけで、つまりゼロ回答。「適当な妥協」でも何でもありません。
世の中、どんな作品であれ、それによって傷つく人は少なからずいるでしょう。というか、傷つける意図をもってするのは間違いだとしても、結果として誰かを傷つけることを恐れていたら何にもできないよって話もあるわけで。
ともあれ、
家族とは、真の友人とは、社会とは、普通の生活とは、そして幸せとは…。
現代社会が抱えるさまざまな問題をテーマに、真正面から問いかけていきたい。
(ABCテレビ)
というドラマ、
〈役者や制作陣は作品性を高めて、“見送り”にしたテレ朝をギャフンと言わせるしかない〉
(日刊ゲンダイDIGITAL)
ですから。
頑張ってね。
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
ところどころ話が飛んだりしますが、サクサク読めます。
*PIXIVコミック:幸色のワンルーム
→https://comic.pixiv.net/works/3174
こんな記事もありました。放送中止決定前のものですが、なかなか興味深いです(結論部には必ずしも同意してません)。
*Hatena Blog:「幸色のワンルーム」は許されるのか~誰が彼女を監禁しているのか?
→http://rainbowflag.hatenablog.com/entry/2018/06/03/204703
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
6/27日、以下、あまりにも面白かったので追記します。
「『誘拐ドラマがダメなら、殺人ドラマも強盗ドラマもダメってこと?』と言う人がいますが、ここには決定的な違いがあると思います。殺人や強盗は『悪いこと』という共通認識、不動の前提がある一方、誘拐に関しては『悪いこと』と認識しない人がいるのです。例えば、現実で殺人事件が起きたときに、『殺害された方も喜んでる』なんて言う人はいませんが、女の子が誘拐されたとき、『誘拐された方も喜んでる』『家出した女子を家にかくまっただけ』『女子も男の心につけこんで、いい思いをしていた』などと言う人が出てきます。『誘拐は、被害者の意思に反している』『被害者は、怖くて誘拐犯から離れられなかった』という当たり前のことを、当たり前だと思えない人がいるのです」
とにかく、誘拐だけは特別、誘拐だけは違う、誘拐だけはダメ、だから『幸色のワンルーム』はダメ、という理屈になるらしい太田啓子さん。
サイゾーウーマンの取材に答えてのことらしいんですけど、これがまた、放送中止派にとっては「過不足なく論理的」「言いたいことを全て言ってくれた」ものに読めるんだそうで、いやあ、ちょっと困ってしまいますね。
『幸色のワンルーム』原作を読んだ上で、これは誘拐がテーマだと(そうじゃないと思うんだけど)、誘拐を肯定していると(そうじゃないと思うんだけど)、そのように受け取るのは、まあ勝手だし、どうぞお好きに、と言うしかないんだけれども、放送中止を叫ぶだけなら、それも、まあ良いんだけれども・・・
「表現の自由って批判をされない権利ではないし、公共の空間で何をやってもいい権利でもありません。また、重要なこととして、表現物発信における社会的責任意識を問うことは、公権力による表現の自由の弾圧とは違います〜〜〜」
「私も含め、放映を批判した人たちは、例えば法律をつくって、女児誘拐を肯定的に描くことを禁止しましょうなどということは言っていないのに、『表現の自由への弾圧』などというのは、議論の次元を誤解した的はずれな反応です。表現物や表現者のスタンスへの批判や論評も、表現の自由の行使ですしね。そうではなく、公共空間のあり方や、社会規範の作り方の話をしているのですが」
はあ〜、そういう話だったんですか。
ワタクシ的には「いやいや、むしろ禁止事項が明確に分かる法律つくってくださいよ。でないと、いちいち太田さんの(!)お気に召すかどうかを気にして表現しなくちゃならなくなるじゃないですか」って感じで、素朴にコワイこと言う人だなあ、と思いました。何故なら、それってつまり、太田さんとその仲間たちで、いわゆる同調圧力を発生させ、もって大田さんの(!)お気に召さない表現を封じようとしてるってことになりますからね。
「被害者の少女が見なければいいという問題ではない」
とまで言われた日には、もうゴメンナサイと頭を下げるしかありません。
被害者の少女がどれほど避けようとしても目に入ってしまうというなら確かにお気の毒かも知れないけれども、その他、太田さんとそのお仲間の皆さんに関しては、そんなに嫌なら視なきゃいいのに、って素朴にそう思ってました。サイゾーのこの記事読んだ後でも、やっぱりそれ以外の対処方法は思いつきません。
それにしても、もともと太田さんのシンパだった人以外の、まっさらな心でこれを読んで「そうだ!」って頷く人って、どれくらいいるんでしょうか。まっさらな心で(いや、アチラから見れば薄汚れているのかも知れないけれども)これを読んで「何じゃこりゃ?」と疑問を感じた人なら、少なくともここに一人いますけどね。
ともあれ、コワイもの大好きな方は、じっくり読んでみてください。
*サイゾーウーマン:『幸色のワンルーム』放送中止に批判の嵐……弁護士・太田啓子氏が「誘拐肯定」の意味を語る
→http://www.cyzowoman.com/2018/06/post_190588_1.html
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます