角灯と砂時計 

その手に持つのは、角灯(ランタン)か、砂時計か。
第9番アルカナ「隠者」の、その俗世を生きる知恵を、私にも。

#238 千葉県八千代市教育委員会が市民を忖度(!)―「第3回 日本の心を歌う集い」

2018-03-04 06:34:24 | 感性と理性と
(『万葉集』鶴久 森山隆 編 おうふう 昭和52年補訂版)



葦原(あしはら)の、
瑞穂(みづほ)の国を、天下(あまくだ)り、
知らしめしける、すめろきの、
神の命(みこと)の、御代(みよ)重ね、
天(あま)の日継(ひつぎ)と、知らし来る・・・


万葉集巻第18(4094)、大伴家持による長歌です。

ここをしも、
あやに貴(たふと)み、嬉(うれ)しけく、
いよよ思ひて、大伴(おほとも)の、
遠つ神祖(かむおや)の、その名をば、
大久米主(おほくめぬし)と、負ひ持ちて、
仕(つか)へし官(つかさ)・・・


と続いて、

海(うみ)行(ゆ)かば、
水漬(みづ)く屍(かばね)、山行かば、
草生(くさむ)す屍(かばね)、大君の、
辺(へ)にこそ死なめ、かへり見は、
せじと言立(ことだ)て、大夫(ますらを)の、
清きその名を、いにしへよ、
今のをつづに、流さへる、祖(お)の子どもぞ・・・


でさらに続きます。

*たのしい万葉集(4094): 葦原の瑞穂の国を天下り知らしめしける - AIRnet
http://www6.airnet.ne.jp/manyo/main/eighteen/m4094.html


そう、「海行かば」の元歌(?)ですね。

これを「軍歌」という枠に入れてしまうのは、まあ人それぞれ勝手ではありますが、そういう一部(!)市民の思い込みを市の教育委員会が「忖度」して後援を取りやめる、となると、さて如何なものかという話ですね。


2月28日付産経新聞(大阪6版)にこんな投稿がありました。




ああ、時々(しばしば)聞く話だなと思いました。

で、ちょっと調べてみると、【主催】は「日本の心を歌う集い」実行委員会、という近頃ありがちな「市民団体」になっているんですが、【協力】として日本会議千葉県八千代支部、新しい歴史教科書をつくる会千葉県支部の名前がありました。



*「日本の心を歌う集い」オフィシャルサイト
http://nihonnouta2.blog.fc2.com/blog-entry-5.html


日本会議、新しい歴史教科書をつくる会、ときたので、何というのか「なるほどねえ」なんて思ってしまいました。

で、そうなると産経新聞も黙っていないようで、


 実行委によると、過去2回はいずれも、八千代市と同市教委が後援に名を連ねていた。昨秋に例年通り後援を申請したが市教委が見送ったため、主催者側が審査請求を行って理由を尋ねたところ、「社会通念上、軍歌とされる『海行かば』が歌われる」「この歌を歌えば戦争賛美、戦死賛美を助長しかねない」といった理由が示されたという。一方、市は今回も後援を決め、対応が分かれた。

 市教委教育総務課の担当者は取材に対し、市民から「軍歌を歌うのは好ましくない」との声が寄せられたことが後援を見送った背景にあると明かし、「『海行かば』は作られた経緯から軍歌だと思っている」「今回も『海行かば』を歌うかどうか主催者に確認したが、期限までにプログラムの提出がなかったため、後援申請を不承認にした」と説明した。


*「海行かば」軍歌か鎮魂か 一部市民から指摘…市教委、公演の後援見送り
http://www.sankei.com/life/news/180302/lif1803020001-n1.html

という記事を書いて(アップして)ます。


とある一教育委員個人が「『海行かば』は作られた経緯から軍歌だと思っている」のは勝手ですが、そう思っているだけ(!)のことを理由に、後援を取りやめちゃうのが教育委員会というところなんですね。というか、一応「軍歌」だと認めるにしても、だから「この歌を歌えば戦争賛美、戦死賛美を助長しかねない」なんてのは、理論の飛躍でありまして。


ちなみに「日本の心を歌う集い」オフィシャルサイトをさらに遡ってみたら、

この曲は、万葉集の中にある大伴家持の長歌(ちょうか)の一節です。
この歌については、一部の方々が戦争を想起させる歌だとか、戦争を賛美する軍国主義の歌だとか言っておられるようです。
しかし、これは大きな誤解なのです。
まず、この歌は1250年以上も前に編纂された万葉集の中の歌です。
決して先の戦争の時に作られた歌ではないのです。
ただ、先の戦争当時、亡くなられた兵士を送るためなどに歌われたことも事実です。
しかし、それは家族を守るため、国を守るために戦って命を落とされた方々に対する尊崇の念を以って歌われたのであり、自分の父母や先祖に感謝し、お参りする気持ちと同じなのです。


*「日本の心を歌う集い」オフィシャルサイト:【課題曲】「海行かば」歌詞
http://nihonnouta.blog.fc2.com/blog-entry-14.html

という付記のついた、【課題曲】「海行かば」歌詞、という記事がありました。2016年3月3日エントリーです。

あれ?

つまり、第1回の「集い」でも(東儀季芳作曲バージョンですが)「海行かば」を歌ってた、ってことなんじゃないでしょうか?それとも、課題曲になってただけで、歌ってはいないのかしら?


何にしても、教育委員会は第1回、第2回は普通に後援してたわけで、その時は気にもしてなかったわけですよ。ところが一部市民(それがどういう方面の「市民」かは容易に想像できます)の指摘(それ自体、第3回目になってそういうケシカラン集いがあることを知ってちゃっとこいて動いただけ?)に慌てて対応したってことでしょう、たぶん。

何しろ教育委員会というところは、往々にしてアチラと仲良し、そして事なかれ主義だと相場が決まってますから。そんなところの後援なんて、付いても付いてなくても、どうでも良いってワタクシ自身は思ってますけどね。

ただ、実際問題としては、例えばチラシを置いてもらうとかいう「営業」場面では、話をし易いか難しいかという違いは出てきます。その点での主催者側のご苦労、憤懣については理解できますよ。うっすらと経験もありますし。



念のため申し上げますと、ワタクシ自身、いわゆる軍歌はそれほど好きではありません。けれども「海行かば」が軍歌だとも思いません。普通に、ただ、「そういう歌」です。

「海行かば」を好きだという人も嫌いだという人も、一度まっさらな気持ちで聴いてみてください。

フォレスタ旧バージョン ”海行かば”


・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

参考までに、演奏プログラムがこちらにありました(「軍歌」ではないけど「海行かば」より余程ヤバいものもあるような・・・)。

*YMATO PRESS:【告知】第三回「日本の心を歌う集い」
http://www.yamatopress.com/others/29012/


こちらは出演者さんによる「集い」後のブログ。

*田沼たかしオフィシャルブログ:第3回日本の心を歌う集い、大盛況!
https://ameblo.jp/tanuma/entry-12357374030.html


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