角灯と砂時計 

その手に持つのは、角灯(ランタン)か、砂時計か。
第9番アルカナ「隠者」の、その俗世を生きる知恵を、私にも。

#265 「ブラックアウト」は止められなかったにしても・・・

2018-09-09 08:35:18 | ぶらり図書館、映画館
苫東厚真発電所/北海道電力:石炭火力発電所
http://www.hepco.co.jp/energy/fire_power/coal_fired.html




「何か変だぞ!」
「わかってる! 送電網の周波数が突然下がった」
「でも、この音はむしろ過周波数だぞ。対処してくれ」


オーストリのイプス(イップス アン デア ドナウ)にある「ペルゼンボイク水路式水力発電所」でのこと。制御室に示される電力消費量が急激に増減、発電機が自動で対処しきれずに悲鳴を上げる中、その損壊を防ぐために所員が手動で止めた。

「上はいったいどうなってたんだ? どうしてもっと早くスイッチを切らなかった?」
「切るだって? 周波数が低下して、もっと水を流さなきゃならなかったんだぞ」
「こっちで聞こえた音は違ったぞ。できるだけ早くフル回転に戻して同期させないと」
「そう簡単にいくかどうか。上がってきて見てみろよ。こんなことになっているのはうちだけじゃないぜ」



マルク・エルスベルグの小説『ブラックアウト』の序盤にある描写です。




電力送電線の異常によりイタリアとスウェーデンで突然発生した大停電は、瞬く間に冬のヨーロッパ全域へと拡大した。交通網をはじめ全ての社会インフラは麻痺し、街では食品の奪い合いや暴動が多発。原子力発電所でも異常が発生。完全に機能不全に陥った世界で、イタリア人の元ハッカー、ピエーロ・マンツァーノは、この前代未聞の事態が人為的に引き起こされた可能性に気づく。衝撃のリアリティでおくるサスペンス巨編!

*KADOKAWA:ブラックアウト 上
https://www.kadokawa.co.jp/product/201112000087/




ユーロポールの捜査に協力するマンツァーノだったが、災害の首謀者として疑われ、身柄を拘束されてしまう。隙を見て逃走したマンツァーノは、スクープの匂いをかぎつけたCNNのカメラマン、ローレン・シャノンと合流。犯行グループからもつけ狙われる中、混乱を極める欧州を駆け巡り、事件の真相に迫る。一方、大停電はついに米国へも波及、世界に崩壊の時が近づこうとしていた。超弩級のスリラー、緊迫のクライマックス!

*KADOKAWA:ブラックアウト 下
https://www.kadokawa.co.jp/product/201112000086/


この小説、もう随分前に読んだのだけれども、スリリングな展開はもちろんのこと、重要な要素になっている電力に関する諸々の知識が「普通の人」にも解るよう上手に織り込まれていて、その意味でも面白いという印象が残ってました。

 今は金曜日の晩で、仕事を終えた人々が家路につき、暖かさや光を必要とし、そのため電力消費量が一日のうちで最も高くなる時間帯だ。オーストリア中の発電所がフル回転しているが、それでもこの時間には電力が足りず、輸入する必要があった。電気エネルギーというものは溜めておくことがほとんどできないので、彼のような人間が世界中の発電所で、その時点で必要なだけの電力を過不足なく供給するよう調整しなければならないのだ。ただし電力の需要は刻々変わるので、周波数は変動し続ける。送電網の周波数を一定に保つには、発電機の回転速度が一番の決め手となる。

といった具合です。



さて、この度の北海道における地震・停電に関する報道の中では、それなりに「ブラックアウト」の解説もありました。

が、そこでは(仕方ないこととは言え)電圧・周波数、発電・送電網といった硬めの表現が使われてまして、ひととおり見聞きしただけでは、多くの人は今ひとつ理解しきれないんじゃ(ひょっとしてニュース原稿を読んでいる人もわかってないんじゃ)ないかなと思ったりもしました。かく言う自分も、完全に理解しているわけではありませんけどね。


それはともかく、やはり我が国の現場の底力は驚嘆に値します。

ブラックアウトに至るのは一瞬でも(あれこれと目を配り調整しながら、だけに)復旧させるには物凄く時間がかかるもので、当初1周間程度と言われていたのも決して誇張ではなかった思います。それが、結果的としてですが僅か3日で(配電設備の不具合によるものを除いて)全域復旧ですからね。

(けれど、苫東厚真発電所が動かせず、ついでに泊原発は相変わらず停止中。発電量の絶対的な不足は如何ともし難いようで、供給においても消費においても、今しばらく、ギリギリの対応をせまられることに変わりはないようですが)


いずれにせよ、被災された方々には言葉もありません。

逆に、あの人この人の発言とか、報道のありようとか、色々言いたいことはあるけれど、今回は止めておきましょう。代わりに、祈りとか願いとかを込めて『ブラックアウト』の終盤から引用して終わることにします。


 初めは何の音もしなかった。しかし、空気の振動から、制御室がドナウ河の水流でタービンを回し、発電機を動かすのに成功したと分かった。何日かぶりで水圧が高くなった。空気の振動が小さな低い響きに変わり、徐々に音が大きくなって、穏やかなゴーッという音に変わった。新生児の産声のようらだ。オーバーシュテッターは心の中で歓迎の挨拶をした。

・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

圧倒的リアリティでおくる衝撃作!『ブラックアウト』ラジオドラマ



こちらは「ペルゼンボイク水路式水力発電所」の案内動画(ドイツ語ですが)
Ausflugsziel Donaukraftwerk Ybbs Persenbeug


最新の画像もっと見る

コメントを投稿