SIDEWALK TALK

この街の夏が過ぎてゆく

Letter佐野元春の新作『BLOOD MOON』が届いた。
いつもなら踊躍歓喜して
すぐさまプレイヤーにセットするんだけど、
今作については僕にはある種の杞憂があった。
最近の佐野さんの政治的な発言や行動が、
少し気にかかっていたからだ。


けれど1曲目の「境界線」のイントロを聴いた時点で、
そのチンケな杞憂は吹き飛んでしまった。
コヨーテ・トリロジーの3作目(最終章?)に当たる今作は、
ひと言でいえば「夏のアルバム」だ。
ある夏の日、街のあちこちで起こった物語について歌っている。


分厚いダンサブルなバンドサウンドに
佐野さん流の社会に対するステートメントを乗せている。
陽気なビートに怒りを含んだリリックという矛盾を敢えて冒し、
その化学反応を楽しんでいるかのようでもある。


佐野元春は、諸事たしかな人である。
贅沢なことながら、以前、佐野さんの面晤を得たことがあり、
後日、お手紙も頂戴した。
ものの読み込みがたしかで、
権力の得たい知れなさを生命の仕組みように解きあかしつつも、
光るような心の優しさがとだえることがない。


社会(もしくは政治)への怒りが込められた今作だけど、
佐野さんは決してあきらめてしまったわけじゃない。
この人のもつ生来の陽気な性分が、
ネガティヴの迷宮に潜り込むことを阻んでいる。
今は息を潜めて、この街(国)の行く末を眺めている。

この街の夏が過ぎてゆく

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