ボーンズ
「ボーンズ」というTVドラマがある。FBI捜査官のマッチョを相棒(後に夫)として殺人事件にいどむ、骨専門の法医学者が主人公だ。毎回これでもかとグロテスクな変死体が冒頭から出てくる。法医学者の博士は頭がよくて美人なのだが、空気が読めない人で相手の気持ちには全く気付かない。彼女のズバズバいうストレートな発言は回りの人達を傷つけるが、その真摯な態度は一貫していてぶれず、そんな彼女は愛されている。とはいえ、一見したらスゲーいやな女だ。それはさておき、彼女は骨を見ただけでその人の辿ってきた人生が分かってしまう。人種や年齢、生活環境、病歴等々。例えば殺された女性が8歳の頃に腕を骨折したが、半年後にはテニスの練習を前にも増して再開した頑張り屋さん、とかが分かってしまう。骨は語る。
TVのドキュメンタリーで、グラディエイター、ローマの剣闘士の墓を発掘し4-5体を研究室に運び、それぞれの死因、人種、生い立ち等を分析していた。詳しい事は忘れたが、一人はアジア系(地域名は忘れた)で片手に剣、片手に網を振り回す格闘技を行っていたことが、肩の骨の発達と摩耗から推測された。どのような武器による損傷をどう受けて死んだかは当然分かる。別の男性はプロの格闘家ではなく、おそらく貴族の息子が賞金目当てか、好奇心かで参加し馬に乗って戦ったが、大腿部を深く斬られ出血多量で絶命した。この若い男性の骨は、その傷以外に全く損傷がなく、健全な食生活を送っていたことが分かる。
十字軍時代の遺跡の発掘では、十字軍兵士の遺骨が打ち捨てられているのを掘りだした。エルサレムがキリスト教徒に占領されていた時代に、聖ヨハネ騎士団が攻勢をかけ、イスラム教徒の生命線ともいえる交通の要地(低地)に砦を築く。イスラムの英雄サラディン(この人はクルド人だ。)は砦を包囲するが、その完成まで不気味に手を出さない。中世のヨーロッパはイスラム教国に較べて、科学知識、芸術面、社会制度等で劣っていたが、築城の技術は優れていた。その堅固な城塞は、後にコンスタンチノープルとロードス島でオスマン・トルコ軍を手こずらせた。
その強固な砦がやっと完成し、キリスト教徒がホッとしたその瞬間、城壁の一角が轟音をたてて崩れ落ちた。サラディン軍が時間をかけて掘り進んだトンネルは既に城壁に達していた。壁の真下に大量の薪を積みあげ、それに油をかけて燃やしたのだ。空気中の酸素が燃焼で失われて圧縮するのだろうか。騎士団に数倍するイスラム軍は崩れた城壁から侵入した。殺到するイスラム兵と迎え撃つ騎士。たちまち阿鼻叫喚の白兵戦が展開される。キリストの騎士は勇敢だった。腕を切り落とされ、頭に半月刀の一撃を食らっても前を向いて戦い続け、最後は至近距離からのどに矢を射られて絶命した。弓兵は現代のスナイパー、狙撃手だ。スナイパーは現在の戦場でも最も憎まれている。十字軍の弓兵は滅多切りにされていた。
城壁が無ければ多勢に無勢、キリスト教徒側に勝ち目はない。追い詰められた騎士は、団長以下主だった指導者が騎乗して最後の突撃を敢行した。イスラム兵をさんざん切り捨て重包囲の中、火に飛び込んで息絶えた。史実ではそうなっているのだが、焼け焦げた骨はその騎士のものだろうか。また捕えられ首を刎ねられた頭骨も見つかった。立派な体格、何度も前を向いた負傷と回復の跡、指揮官だったのだろうか。
珍しく簡易に埋葬された若者の骨は、兵士ではなくて石工のものと推測された。戦闘による傷がなく、石工の労働に相当する骨の発達が見られたからだ。彼は初期の頃に襲撃されて矢に当たり、傷口が化膿して敗血症で苦しみつつ死んだものと思われる。この若者は歯周病で悩んでいた。彼の口臭は相当なものだっただろう。骨からこんな事までが分かる。
最後に英国の湿地帯で工事中に発見された大量の骨(200体分ほど)は、全て頭骨と体が分断されていた。当初は大量殺りくの事件かと思われたが、時代測定をしたところ、千年以上前に英国に侵入してきたバイキングのものと分かった。捕えられたバイキングの処刑だ。だが凄いことが直ぐに分かった。全ての頭蓋骨が前から斬られているのだ。バイキング達が己の勇気を誇示するために、斧か剣か分からないが、迫ってくる死を睨み据えて死ぬことを要求したものと思われた。怯える捕虜を200人押さえつけて、前からの刃で処刑出来るとは思えないし、またそうする必要もない。この200余の骨は見事に切断されていて、彼らが不屈の意志で死を受け止めた事を示している。首切り人の腕も確かだ。千年の時を超えて戦士の気骨が見える。
「ボーンズ」というTVドラマがある。FBI捜査官のマッチョを相棒(後に夫)として殺人事件にいどむ、骨専門の法医学者が主人公だ。毎回これでもかとグロテスクな変死体が冒頭から出てくる。法医学者の博士は頭がよくて美人なのだが、空気が読めない人で相手の気持ちには全く気付かない。彼女のズバズバいうストレートな発言は回りの人達を傷つけるが、その真摯な態度は一貫していてぶれず、そんな彼女は愛されている。とはいえ、一見したらスゲーいやな女だ。それはさておき、彼女は骨を見ただけでその人の辿ってきた人生が分かってしまう。人種や年齢、生活環境、病歴等々。例えば殺された女性が8歳の頃に腕を骨折したが、半年後にはテニスの練習を前にも増して再開した頑張り屋さん、とかが分かってしまう。骨は語る。
TVのドキュメンタリーで、グラディエイター、ローマの剣闘士の墓を発掘し4-5体を研究室に運び、それぞれの死因、人種、生い立ち等を分析していた。詳しい事は忘れたが、一人はアジア系(地域名は忘れた)で片手に剣、片手に網を振り回す格闘技を行っていたことが、肩の骨の発達と摩耗から推測された。どのような武器による損傷をどう受けて死んだかは当然分かる。別の男性はプロの格闘家ではなく、おそらく貴族の息子が賞金目当てか、好奇心かで参加し馬に乗って戦ったが、大腿部を深く斬られ出血多量で絶命した。この若い男性の骨は、その傷以外に全く損傷がなく、健全な食生活を送っていたことが分かる。
十字軍時代の遺跡の発掘では、十字軍兵士の遺骨が打ち捨てられているのを掘りだした。エルサレムがキリスト教徒に占領されていた時代に、聖ヨハネ騎士団が攻勢をかけ、イスラム教徒の生命線ともいえる交通の要地(低地)に砦を築く。イスラムの英雄サラディン(この人はクルド人だ。)は砦を包囲するが、その完成まで不気味に手を出さない。中世のヨーロッパはイスラム教国に較べて、科学知識、芸術面、社会制度等で劣っていたが、築城の技術は優れていた。その堅固な城塞は、後にコンスタンチノープルとロードス島でオスマン・トルコ軍を手こずらせた。
その強固な砦がやっと完成し、キリスト教徒がホッとしたその瞬間、城壁の一角が轟音をたてて崩れ落ちた。サラディン軍が時間をかけて掘り進んだトンネルは既に城壁に達していた。壁の真下に大量の薪を積みあげ、それに油をかけて燃やしたのだ。空気中の酸素が燃焼で失われて圧縮するのだろうか。騎士団に数倍するイスラム軍は崩れた城壁から侵入した。殺到するイスラム兵と迎え撃つ騎士。たちまち阿鼻叫喚の白兵戦が展開される。キリストの騎士は勇敢だった。腕を切り落とされ、頭に半月刀の一撃を食らっても前を向いて戦い続け、最後は至近距離からのどに矢を射られて絶命した。弓兵は現代のスナイパー、狙撃手だ。スナイパーは現在の戦場でも最も憎まれている。十字軍の弓兵は滅多切りにされていた。
城壁が無ければ多勢に無勢、キリスト教徒側に勝ち目はない。追い詰められた騎士は、団長以下主だった指導者が騎乗して最後の突撃を敢行した。イスラム兵をさんざん切り捨て重包囲の中、火に飛び込んで息絶えた。史実ではそうなっているのだが、焼け焦げた骨はその騎士のものだろうか。また捕えられ首を刎ねられた頭骨も見つかった。立派な体格、何度も前を向いた負傷と回復の跡、指揮官だったのだろうか。
珍しく簡易に埋葬された若者の骨は、兵士ではなくて石工のものと推測された。戦闘による傷がなく、石工の労働に相当する骨の発達が見られたからだ。彼は初期の頃に襲撃されて矢に当たり、傷口が化膿して敗血症で苦しみつつ死んだものと思われる。この若者は歯周病で悩んでいた。彼の口臭は相当なものだっただろう。骨からこんな事までが分かる。
最後に英国の湿地帯で工事中に発見された大量の骨(200体分ほど)は、全て頭骨と体が分断されていた。当初は大量殺りくの事件かと思われたが、時代測定をしたところ、千年以上前に英国に侵入してきたバイキングのものと分かった。捕えられたバイキングの処刑だ。だが凄いことが直ぐに分かった。全ての頭蓋骨が前から斬られているのだ。バイキング達が己の勇気を誇示するために、斧か剣か分からないが、迫ってくる死を睨み据えて死ぬことを要求したものと思われた。怯える捕虜を200人押さえつけて、前からの刃で処刑出来るとは思えないし、またそうする必要もない。この200余の骨は見事に切断されていて、彼らが不屈の意志で死を受け止めた事を示している。首切り人の腕も確かだ。千年の時を超えて戦士の気骨が見える。