日本昔話 – お猿の婿入り
新潮文庫、『日本の昔話』柳田国男著は面白い。昔の日本はどれだけ妖しの世界と現し世が接近していたのか。山で道に迷えば、必ず山姥の家に出くわす。しかし山姥も悪い奴ばかりではない。ここは人を食う者の住居だから泊めてやることは出来ぬ、と言ったりする。
鬼やら天狗やらはそんじょそこらにいて、人間にちょっかいを出す。狸や狐は用が無くても人を騙す。人も彼らを騙す。とんとむかし或村には、いつでも善い爺と悪い爺が住んでいる。昔話に出てくる爺婆は年寄りと思わない方がよい。年配の男女のことだ。鳥や魚を助けると、道に迷った娘になってやってきて嫁になるが、必ず去ってしまう。うちの嫁は良い嫁だ。蝦蟇だろうが蛇だろうが構わないから家にいな。こんな男はいないものかな。あと村の長者は必ず没落し、正直者は金銀ザックザク。
数ある昔話の中で、「猿婿入り」だけは納得がいかない。いや納得出来ない話は他にもあるが、これは赦しがたい。要約するとこんな話だ。
昔々ある村の爺が、山畠で働いていた。畠は広くて骨が折れる。ああああ猿でもよいから助けてくれないかな。来てくれたら三人ある娘の一人は嫁に遣るがなあ、と言った。すると猿が一匹ひょっこり現れ、せっせと畠を耕した。こいつはこまった約束をしたわい。家に帰って三人の娘と相談すると、姉二人は猿のお嫁には行かれません、と怒る。末の娘だけがお父さんが約束したなら是非もない、私が行きましょう。嫁入り道具には瓶を一つ、その中に縫い針を沢山入れた。
次の日の朝、猿は婿様の着物を着て娘を迎えに来た。猿は瓶を背負い、仲良く並んで山へ入る。深い谷川に細い一本橋が架かっていた。その橋を渡る時、猿の婿様が話しかけてきた。男の子が生まれたならなんという名を付けよう。猿どのの子だから猿沢と付けましょう。女の子が出来たらなんと名を付けよう。その谷は藤の花がきれいだからお藤と付けましょう。そう言いながら渡るうちに、一本橋が細いのでちょっと手が触れると猿は川に落ちました。そうして瓶を背負ったまま水に流されて行きました。其時猿の婿が泣きながら詠んだ歌が残っています。
猿沢や、猿沢や、
お藤の母が泣くぞかわいや
娘が付き落としたとは言っていないが、縫い針満載の瓶など悪意が充満している。お猿もお猿だ。一日畠仕事を手伝ったくらいでズーズーしいし、迎えに来るなら付き添いを同行しろよ。爺も独り言くらいで大げさに約束と捉えることはない。
この話しが悲しいのは、猿が騙されたと思っていないことだ。最期の言葉が〝かわいい〟じゃあ切ないだろ。折角楽しい将来設計を思い描いていたところなのに。だいたい女はやわじゃあない。山賊が姫様を攫ってきても、しくしく泣くのは半年、三年後には「もっとしっかり稼ぎな」と煽っているさ。まったくこの話しで唯一確かなのは、もし二人で暮らしたならば、お猿は娘も生まれてくる子供たちも大切にしたに違いない、ということだ。
子供たちがこの話しを聞いたら、どう思うだろう。お猿さん可哀そう、と言うんじゃないかな。
新潮文庫、『日本の昔話』柳田国男著は面白い。昔の日本はどれだけ妖しの世界と現し世が接近していたのか。山で道に迷えば、必ず山姥の家に出くわす。しかし山姥も悪い奴ばかりではない。ここは人を食う者の住居だから泊めてやることは出来ぬ、と言ったりする。
鬼やら天狗やらはそんじょそこらにいて、人間にちょっかいを出す。狸や狐は用が無くても人を騙す。人も彼らを騙す。とんとむかし或村には、いつでも善い爺と悪い爺が住んでいる。昔話に出てくる爺婆は年寄りと思わない方がよい。年配の男女のことだ。鳥や魚を助けると、道に迷った娘になってやってきて嫁になるが、必ず去ってしまう。うちの嫁は良い嫁だ。蝦蟇だろうが蛇だろうが構わないから家にいな。こんな男はいないものかな。あと村の長者は必ず没落し、正直者は金銀ザックザク。
数ある昔話の中で、「猿婿入り」だけは納得がいかない。いや納得出来ない話は他にもあるが、これは赦しがたい。要約するとこんな話だ。
昔々ある村の爺が、山畠で働いていた。畠は広くて骨が折れる。ああああ猿でもよいから助けてくれないかな。来てくれたら三人ある娘の一人は嫁に遣るがなあ、と言った。すると猿が一匹ひょっこり現れ、せっせと畠を耕した。こいつはこまった約束をしたわい。家に帰って三人の娘と相談すると、姉二人は猿のお嫁には行かれません、と怒る。末の娘だけがお父さんが約束したなら是非もない、私が行きましょう。嫁入り道具には瓶を一つ、その中に縫い針を沢山入れた。
次の日の朝、猿は婿様の着物を着て娘を迎えに来た。猿は瓶を背負い、仲良く並んで山へ入る。深い谷川に細い一本橋が架かっていた。その橋を渡る時、猿の婿様が話しかけてきた。男の子が生まれたならなんという名を付けよう。猿どのの子だから猿沢と付けましょう。女の子が出来たらなんと名を付けよう。その谷は藤の花がきれいだからお藤と付けましょう。そう言いながら渡るうちに、一本橋が細いのでちょっと手が触れると猿は川に落ちました。そうして瓶を背負ったまま水に流されて行きました。其時猿の婿が泣きながら詠んだ歌が残っています。
猿沢や、猿沢や、
お藤の母が泣くぞかわいや
娘が付き落としたとは言っていないが、縫い針満載の瓶など悪意が充満している。お猿もお猿だ。一日畠仕事を手伝ったくらいでズーズーしいし、迎えに来るなら付き添いを同行しろよ。爺も独り言くらいで大げさに約束と捉えることはない。
この話しが悲しいのは、猿が騙されたと思っていないことだ。最期の言葉が〝かわいい〟じゃあ切ないだろ。折角楽しい将来設計を思い描いていたところなのに。だいたい女はやわじゃあない。山賊が姫様を攫ってきても、しくしく泣くのは半年、三年後には「もっとしっかり稼ぎな」と煽っているさ。まったくこの話しで唯一確かなのは、もし二人で暮らしたならば、お猿は娘も生まれてくる子供たちも大切にしたに違いない、ということだ。
子供たちがこの話しを聞いたら、どう思うだろう。お猿さん可哀そう、と言うんじゃないかな。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます