旅とエッセイ 胡蝶の夢

横浜在住。世界、50ヵ国以上は行った。最近は、日本の南の島々に興味がある。

ナズナ原遺跡、洗濯物事件の顛末 

2016年05月18日 21時02分36秒 | エッセイ
ナズナ原遺跡、洗濯物事件の顛末   

 学生の時、三夏横浜郊外の弥生~古墳時代の住居跡の発掘をした。ゼネコンが土地開発を始めたら遺跡が出てきてしまい、開発を4年遅らせて遺跡を発掘調査し、その後は土地を更地にして工場だか団地だかを建設、片隅に小さな記念館(発掘資料館)を残した。よくあるパターンだ。慌てて遺跡をぶっ壊して隠ぺいするのに較べれば良心的だ。
 イスタンブールの街などは、工事で掘り起こすとどこもかしこも何層にも積み重なった遺跡が出てくるため、地下鉄などいつ工事に着工出来るか分からないという。バンコクのような低湿地でも、都市人口が増えて郊外に宅地や工業団地の建設ラッシュが起きた際、農地などを掘り起こしたら、随分と遺物が出てきたそうだ。それで大儲けした農民もいたはずだ。
 お台場でもゆりかもめに乗ると、新橋を出て直ぐの海側で発掘作業をやっていた時期があった。赤いレンガが並んでいるのが上から見えたから、幕末~明治にかけても建築物だったんだろう。発掘調査は一年程やっていたが、今では高層建築のビルが建っている。
 話しをナズナ原に戻すよ。元々大学の教授が授業の時作業員を募集し、自分達が応募したのだが3年続けて通ったのは自分だけだった。肉体労働(土方)で、1日4千円は当時としても割のよいバイトではなかった。特に最初の年は、粘土質の関東ローム層の土あげだったから、真夏にこの作業はきつかった。土を乗っけて運ぶ手押しの一輪車のことを、ネコ(根子)と呼ぶのを始めて知った。
 学生と一緒に働いている土方のおっちゃん達は、一万円以上貰っていたらしい。赤土の関東ローム層は、元からある黒土の上に1.5mほど積もっている。これが火山灰だというから驚きだ。富士山とかの噴火だったのか。火山灰の降り積もる日々を過ごした人々は大変な思いをしたことだろう。とはいえ、噴火がない今でも少しずつ堆積しているようだ。
 このねちゃねちゃした赤土を取り除くと、肥沃そうな黒土が出てくる。古代人が住んでいた時代にやっときた。簡単に言えば、その黒土の中の赤い部分を掘っていく訳だ。赤い部分は建物の柱の跡か、もしくは風倒木(ふうとうぼく、台風などで倒れた木。)の根っこだったりする。赤と黒で分かりやすい。柱が規則的に並んでいたらまずは住居だ。だが時代が異なる住居が重なっていたりする。
 さてこの土方の夏はきつかったが楽しかった。夏の終わりにはすっかり土方焼け(腕は半そでの肩まで、手は軍手をしているので白いまま。)で筋力がついた。学生たちもこの年が一番多かった。自分は家が比較的近いから、十分通えたし翌年からはほぼそうしていたのだが、この最初の年は一夏ほとんど飯場に泊った。色々な大学から学生が集まっていて、周りはたんぼか原っぱなので夜は毎晩飲み会で大騒ぎ、女の子もいて楽しかったんだ。
 飯は秋田から来たおばちゃんが一食100円で作ってくれて美味しかった。ここだけの話、家で喰うのと同じか飯場の方がうまかった。よく笑うおばちゃんとは直ぐに仲良くなったが、彼女の方言が強くて何を言っているのか半分位分からなかった。おばちゃん一人で昼は4-50人の飯を作っていたのだからたいしたものだ。女子学生でそちらの手伝いにまわった子もいたのかな、忘れた。話が通じないと、おばちゃんは笑い転げてしゃべりまくる。またそのおしゃべりが分からなくて、おばちゃん笑う。きりがない。
 学生は一週間、二週間いて入れ替わって次の連中が来るが、自分を含めてずっといる古株連中もいる。泊りの学生の人数が多かったから、夏でもあり数台ある洗濯機は廻りっぱなしで、干し紐も洗濯ものでいつも一杯。朝は洗面所とトイレが混み合う。洗面所にも洗濯ものが干してある。2階の窓から斜め下に向かって洗面所が半分見える。洗面所にいる人は斜め上を見上げたりはしないから、見られているとは気付かない。
 ある朝寝ぼけまなこで窓から表を見たら、おっ洗面所に気になる女の子がいるじゃあないか。その子はTシャツ、ジーンズで顔を洗っていた。胸のふくらみに自然と目がいく。思いがけず女の子の無防備な姿を目にして胸が高鳴る。彼女はタオルを持って来なかったのか、どこかに置き忘れたのか、濡れた顔濡れた両手で半分目をつぶってキョロキョロし始めた。うっ可愛い。彼女目が悪そうだ。コンタクトかな。
 困った彼女はエイ、吊り下がっている洗濯もので顔を拭いた。アララ丁寧に顔をゴシゴシこすっているじゃあないか。あっそれは!ヒエー、そ、それはタオルじゃあありまっせん。それは、それは田中のフンドシだー。
 タオル、日本手ぬぐいなら上にひもは付いていないでしょ。あの当時の男子学生は皆フンドシを締めていた。な訳はない。「へー、田中君はフンドシなんだ。」「うん、慣れるとこれがいいんだよ。」一人だけだよ、フンドシは。あー、とんでもない所を見てしまった。心臓がドキドキしたが、幸い自分一人しか見ていない。これを知ったら彼女はショックで来なくなっちゃうかも。田中が知ったら、あいつ絶対喜ぶ。
 俺は今のは見なかったことにして自分の胸の奥に仕舞った。はずなんだけど、どこかで誰かに話したかも。まあ40年も前の話だから、もうすっかり時効だね。

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