神戸大学メディア研ウェブログ

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壷井達也さんインタビュー② こぼれ話「野菜炒めにこだわり」

2022-08-14 21:00:00 | 神大LIVE
 神戸大で勉学に励みながら、フィギュアスケートで一流への道を突き進む人がいる。国際人間科学部発達コミュニティ学科2年生の壷井達也さんだ。2022年4月の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得し、同月に日本スケート連盟の今年度特別強化選手に指定。今秋の2022-2023シーズンからはシニア級に昇格し、いよいよ世界のトップへ挑む。この記事では、壷井さんの海外遠征での苦労や楽しみ、神戸大での生活など、様々な壷井さんの姿をQ&A形式で紹介する。<本多真幸、出口華、笠本菜々美、塚本光>

▼前回の記事「壷井達也さんインタビュー フィギュアスケートで世界のトップへ」=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/debe828766ca8db140aea62da8d7094e


(写真:壷井達也さん。神戸大鶴甲第2キャンパスで。2022年6月28日撮影)


体調管理 なるべくたくさん食べる

記者)スポーツ選手はパフォーマンス維持のための体調管理が大事だと思いますが、食生活で何か気を使っていますか?

壷井)なるべく量を食べるようにしています。痩せやすい体質なので、少し食事を落とすとすぐに体重が減ってしまうんですよ。体重が減ると、ジャンプの時の一瞬の力とかが出せなくなると感じるので、なるべく体重が増えるように食べてます。筋力つけすぎると邪魔になって回転が遅くなるというのはありますが、自分に関しては筋力がつきすぎることはないかなと。痩せると何もできなくなるので、痩せないことの方が重要です。


下宿生活 学食利用、ときには自炊も

記者)下宿で一人暮らしをしているとのことですが、食事はどうされていますか?

壷井)学食を利用してます。おいしかったメニューは、オクラの巣ごもり卵ですね。あと、自炊もします。作ることが多いのは野菜炒めで、素材の味を生かすために、味付けは塩と胡椒と醤油をちょっとだけ使うのがこだわりです。一度、春雨炒めみたいなものを作って中野(園子)コーチに持って行ったことがあって、「おいしかったよ」って言われました。


神戸大生が「登山」と呼ぶ 標高の高いキャンパスへの通学

記者)壷井さんが在籍するキャンパスと駅との標高差は200m近くあり、駅から大学まで急な上り坂が続いています。壷井さんはどう通学していますか?

壷井)行きはバスですが、帰りは歩くこともあります。もう少し標高の低いキャンパスで授業があるときは、行きでもだいたい歩いてます。一番高いところにあるので、下りでもちょっとしたトレーニングですね(笑)。


「神戸組」の仲間と励む練習

記者)「神戸組」で一緒に練習する坂本花織さんや、三原舞依さんとは、上下関係なく仲が良いのでしょうか?

壷井)仲良いですね。坂本選手や三原選手とは昔から会う機会が多かったので。中学3年生ぐらいの頃、海外の大会に一緒に行ったことがあって、そのあたりから話すようになりました。


海外遠征 楽しみも苦労も


記者)旅行がお好きだそうですが、最近は行けていますか?

壷井)忙しいので、旅行単体ではあまりできてないです。ただ、試合になると練習時間が限られて、意外とやることがないので、ホテルの周辺を散策してますね。最近だと、大会の結果と結びついているかもしれませんが、4月の世界ジュニアで行ったエストニアはすごく良かった。大会と連携したホテルで、朝、昼、夜とご飯がついていたのですが、おいしかったです。また、海が近くにあったので散歩に行きました。とてもきれいでした。


記者)海外への移動はやはり大変ですか?

壷井)4月の世界ジュニアでのエストニアは、ロシア上空を迂回したこともあって移動に1日以上かかりました。長時間移動してからすぐの練習は、やはり動きにくくてしんどいです。

壷井)でも、最近はだいぶ慣れてきたかな。時差ぼけすることもありますが、大学生になって睡眠時間がバラバラになるじゃないですか。そういった生活が海外に行くときにも『時差ぼけ対策』として生きてくるのかもしれないです……(笑)。


(写真:インタビューに応じる壷井達也さん。神戸大鶴甲第2キャンパスで。2022年6月28日撮影)

壷井達也(つぼい・たつや)
 2002年生まれ。愛知県、中京大中京高校出身。2021年4月、神戸大学国際人間科学部発達コミュニティ学科に入学し、現在2年生。2022年4月の世界ジュニア選手権で3位。同月に日本スケート連盟の今年度特別強化選手に指定され、6月にはシスメックスへの所属を発表。2022-2023シーズンからシニア級デビューする。


壷井達也さんインタビュー① フィギュアスケートで世界のトップへ

2022-08-13 20:44:30 | 神大LIVE
 神戸大で勉学に励みながら、フィギュアスケートで一流への道を突き進む人がいる。国際人間科学部発達コミュニティ学科2年生の壷井達也さんだ。2022年4月の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得し、同月に日本スケート連盟の今年度特別強化選手に指定。今秋の2022-2023シーズンからはシニア級に昇格し、いよいよ世界のトップへ挑む。ニュースネットは、普段の練習での努力や神戸大での生活など、壷井さんの素顔にせまった。<本多真幸、出口華、笠本菜々美、塚本光>


(写真:インタビューに応じてくれた壷井さん。神戸大鶴甲第2キャンパスで。2022年6月28日撮影。)


小学生で苦労も、中学生から驚異的な伸び

 出身は愛知県岡崎市で、スケートを始めたのは3歳のころ。先に習い始めた姉の影響で、リンクに行く機会が増え、その流れで自分もスケート教室に入った。トップレベルの選手達は、小学生のうちにダブルアクセル(二回転半)を跳べるようになるというが、壷井さんが習得できたのは中学1年になってからだった。

 しかし、そこからの成長は速かった。3回転ジャンプ全5種類の習得には、他の人だと1、2年かかる場合が多い中で、壷井さんは約4か月で習得。「きっかけを1つ掴めたことが、成長できたポイントだと思います」。全日本中学校大会に2回出場し、中3のときに優勝した。


怪我での挫折を機に、スポーツ科学に興味

 高校は、安藤美姫さんや浅田真央さん、宇野昌磨さんらを輩出した、中京大中京高校に進学。スポーツクラスに入ることもできたが、理系に興味があったので、一般生徒と同じ進学のクラスを選んだ。

 高校1年生の冬には全日本ジュニア選手権で優勝した。しかし、2年生の夏に足首を捻挫。その年の全日本選手権の直前練習でも怪我をして棄権するなど、試合に出られない時期が続いた。「怪我が立て続けに起こって、将来のことを考え始めました。ちょうどそのときスポーツ科学という分野に興味があったので、『怪我の予防など、怪我で苦しんできたからこそできるような勉強をしてみたい。スポーツ科学が学べる大学に進みたい。』と思うようになりました」


自ら選んだ神戸大で、新たな生活

 11月の全日本ジュニア選手権を区切りとして完全にスケートリンクから離れ、勉強にシフトした。共通テストでは5教科7科目を受験。テストの結果を見つつ、スポーツ科学を学べる国立大学で、また、近くにスケートリンクがあり練習環境を保てることから、神戸大国際人間科学部の発達コミュニティ学科を受験し、見事合格した。

 受験後、久しぶりにリンクで滑った時には、感覚がほとんどなくなっており、ジャンプを跳ぶのも怖かった。しかし、「何もない状態からのスタートだったので、身についていた変な癖や、体の動かし方を一から見直すことができたという部分ではよかったです」

 大学生になり、拠点を愛知県から兵庫県へと移した。スケートリンクは、時期ごとに尼崎、西宮、神戸のリンクを併用。北京五輪銅メダルや世界選手権金メダルの坂本花織さん(神院大、シスメックス)や、四大陸選手権で2度の優勝を果たした三原舞依さん(甲南大大学院、シスメックス)を指導する、中野園子コーチの下で練習に励む。練習は朝、夕方、週末で、週6日行われる。朝練のある日は、5時ぐらいに起きて練習場所に向かい、終わった後に授業がある日はそのまま大学に行く。


通し練習、積極的なジャンプ練習で体力つける

 中野コーチの指導の特徴は、練習量だ。プログラムを最初から最後まで行う通し練習を、何回も繰り返す。通し練習を通じて身体に無意識レベルまで動きを染みつかせることで、本番でも緊張せず動けるようになる。「それまで、曲をかけてジャンプとスピンを全部入れての通し練習というのをあまりしてこなかったので、中野チームに入ってから練習量がすごく増えて、体力的に結構きついですね。ただ、無意識レベルにまで動きを落とし込めているという実感はあります」

 また、ジャンプはスケートで一番体力を使う技だが、早朝の練習でも「ガンガン跳ぶ」。体が動きにくい朝にジャンプが跳べれば、体が動きやすくなる夜はもっと楽に跳べるようになるという。

 中野コーチの指導で意識の面にも変化があった。「練習に緊張感があります。体の状態が日々変わる中で、今日は本当にできないって言い訳をしたくなる日が何回かあるんですけど、先生の前ではなるべくしないようにします。しんどい状態でも練習をやる。それが中野先生の考えかなと」


(写真:練習中の壷井達也選手。2022年7月に関空アイスアリーナで行われた、日本スケート連盟の強化練習で。本人提供。)


様々な仲間から受ける刺激

 神戸を拠点として練習を行っている選手たちは「神戸組」と呼ばれている。先述したように、坂本さんが世界選手権で優勝、三原さんが四大陸選手権で2度目の優勝と、「神戸組」の活躍は目覚ましい。壷井さんは、世界のトップで戦っている仲間から、練習に取り組む姿勢や技術など、多くのことを学ぶ。

 神戸大の体育会スケート部にも所属しており、大学生の大会に出場することもある。部には初心者も多く、基本的に指導する側に回る。「自分が自然と身につけて、あまり考えてやってこなかったことを質問されたりするので、いつも無意識にやっていることへの理解が深まるなど、新たな発見が得られることが多いです」。

 また、在籍する学科には、他のスポーツで様々な経歴を持つ学生がおり、そういった学友からも刺激を受けている。「スケートにはない練習方法や考え方を得ています」。


世界ジュニア選手権 堂々の3位に

 競技では、4月にエストニアで行われた世界ジュニア選手権に臨んだ。元は3月に開催予定だったところ、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期になったが、それが助かった。というのも、1月にドイツで行われた大会から帰国した際、ホテルでの隔離期間で筋肉が落ち、2月からかなり調子を落としていたからだ。

 延期のおかげで調子を戻すための充実した練習ができ、本番当日も、世界ジュニアはうまくいくという自信を持てた。そのフリーの演技では難しい4回転サルコウなどのジャンプを入れたが、大きなミスなく決め、堂々の3位。しかし、4回転は「まだいつでも跳べるところまではこれていない」という。


今秋いよいよシニアへ 「世界の選手に食らいつく」

 怪我で、国際試合での結果をなかなか残せず、ジュニア期間が長くなってしまったが、世界ジュニア選手権3位という成績を引っ提げて、いよいよ今秋からシニアに挑む。流れるスケーティングからジャンプした勢いを、降りた後もキープするという強みを生かしたい。

 目標としては、昨年9位だった全日本選手権での6位以内を掲げる。「シニアに上がって、海外の選手と一緒に出ることが多くなってきますが、それに少しでも食らいついていけるように頑張りたいと思います」



(写真:シニアに向けての抱負を掲げる壷井達也さん。鶴甲第2キャンパスで。2022年6月28日撮影)


 秋から始まるグランプリシリーズでは、イギリスで開催のMKジョンウィルソン杯(11月11日(金)~13日(日)と、フィンランドで開催のグランプリエスポー(11月25日(金)~11月27日(日))に出場予定。初めてのシニアの舞台でどんな結果を残すか。


次の記事では、海外遠征の苦労や楽しみ、神戸大での生活など、壷井選手の様々な姿をQ&A形式で紹介する。


▼次の記事=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/4172e987c634bad249e1e9b7180de47a

壷井達也(つぼい・たつや)
 2002年生まれ。愛知県、中京大中京高校出身。2021年4月、神戸大学国際人間科学部発達コミュニティ学科に入学し、現在2年生。2022年4月の世界ジュニア選手権で3位。同月に日本スケート連盟の今年度特別強化選手に指定され、6月にはシスメックスへの所属を発表。2022-2023シーズンからシニア級デビューする。



『鬼滅の刃』人気コラム著者 植朗子さんは伝承文学の研究員【後編】

2022-01-26 20:00:00 | 神大LIVE
 2020年12月からニュースサイト「AERA dot.(アエラドット)」に『鬼滅の刃』の考察コラムを随時執筆し、これまでに400万PV(※ページビュー=閲覧回数)達成など、たいへんな注目を集めている神戸大学国際文化学研究推進センターの植朗子(うえ・あきこ)協力研究員。
 2021年11月には、記事をまとめて書籍化した『鬼滅夜話 キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』』https://www.amazon.co.jp/dp/4594089917/fusoshaoffici-22(扶桑社)も出版した。
 
 ネットの人気コラムを連載するきっかけは、喫茶店での「号泣」事件だったという植さん。一番好きな鬼滅キャラは、ムキムキだけどかわいい「あの人物」だと明かしてくれた。<本多真幸>


(写真:5刷が決定した『鬼滅夜話』。画像提供:清川英恵)



「人生と戦うのは自分しかいない」 それがわかるのが『鬼滅』

記者)神戸大生に『鬼滅の刃』を紹介するなら、どう薦めますか?
植)それについて考えたのですが、こちらからは薦めないですね。「キメハラ」(=『鬼滅の刃』ハラスメント」)なんて言葉がありますよね?

記者)はじめて聞きました
植)『鬼滅の刃』の話題がでてきても、「鬼滅」が好きではない人にとっては、それが苦痛らしいです。「みんなは好きなのに自分は好きじゃない」というのが、ストレスになるそうで…。他の作品でもあるようですが、人気作品ゆえの悩ましいところですね。学生さんには自分の好きなものは何で、自分の嫌いなものは何なのか、というのを見つけてほしいなって思います。ただ、「何かいい作品はありませんか」と聞かれたら、その時は『鬼滅の刃』と答えると思います。

記者)では『鬼滅の刃』の見どころをどのように紹介しますか?
植)「人生と戦うのは自分しかいない」というのがよくわかる作品ですよ、と紹介します。神様も仏様も助けてくれない時に、「自分が何を大切にしたいのか」ということを、自分自身に問い直すことができる作品だと思います。


(写真:『鬼滅夜話』のそで。楽しい工夫が施されている。画像提供:清川英恵)



書きごたえのあったコラム「猗窩座と狛治」と初回記事「悪役の美学」

記者)今までで1番書きごたえのあった記事はどれですか?
植)実は最初に書いた記事ですね。
記者)悪役についてですね。
植)そうそう。「悪役の美学」、「アエラドット」で検索してもらうと出てきます。

▼「『鬼滅の刃』の鬼 『猗窩座』のセリフから読み解く『悪役の美学』」=https://dot.asahi.com/dot/2020121800086.html

植)猗窩座(あかざ)と狛治(はくじ)は書きごたえを感じました。
無惨はずっと無惨のままで、成長と変化があまりないですね。童磨も童磨のままで。それはそれで魅力的ですし、一貫性があるといえばそうなのですが。でも、人であったときの狛治と、鬼になった猗窩座とのキャラクターに注目してみると、「変化」がとても大きいです。なぜだと思いますか?
記者)なぜでしょう。
植)この「猗窩座・狛治の変化」は、研究者の間でも話題になっています。疑問点が多いキャラクターなので。仮説にしても、それに対するアンサーを出すことには意義があるなと思います。


いま注目されている「ケアと文学」もテーマに

植)人間時代、狛治はずっとお父さんの看病をしています。お父さんを亡くした後は、婚約者の看病をするんですよね。嫌悪感もなく、疑問も感じず、ひらすら看病に尽くします。狛治は愛情が深いので、それを失った時にこれまで抱えていた理不尽への怒りが爆発してしまいます。文学研究の中でも、「ケアと文学」というテーマが注目されています。今の時期に、ちょうどそれに関連する内容で、コラムの形ですけれど「猗窩座と狛治の問題」を取り上げることができたのは良かったなと思っています。


連載のきっかけは、喫茶店で再会した『週刊少年ジャンプ』での号泣

記者)植さんが『鬼滅の刃』のコラムを書くようになったきっかけを教えてください。
植)本を読むのが嫌になった時期があったんですよね。ちょうど一年ほど前(2020年)ですけど。私たち研究者は「本を読んでなんぼ」というところがあって、読んで、読んで、研究の着想を得るところまでひたすら読む。その繰り返しです。それが一時期ちょっとできなくなって。自分でも驚きました。それで「研究やめようかな」と思ったんです。小学生の頃から欠かさず読んでいた大好きな『週刊少年ジャンプ』ですら読めなくなっていたのですから、私にとったら非常事態です。

植)そんな時、仕事の合間にお昼を外で食べようかなと、喫茶店に入ったんです。ジャンプ、何週間も読んでいなかったなと思って。そういえば『鬼滅の刃』が大事なところだったことを思い出しました。続きがちょうど無限城編で、時透無一郎(ときとう・むいちろう)対黒死牟(こくしぼう)のあたりを読み始めて…。そこはまだ耐えられたんですけど、弟のことを祈る不死川実弥(しなずがわ・さねみ)のシーンでぶわーっと涙があふれて、そこから号泣です(笑)。

植)ああ、私はまだ心が動くのか…と思いましたね。そう。だから。もう一度やろうかなって。その足ですぐに、書かせていただける媒体を探し始めました。


どこかで書きたい! 「AERA dot.」読者欄への投稿

記者)植さんは、どうして出版各社のなかから、「AERA dot.」を手がける朝日新聞出版に声をかけたのですか。
植)もともと雑誌『AERA』と、そのニュースサイト「AERA dot.」の読者だったこともあって、「アエラにアクセスしたい」とすぐに思いました。でもツテがなくて。仕方がないので「読者の声」の欄に、この熱い思いを(笑)書いて送りました。思い返してみると迷惑ですよね。「続きをメールで送らせてください」って書いて…。当然無視されるだろうと思っていたら、なんとメールが届いたんです。そのご返信下さった方が、今の編集担当者さんです。


社会における学術の意義 感じてくれる編集者との出会い

記者)「AERA dot.」担当の編集者の方は、どんな方なのでしょうか。
植)とても素晴らしい方です。信頼しています。まずダメ出しがはっきりあることが非常にありがたいです。ダメ出しがまったくない編集者の方とは、ご一緒にお仕事するのはしんどいですね。あとはアクセス数の問題ですね。その仕組みをご存知ですか?
記者)いや、詳しくは知らないです。
植)私も詳しくないのですが、記事を出しますと、そのアクセス数として、PV(ページビュー)が出ます。このPV数が少ないと、記事元としては良くないはずですよね。ですが、担当者の作田さんは、「PV数の多い少ないについては僕が責任取るので、好きなことをまずは書いてください」と。「記事はアクセス数だけに意味があるのではありません。文学や文化研究には意義がある、それを発信することもメディアの大切な役割です」と言ってくださって、社会における学術の意義を感じて下さっているのだと、感動しました。私の記事があるのは、担当の作田さんのおかげです。


一番好きなキャラクターは宇髄天元

記者)最後に『鬼滅の刃』の中で、植さんの好きなキャラクターを教えてください。
植)それ答えるの(笑)。いいんですよ。全然良いんですけど…あの…宇髄天元(うずい・てんげん)が好きですね。ただのファンなので、隠しているんですけど(笑)。
記者)どういう点に惹かれますか?
植)まず、あの顔ですね。吾峠呼世晴先生の絵柄。どのキャラクターも顔立ちが可愛らしいので、あれで長身のムキムキにさせると気持ち悪くなりそうなのに、ちゃんとビジュアルのバランスの一番いいところで止(とど)められている。その画力がすごいなあと思いますね。あまりマッチョにさせてしまうと、今度は美しさが損なわれる。

植)吾峠呼世晴先生はキャラクター造形も絶妙だと思います。記事を書く時に、改めてキャラクターのイラストを見るのですが、毎回「あ、吾峠呼世晴先生、すごいな」と思います。アンバランスさを魅力としてうまくついていますよね。宇髄はとくに。こんな話をはじめたら8時間ぐらい、しゃべれそうです。

▼『鬼滅の刃』人気コラム著者 植朗子さんは伝承文学の研究員【前編】= https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/ffe49048ad1665add4eb0e8bbebe8bd5


(写真:2022年2月27日に予定されている植さんの学術イベント用の名刺。鬼滅の世界観が感じられる。神戸大学をバックに。)

植朗子(うえ・あきこ)
神戸大学大学院 国際文化学研究科 国際文化学研究推進センター協力研究員。
専門はドイツ語圏の伝承文学、神話学、比較民俗学など。著書に『『ドイツ伝説集』のコスモロジー - 配列・エレメント・モティーフ -』(鳥影社)、共著に『〈神話〉を近現代に問う』(勉誠出版)、『はじまりが見える世界の神話』(創元社)がある。ニュースサイト「AERA dot.」の連載をまとめた『鬼滅夜話 キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』』(扶桑社)は5刷が決まった。
▼AERA dot.サイト=https://dot.asahi.com
▼扶桑社サイト=https://www.fusosha.co.jp

『鬼滅の刃(きめつのやいば)』
『週刊少年ジャンプ』(集英社)で2016年から2020年まで連載された吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)氏の漫画作品。映画化された「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は興行収入400億円を超え、日本映画史上の記録をぬりかえる大ヒットとなった。2021年12月5日からアニメ2期が始まり、現在「『鬼滅の刃』遊郭編」がフジテレビ、TOKYO MXなどで放送中。
作品の舞台は大正時代の日本。主人公の少年・竈門炭治郎は、ある日突然、鬼に家族を殺され、唯一生き残った妹も鬼にされていた。絶望的な現実に打ちのめされる炭治郎だったが、妹を人間に戻し、家族を殺した鬼を討つため、「鬼狩り」の道を進む決意をする。




『鬼滅の刃』人気コラム著者 植朗子さんは伝承文学の研究員【前編】

2022-01-25 22:59:48 | 神大LIVE
 漫画もテレビアニメも驚異的なヒットで社会現象にもなっている『鬼滅の刃』(集英社)。神戸大学国際文化学研究推進センターの協力研究員である植朗子(うえ・あきこ)さんは、2020年12月からニュースサイト「AERA dot.(アエラドット)」にその考察コラムを随時執筆し、これまでに400万PV(※ページビュー=閲覧回数)を達成するなどたいへんな注目を集めている。
 2021年11月には、記事をまとめて書籍化した『鬼滅夜話 キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』』https://www.amazon.co.jp/dp/4594089917/fusoshaoffici-22(扶桑社)も出版した。
 私たち学生にとってはドイツ語の先生として教壇に立つ植さんの、神話学・民間伝承研究者としての視点をうかがうとともに、多くの人が『鬼滅の刃』に惹かれる理由を聞いた。<笠本菜々美>



(写真:5刷が決定した『鬼滅夜話』 画像提供:清川英恵)
 

「伝承文学」の研究者が、なぜ『鬼滅の刃』を考察するのか

記者)ニュースサイト「AERAdot.」では、『鬼滅の刃』に登場する様々なキャラクターの特性や行動についてコラムを書いていらっしゃいます。2020年12月に最初の記事「『鬼滅の刃』の鬼「猗窩座」のセリフから読み解く「悪役の美学」」が公開され、コラムは累計50本にもなっています。専門分野はドイツ語圏の伝承文学、神話学、比較民俗学ですよね。『鬼滅の刃』との関連について教えて下さい。

植)この間、神話学の研究会で他の先生からも、同じご質問をいただきましたね。「どうして『鬼滅の刃』なの?」って。私は「肉体の変化」に関心があります。大切な人の「肉体の変化」に対して、どんなふうに周囲の考えや感情が変わるのか。そこが私の研究テーマです。『鬼滅の刃』にも同様の命題が含まれます。それに私は「怪異」が専門ですから、鬼滅では「怪異」が重要な要素であることもポイントのひとつです。




「腐らない死体」に興味 それが「大切な人」なら手放せないはず

記者)「肉体の変化」と研究の関心について、詳しく聞かせて下さい。

植)私は大学の学部時代から、民間伝承の中の「腐らない死体」のモチーフにとても興味がありました。死体って腐りますよね。当たり前ですけども。腐るから火葬したり埋葬したりするのですが、たとえば家族とかペットとかが死んでしまった時に、遺体とお別れしないといけない。その「あきらめ」をうながしてくれる唯一の現象が、「腐る」ことだと思っています。腐れば手放さざるをえないでしょ?だからそこにあきらめが生じるのだけど。そういう「肉体の変化」の時にもたらされる、「感情の変化」に興味があります。
『鬼滅の刃』の鬼は人から鬼になるわけじゃないですか。鬼は生きていくために、人を食べるしかありません。それは、私たちが生き物を殺すことと何の変わりもないですよね。それなのに、鬼は急に化け物として扱われる。そこに興味があって。私の中ではテーマはずっと一貫しているのですが、外からぱっと見ると「神話から、どうして『鬼滅の刃』なの?」ということになるみたいですね。





(写真:植さんの共著書『『神話』を近現代に問う』(勉誠出版))



鬼になった禰󠄀豆子を手放せない炭治郎の思い

植)自分が一番好きな人を思い浮かべてみて下さい。その人が今この瞬間に鬼に変わったとして、人しか食べられなくなったとして、じゃあその人のことを手放せますか?…多分手放せないですよね。『鬼滅の刃』の主人公である炭治郎は、妹の禰󠄀豆子のことをまさに手放せない。でも惑います。「腐らない死体の伝承」の本質は、そこにあるのかなと思っています。人が人として存在できなくなった時、それでもその相手を手放せないという感情の問題が重要であると思います。



研究者としての記事に「泣きました」という反響

記者)コラムに対して、読者からの反響はどういう内容が多いのですか?

植)皆さんの感想では「泣きました」というものがとても多いですね。私の記事を好きだと言ってくれる方々は、漫画やアニメを鑑賞して感じた自分の心の揺れが文字化・言語化され、それを再び目にすることに喜びや楽しみがあるのかなと思います。




なぜ、人々は『鬼滅の刃』に惹きつけられるのか

記者)なぜ、人々は『鬼滅の刃』に惹かれるのでしょうか?

植)私は、(読者のみなさんは)どっち側(の視点)なのかなって思ったんですよ。ヒーロー(炭治郎)側に対する自分の投影なのか、それとも、ヒーローに救ってもらう側に対する自分の投影なのか?攻撃者側(鬼)に対する自分の投影なのか?



鬼も鬼殺隊も背負う悲しみ どう折り合いつけるかに人々は共感


記者)どの視点に立つ読者が多いのでしょう?

植)『鬼滅の刃』は、とくに鬼(攻撃者側)と心理的なシンクロなさる方がとても多いですね。自分が「鬼側」であると感じるのは、乗り越えたい悲しい出来事や、何かに対する怒りがあるのかもしれません。状況であったり、環境であったり、他者からの抑圧や、今の時代で起きている出来事…そういうことで自分が摩耗してきた。ですから、自分の「心」が死ぬような思いをした時、残りの人生をどのような形で歩むのかというところに、皆さんの共感が生まれるのではないかと思います。

記者)では鬼殺隊側の視点とは?

植)そうですね。鬼殺隊側ものびのび生きているわけではなくて。酷い半生を過ごしてきた被害者もいます。被害者側も加害者側も何らかの悲しみを抱えていて。本来ヒーロー側にいるキャラクターも、悪として描かれる側のキャラクターたちも、過酷な「運命」の中で、自分の人生の折り合いをどうやって付けていくのかというところが、人々の心を動かしたのかなと。



ポップカルチャーと神話とのつながり探る「神神神」研究会


記者)植さんは、ポップカルチャーと神話とのつながりを扱うプロジェクト「神戸神話・神話学研究会(通称:神神神)」を立ち上げられたメンバーの一人です。そのきっかけは何でしたか?

植)私が所属している神戸大学国際文化学研究推進センターでは、毎年、共同研究プロジェクトの公募があります。ですが、所属する研究員は、専門領域が異なります。その時、共通するテーマとして「神話」を扱うのはどうだろうかと、研究グループ「神神神」が立ち上げられました。「神神神」は、伝承文学、イギリス文学、日本文学、西洋古典、ドイツ文学、歴史や思想史や精神史など、さまざまな分野を専門とする人たちで構成されています。

▼神戸神話・神話学研究会 公式サイト= https://shin3ken.wixsite.com/home



(写真:神戸神話・神話学研究会 公式サイトのロゴ)


植)「神神神」はではポップカルチャーも扱います。ポップカルチャーには、映画・アニメ・漫画・ゲームなど種類がたくさんありますが、私がメインで取り扱っているのは『鬼滅の刃』と『ジョジョの奇妙な冒険』ですね。ポップカルチャー以外の研究テーマもあり、今、私が個人で進めているのは、19-20世紀のドイツ語圏の民間伝承の「植物の迷信」についての研究です。


【前編】では、植さんの専門分野と『鬼滅の刃』とのつながり、植さんが考える『鬼滅の刃』のヒット理由などを紹介した。植さんによると、死者にまつわる神話的な物語と、鬼になった禰󠄀豆子に対する炭治郎の思いは、「たとえ人でなくなったとしても、愛する人は手放せない」という点で本質は同じだという。『鬼滅の刃』の登場人物を文学の視点から読み解いた植さんの記事は、奥が深い。
【後編】では、ウェブメディア「AERA dot.」に植さんの記事掲載を実現させた意外な人物や、植さんの好きなキャラクターなどについて聞く。

▼『鬼滅の刃』人気コラム著者 植朗子さんは伝承文学の研究員【後編】= https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/ecc6c2fe7921b1f27b16df943d11aaa5


(写真:2022年2月27日に予定されている植さんの学術イベント用の名刺。鬼滅の世界観が感じられる。神戸大学をバックに。)



植朗子(うえ・あきこ)
神戸大学大学院 国際文化学研究科 国際文化学研究推進センター研究員。
専門はドイツ語圏の伝承文学、神話学、比較民俗学など。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『〈神話〉を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。ニュースサイト「AERAdot.」の連載をまとめた『鬼滅夜話 キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』』(扶桑社)は5刷が決まった。

▼AERA dot.サイト=https://dot.asahi.com
▼扶桑社サイト=https://www.fusosha.co.jp

『鬼滅の刃(きめつのやいば)』
『週刊少年ジャンプ』(集英社)で2016年から2020年まで連載された吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)氏の漫画作品。映画化された「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は興行収入400億円を超え、日本映画史上の記録をぬりかえる大ヒットとなった。2021年12月5日からアニメ2期が始まり、現在「『鬼滅の刃』遊郭編」がフジテレビ、TOKYO MXなどで放送中。
作品の舞台は大正時代の日本。主人公の少年・竈門炭治郎は、ある日突然、鬼に家族を殺され、唯一生き残った妹も鬼にされていた。絶望的な現実に打ちのめされる炭治郎だったが、妹を人間に戻し、家族を殺した鬼を討つため、「鬼狩り」の道を進む決意をする。



「黙ってたらだめ。もっと学生側からの声を」 前応援団長・宮脇さんに聞く

2021-03-24 10:21:23 | 神大LIVE

インタビュー『LIVE』 全面禁止になった課外活動の門戸をすこしずつ開かせた交渉のキーパーソン
宮脇健也さん


 新型コロナウイルスの影響で2020年3月から課外活動が全面的に禁止された。5月末に緊急事態宣言が解除されても規制が続いたが、応援団長や体育会が嘆願書を出して粘り強く交渉し、7月6日の通知で7月半ば以降、課外活動が一部再開することになった。さらに2度目の嘆願書提出で、学内の一部の施設が9月2日から使用可能となった。その動きの中心だったのが、当時応援団長だった宮脇健也さん(経営学部・4年、3月25日卒業)。「黙ってたらダメ。学生側から伝えないと」という宮脇さん。「声が届けば、大学側も学生の声に耳を傾けてくれる」と語る。大学側にどのように交渉し、課外活動の部分再開への門戸が開いたのか。その過程の貴重な証言を聞いた。


(画像:オンラインでニュースネットのインタビューに答える宮脇健也さん。2021年3月9日午前)

 神戸大学学務部学生支援課は、新型コロナ感染拡大を受けて、2020年2月28日付で課外活動団体に対し、「不要又は不急の集会(食事会、飲み会を含む)や活動(対外試合、合宿、遠征を含む)は、可能な限り延期或いは中止するなどして、濃厚接触の機会を減らすよう努めてください」と『活動自粛』を呼びかけた。課外活動の規制は、ここから始まった。
 さらに3月4日付で、「練習、対外試合、合宿、遠征、食事会、飲み会等は、中止又は延期してください」と『活動中止』へと指示を強化。グラウンドや部室など大学の全ての課外活動施設の使用禁止を通知した。
 3月31日付の文書では、学外の施設で活動も禁止すると念を押している。「守られていないことが判明した場合は、規制解除後も一定期間の活動停止等のペナルティを科す」と、具体的な期間などは示していないが『罰則』について初めて明示した。
 そして4月9日以降、各学部は順次『入構禁止措置』を出し、学内から学生の姿が消え、課外活動はほぼ完全にストップした

●6月15日に嘆願書 「課外活動の禁止を解除してほしい」

記者)最初に嘆願書を出したのはいつでしたか?
宮脇さん)6月15日に「課外活動の禁止を解除してほしい」と言う旨の嘆願書を(学務部学生支援課に)出しました。3月に課外活動が禁止となって、5月には緊急事態宣言が解除されましたが、課外活動の制限は続いたままでした。
記者)中心となって動いたのは誰でしたか?
宮脇さん)当時、硬式野球部の梨木主務から、春のリーグは中止となってこのままでは四年生は秋リーグも出来ず引退することになってしまうと相談を受けて、当時の体育会の岸本幹事長に声をかけました。その後、四団連のトップに声をかけて、署名をもらいました。
記者)なかでも中心となって動いていたのは、応援団の宮脇さんだったと聞いていますが。
宮脇さん)応援を通じて多くのクラブと深い繋がりがあり、また大学側とも行事などでよく関わらせて頂いていたので、応援団が中心となって各クラブの事情を大学に伝える役割を果たすべきだと思いました。体育会の岸本幹事長にも声をかけ、よく動いてくれました。

●体育会42団体、学生学会2団体、応援団総部2団体が署名

記者)四団連(体育会、文化総部、学生学会、応援団総部)の代表が名前を連ねる嘆願書になっていますが、個別の団体からの署名はどれぐらい集まったのでしょうか?
宮脇さん)体育会42団体、学生学会2団体、応援団総部2団体の計47団体から署名が集まりました。岸本幹事長がしっかり動いてくれて、体育会は集まりが良かったです。
記者)四団連には文化総部もありますが。
宮脇さん)0でした。

 文化総部委員長、体育会幹事長、学生学会代表者、応援団総部団長の連名で提出された、6月15日付の「課外活動制限解除に向けての懇願書及び連帯署名」(ママ)はA4判2ページ。
 「緊急事態宣言が解除され、他の大学では6月に入ってからは感染対策を徹底した上で、活動の制限が解除されているところが多数あります」、「神戸大学でも感染対策を徹底した上での課外活動の再開をお願いしたく、 各団連の共同声明として嘆願書を提出させて頂きます。何卒よろしくお願い致します」と書かれている。さらに、他大学の課外活動の状況が次のように列挙されている。
 ・大阪市立大学→6月上旬より練習の再開
 ・大阪府立大学→6月上旬より練習の再開
 ・京都大学→7月より再開予定
 ・立命館大学→6月13日より再開
 ・関西大学→6月上旬より再開
 ・阪南大学→再開
 ・奈良学園大学→再開
 さらに、47団体名と代表者氏名を列挙した「連帯署名団体一覧」というタイトルのエクセルも添えられた。そこには文化総部の団体は一つもない。
 文化総部については、ニュースネットの2020年7月2日の取材に対し、当時の幹部が、加盟団体に署名のことを伝えるのを「忘れていた」と答えている。そのため47団体の中には文化総部加盟団体の名前がないとも説明している。



●学生支援課から「近日中に再開できるよう動きます」と返事

記者)大学のどの窓口に提出しましたか?
宮脇さん)学生支援課の課外活動担当に出しました。しばらく返事が来なかったんですけど、7月2日に、「返信が遅れて申し訳ございません、近日中に再開できるよう動きます」と返事がありました。
記者)返事が来た時はどう感じましたか?
宮脇さん)どういう再開の仕方になるのかなと言うのが気になりました。でも、ちょっとでも、前進したのでよかったかなと感じました。

 7月6日、学生支援課から課外活動団体に当てたメールで、8月14日まで禁止としていた課外活動について、「所定の手続きを踏めば再開可能にする」と告知してきた。

●7月に2回目の嘆願書を提出

記者)嘆願書はもう1回出されていますね。
宮脇さん)7月28日に「学内の施設を使わせてほしい」と言う旨の嘆願書を出しました。



●学外に限って認められた活動 「施設使用料が高くまともな活動できない」

記者)7月の2回目の嘆願は、どういった背景があって出されたのですか?
宮脇さん)1回目の嘆願書を出した時と、課外活動が再開された後に行くつかの団体にヒアリングしたところ、硬式野球部から、「学外で使えるグラウンドがほとんどなく、借りるお金も高く、このままではまともな活動ができない」と言われました。カッター部やボート部は学外で練習する場所がなく、練習する川の艇庫なども学内施設扱いだったので、練習ができていませんでした。また、吹奏楽部も、社会人野球の応援でいただく収入が活動資金になっているのですが、それが中止になって、(学外の施設を使おうにも)ほとんど収入源がなく、結局OBに頼らないといけない状況でした。それで、また嘆願書を出そうとなりました。

●9月からは学内施設が一部使用可能に

 8月7日、学生支援課は「学内の運動施設についても申請・許可を経て再開を可能にする」と発表した。最初の審査の対象期間は9月2日から9月30日の活動。初回の申請締切は8月12日で、9月1日に許可を出した。

記者)7月28日の2回目の嘆願書提出の際も1回目と同様に四団連に声をかけたんですか?
宮脇さん)大学内での会議に間に合わせるために、この時は体育会と応援団だけに声をかけて、36団体の署名が集まりました。
記者)返事はいつありましたか?
宮脇さん)8月7日に、「(学内施設の使用を)一部認めていくようにします」との返事がありました。そして、9月2日から、学内での活動が一部できるようになりました。

●大学との対立は避け 伝え方には気をつけた

記者)学生支援課を動かすために、どのような情報を収集しましたか?
宮脇さん)他大学の方に課外活動がどんな感じになっているかを聞いたりはしました。京大とかどんな感じで課外活動やっていくんや?、みたいな感じで。
記者)他大学とのつながりがあるんですね。
宮脇さん)関西の体育会の繋がりや、応援団が他大学の応援団と仲良くやっているので、そこから繋いでもらったりというのもありました。三商大のつながりのある大阪市大などとは、演舞交流会をやったりしてますし、京都大の応援団とも神京戦とかを通じて仲良くしてます。応援団同士ライバルでもあるけど、同じところ目指している仲間という感じで結構仲良くしています。
記者)大学に意見を出す際に注意した点は?
宮脇さん)大学から要請を受けて活動をしたりする応援団という組織である以上、対立したくないというのがあるので、現状を分かっていただくというような感じで、言い方、伝え方には気をつけました。



●四団連の機能・連携を強める必要ある

記者)課外活動申請での学生支援課とのやりとりを含め、大学とのやりとりで、もう少し四団連(体育会、文化総部、学生学会、応援団総部)が主体的に働きかける役割を担えないのかなと思うのですが。
宮脇さん)団連が機能していないなというのは感じました。繋がりが薄い。(各団体の代表者の集まる)リーダーズトレーニングで、改革していこうという動きはこれまでもあるんですけど、まだまだ機能していない。(今回のように)まとまって動かんと何もできひんっていうのもあるので、今後、応援団もしっかりやっていかなあかんなと思います。

記者)四団連のつながり、それと各団連の中のつながりが強固でないと、こうした危機に直面した時に、学生サイドの意見は大学に届きにくいですね。
宮脇さん)大学に対してだけじゃなくて、せっかくいろんな人がいる中で、一つのクラブの小さいコミュニティだけにとどまっているのはもったいないやろと思っています。(自分たちの)競技の上達のためだけに課外活動してるわけじゃないと思うんで、横のつながりというのは今後強めていってもらわんと困ります。

●課外活動の実情知らない大学 学生側から伝えなければ

記者)課外活動に対する規制は、宮脇さんたちの嘆願書などの力で徐々に現実に即した形で緩められてきました。そのつど大学側から提示されるルールは、一部の団体には適していても、他の団体には当てはなまらないものがある。なぜ、大学側は個々の部活・サークルの活動内容を理解した上でルール作りをしないのでしょうか?
宮脇さん)批判するわけではないんですけど、一昨年アメフト部レイバンズが大活躍したじゃないですか。でも、残念なことにそれを学生支援課の方は知らたかったんですよね。それが悲しかったのを思い出します。もちろん一人一人はすごくいい人で、こっちから相談すればアンサー導いてくれたりはするんですけど、「これはあかんよ」みたいな禁止が多く、押さえつけてる感があるんですよね。もうちょっと学生側がどういう状況なのかということは、(学生側から)伝えていかないといけないんだなというのは思いました。

記者)大学が課外活動を認め、規制を少しづつですが緩めたのは、やはり嘆願書の力が大きかったですね。
宮脇さん)学生の声が少しでも届いたのであれば、今後も、学生の声に耳を傾けてくれるのでは、というふうに思えます。

宮脇さん)黙ってたらだめ。学生側から伝えないと、大学側はどういう状況か知らはれへんということは、(今回の一連の動きで)わかりました。応援団が再建されたことで、大学と学生側とのミュケーションに生かせたかなと感じています。



●かけがえのない仲間や先輩 課外活動は大切な場

記者)3月に出た文科省の通知にも、新型コロナのクラスターの温床だとして、課外活動や寮生活には今後も厳しく臨もう、という姿勢が読み取れます。課外活動への支援は、とかく二の次に追いやられがちだと感じるのですが、どうでしょう。
宮脇さん)課外活動で作った仲間や先輩から、刺激を受けたり、自分の人格形成に関わってる部分があると思います。全部禁止じゃなくて、大学には(課外活動の大切さを)理解して欲しいなと思いますね。そして、私たちもその大切さを大学に対して伝えていかないといけない。敵対するんじゃなくて、理解してもらうことが大切なんだと思います。

【宮脇健也 みやわき・けんや】
1997年11月生まれ。立命館宇治高校、立命館大を経て、2018年神戸大経営学部編入学。第59代神戸大学応援団総部団長。2021年3月卒業。

【編集後記】
課外活動規制下で、どのようなルールを作るかは現在(2021年3月下旬)も試行錯誤が続いている。今回のインタビューと時系列のまとめを編集していて気づいたのは、結局、1つの団体が異議を唱えてもだめで、サークル・部活で足並みをそろえて要望しなければ意見はなかなか通らないという実情がわかった。
宮脇さんは、2018年に立命館大学から神戸大経営学部に編入学。休部状態になっていた応援団に入り、OBらとともに伝統ある神戸大学応援団を再建した。今回のインタビューで宮脇さんは、神戸大生に「もっと連帯を」と訴え、コロナ禍という今だからこそ「新しいことにチャンレンジを」と呼びかけている。3月25日には卒業し、4月からは在阪の民放テレビ局に勤務する。報道志望だという。宮脇さんのこの最後の「エール」を、全神戸大の学生に聞いてほしい。<インタビュー:前田万亜矢、塚本 光>


《コロナ禍のもとでの神戸大課外活動規制の動き》
学生支援課からの通知は、連絡メールからの抜粋、要約。

▼2020年
<2月28日付>活動自粛依頼
学生支援課が通知。
▽不要又は不急の集会(食事会、飲み会を含む)や活動(対外試合、合宿、遠征を含む)は、可能な限り延期或いは中止するなどして、濃厚接触の機会を減らすよう努めてください。
▽実施が避けられない活動等については、衛生管理に十分に努めて、開催方式を工夫してください。

<3月4日付>課外活動の中止又は延期へ
学生支援課が通知。
▽練習、対外試合、合宿、遠征、食事会、飲み会等は、中止又は延期してください。
▽大学の全ての課外活動施設(グラウンド、体育館、学生会館、その他共用施設等)の使用を禁止します。

<3月31日付>「活動禁止」守らなければペナルティ
学生支援課が通知。
▽全ての課外活動を禁止していますが、学外の施設で活動をしている団体があるという情報が複数寄せられています。感染拡大を防ぐための対策ですので、厳守してください。
▽この通知による措置が守られていないことが判明した場合は、規制解除後も
一定期間の活動停止等のペナルティを科すことがあります。

<4月7日>兵庫に最初の緊急事態宣言
兵庫県は、緊急事態宣言対象区域(特定警戒都道府県)に指定される。

<4月28日>活動自粛を延長
神戸大は公式ホームページを更新し、課外活動の自粛期間を6月25日まで延長すると発表。現在、兵庫県が特定警戒都道府県に指定されていることと、5月7日からの第1クォーターの授業がインターネットを用いた在宅受講となることに合わせ、課外活動についても第1クォーター終了日までは中止と発表。

<5月18日>新歓不調が明らかに
新型コロナウイルスの流行のため、新歓期に対面での活動ができない状態が続いている。メディア研のアンケート調査で、大型連休明けの時点で新入生の約65%がサークルをまだ決めていないこと、約9割の神戸大のサークル・部活では昨年より新入生の獲得状況が厳しいことがわかった。

<5月21日>緊急事態宣言解除
兵庫県は、緊急事態宣言対象区域(特定警戒都道府県)から解除された。

<6月15日>最初の嘆願書提出
四団連の代表者名で「課外活動の禁止を解除してほしい」という旨の嘆願書を、学生支援課に提出。体育会42団体、学生学会2団体、応援団総部2団体の計47団体の署名も。

<6月23日>課外活動禁止の延長
神戸大は新型コロナウイルス感染による活動制限指針の制限レベルを「レベル2(一部3)」から、「すべての活動において制限レベル2」に引き下げると発表した。課外活動は禁止のまま。

<7月6日>課外活動の一部解禁 毎週活動申請で
学生支援課は、8月14日まで禁止としていた課外活動について、所定の手続きを踏めば再開可能にすると告知。初回の申請締切は7月9日で、初回の許可日は7月17日。以降は毎週木曜日を申請締切に、1週間ごとに審査を行う。

<7月10日>1年生の活動認められる
「再開された課外活動に新入生は参加禁止」としていた学生支援課は、ニュースネット委員会の取材に対し「正式入部済みの新入生が参加することは可能」と見解を修正した。

<7月28日>2回目の嘆願書提出
体育会と応援団が、加盟36団体の署名とともに「学内の施設を使わせてほしい」という嘆願書を学生支援課に出す。

<8月7日>学内施設も一部使用可能に
神戸大は学内の運動施設についても申請・許可を経て再開を可能にすると発表した。審査の対象は9月2日から9月30日の活動。初回の申請締切は8月12日で、9月1日に許可を出す。

<8月31日>週1回から月1回の活動申請へ
学生支援課がは、10月以降、月1回の申請、審査に変更。審査結果の通知を、メールからホームページへの掲載に変更すると通知。

<9月10日>他大学学生も学外なら参加認める方針
学生支援課課は、他大学の学生も学外の課外活動に参加を認めると発表した。ただし、所属大学から活動許可を得ていることが確認できるものの提出が条件。学内での活動は認められない。

<9月10日>文化系活動でも学内施設が利用可能に
10月1日から活動制限指針がレベル1に引き下げられるのに伴い、学生会館の一部と鶴甲第1キャンパスのM101、D300教室などでも課外活動を認めると学生担当理事からの通知。学生支援課への申請書提出が必要。(通知文は10月14日付でサイトに掲載)

<9月14日>深江キャンパスの一部も使用認める方針
深江キャンパスの課外施設について、学会館、屋内プール、弓道場、グラウンド、艇庫、テニスコートでも課外活動を認めると発表。9月17日(木)までに申請書を提出し、許可されれば10月3日(土)から使用可能となる。

<9月18日>鶴甲第2キャンパス
鶴甲第2キャンパスの課外施設について、トレーニング室を除く体育館、テニスコート、グラウンドで課外活動を認めると発表した。9月17日(木)までに申請書を提出し、許可されれば10月3日(土)から使用可能となる。

<9月23日>学生会館の使用は文総がとりまとめへ
神戸大は、公認・非公認の課外活動団体の活動申請方法の一部を追加・変更した。学生会館の使用申請は文化総部への「仮予約」メール申請となり、許可の発表はサイトへの一覧掲示で行うことに。

<9月24日>守衛所での入構届を簡素化
神戸大は「学内施設における課外活動の一部実施について」のページを更新。▽許可を受けた課外活動のため入構するときは、臨時入構届ではなく同ホームページに掲載されている「許可一覧表」を守衛所で提示する。
▽部室内へは、用具搬出入・着替え等のための入室のみ可。
▽臨時入構許可願が必要なのは、「基本的に車両入構をする場合、または申請している活動以外の理由で入構する場合」と明記。
▽学生会館への立ち入りについては、学生支援課へ日時・氏名・目的の連絡が必要。学生会館の部屋ごとの定員数の目安も掲載。

<10月14日>利用可能な学内施設公表
学生担当理事・副学長名で通知文を大学サイトに掲載。使用できる学内施設はの一覧を公表。
・鶴甲第1キャンパス=学生会館(談話室、第1〜4集会室、音楽室、和室、大ホールのみ)、体育館、武道場、グラウンド、テニスコート、ハンドボールコート、洋弓場、M101、D300教室。
・鶴甲第2キャンパス=体育館(トレーニング室は除く)、テニスコート、グラウンド。
・六甲台第1キャンパス=武道場、弓道場、グラウンド、テニスコート、プール。
・六甲台第2キャンパス=馬場。
・深江キャンパス=グラウンド、大学会館、屋内プール、弓道場、艇庫、テニスコート。
・その他=淀川艇庫、西宮艇庫。

<11月5日>他大生は「神戸大基準」で参加可能に
神戸大は、9月10日の通知を撤回し、「他大学の学生は所属大学の許可の有無ではなく、神戸大の定めた遵守事項を守れば参加できる」とメールで通知した。しかし、学内での課外活動については、他大学の学生は参加できず、他校生の神戸大の入構は許可されない。

<12月25日>自由劇場に1年3か月の「活動停止処分」
神戸大は、同日付で自由劇場がコロナ禍のもとでの感染対策として大学側が定めたガイドライン違反に対し、全ての活動許可取り消し、1年3か月の課外活動停止、この期間の全ての助成費等の経済援助なし、という処分を下したことを告知した。初の罰則適応。

▼2021年
<2月22日>他校との試合一部例外認める
1月8日の文科省通知で、他校との試合、合同練習については原則として禁止となったものの、「例外として、各顧問教員より課外活動の参加必要理由書が有り、各連盟、各都道府県市等が主催又は共催し、新型コロナウィルス感染症対策のガイドラインが明確に定められている大会については認める」と学生支援課が通知。


●大学サイト「課外活動の制限について」(課外活動の取り決めまとめ)= https://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/sub_student/2020_08_07_02.html

●参考記事「創立60年を前に 完全復活への一歩を踏み出した応援団」(2019年07月03日)= https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/2958809b6805b1d7b1998064ed78d6d2