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芸術✕力 ボストン美術館展

2022-09-26 01:36:17 | 一期一絵

2020年春に開催予定だったボストン美術館展。楽しみで前の年に早くも前売り券を買っていたのだけど、コロナが世界的に蔓延してしまい開催直前に中止に。残念だけど致し方ない事で、でも前売り券は払い戻しせず記念に残してました。

そうしたら2年後に開催されることを知ってびっくり。コロナはまだまだ終息には程遠いけれど、様々な社会活動が復活して来てます。残しておいた前売り券はすでに払い戻し期間終了と共に無効となってましたので改めて日時予約しネットで支払い。展覧会に入場する際に入場券配布はされてなかったので絵柄の入った前売り券は記念の品になりました。後程本のしおりに使うつもりです♪

 

2022年に新しく作られたチラシは見開きにした豪華なもの。金色の表紙には大きな字で「2年、待ったゼ。」、そこに座りながら風に乗ってかわいい平安マロ姿の二人が「待たせたのぉ!」と言って飛んでくる。二人が目指した「UNSEALED!」と書かれた赤いマル印の点線を切ってめくると、「Landing」と書かれていて二人が中を覗き込んでいる。

時代が変化し暗いニュースが多い昨今の中で軽やかな明るさと、ホッとできるかわいらしさと洒落たユーモアを感じて、この空飛ぶ二人に是非お会いしたいと思いました。

 

ボストン美術館展は何度か日本で開催されてますが、今回は「芸術×力」がテーマだそうです。

世界の各時代の権力者や財力者が最高の作品を求め、芸術家は技術と創意を尽くして作り上げてゆく。権力者や財力者はその作品に満足しつつも更なる高みを望む。そして芸術家もそれに応えるべく更に技術を発達させ、新しい創意を見つけていく。   

贅を尽くした傑作は人々を感動させ、だからこそ人々は時には命を懸けて守り抜き、権力者がいなくなった後も輝き、今、私達はそのすばらしさを堪能する幸福を享受している                       

 

 

《メアリー王女、チャールズ1世の娘》アンソニー・ヴァン・ダイク 1637年頃

イギリス王室がベルギーから招聘したヴァン・ダイクによる王女の肖像画。ヴァン・ダイクはベルギー時代から高い技術で評価されていて、画家自身も美男子で優雅な雰囲気だったそうです。完璧の画力で描く肖像画は本人を的確に表現して、更に優雅さを加味して描き(つまりちょっと美化している)、王たちの要求を満たす。チャールズ1世は最高の肖像画家に自分や家族の肖像を描かせています。また有力な貴族もヴァン・ダイクに肖像画を頼み、彼に描いてもらう事がステータスにもなったそうです。以後、イギリスの肖像画はヴァン・ダイクの作風が理想となりました。

こちらはメアリー王女6歳の肖像画だそうです。大人と同じ衣装なので年齢と背丈が大きく見えるので、後ろにある柱を大きく描くことでモデルの王女はまだ幼い少女であることを示しています。

 

《ギター(キタラ・バッテンテ)》ヤコポ・モスカ・カヴェッリ イタリア 1725年

大きさはミニギターくらいです。美しく繊細で豪華な螺鈿細工と木の細工が埋め込まれてます。キタラ・バッテンテを作った職人の心意気を感じます。そして思わず正倉院の螺鈿細工の五弦の琵琶を思い出しました。

胴体の後ろの板はかなり膨らんだ形になっています。それは多分木の板を膨らんだ形にカーブして削ったのだと思うのですが、そうすると強度に問題が生じるのでしょう。後ろ板の中央にがっしりとした金属の支えが縦にあてられていました。弦は14本の金属弦、それを5つに分けて束ねています。ぎっしりと細工もして後ろに太い金属の支えもついているので持つとどっしりと重いのではと思いました。今も演奏することが出来るそうで、展覧会の公式Twitterで演奏したメロディを聞くことが出来ました。深みのある音色でチターの音色に近いように感じました。

 

《マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ》アメリカ 1929年

鮮やかで濃い緑色がとてもきれいでした。真ん中のエメラルドにはインドで彫られたというアイリスの花が浮き上がってます。アメリカでブローチに造られ、アメリカの大富豪のマージョリー・メリウェザー・ポストさんが実際に身につけたブローチだそうです。

 

《架鷹図(かようず)》伝 李厳 朝鮮王朝 16世紀

鷹狩は東洋の権力者たちが好んだ娯楽だそうです。確か西洋にもありましたね。

絵に描かれた鷹はさすが姿美しくで俊敏そうで気品があります。止まり木も美しい意匠がされてます。朝鮮半島の絵画の端正な美しさを感じる作品でした。

 

 

《雪山楼閣図》伝 氾寛 北宋 11世紀

以前「特別展 台北国立故宮博物院 神品至宝」展で、中国の水墨画は華北絵画と江南絵画があり、日本には江南絵画が伝わったそうで、華北絵画を見る機会がなかったと説明が書かれてました。そびえたつ皇帝を表す山、寒さ厳しい雪の季節の風景は正に華北絵画。鑑賞することが出来て嬉しかったです。説明では絵の中の漁師や旅人は庶民を表すと書かれてました。また「神品至宝」展では木々は臣下を表すと書いてました。風景の中に皇帝の偉大さを讃え臣民の忠誠心を表している。

 

 

《モンスーンを楽しむマハーラージャ、サングラーム・シング》インド北部 ムガル帝国時代 1720~1725年頃

インドのマハーラージャは高貴なため光を帯びてます。従者を門の外で待機させ、美しい侍女たち(もしくはお妃がたかな?)を従えて屋敷に入り、屋上から庭園を眺めています。寝床には宝石が並べられている。なんとも贅沢。

  

そしてボストン美術館展では日本の珠玉の作品を多くコレクションして、日本で展覧会を開催するたびに貴重な作品が来日し展示されます。

 

《華厳経(二月堂焼経)》奈良時代 8世紀中頃

寛永7年(1667年)に東大寺二月堂が火事になり、焼け跡から発見したお経だそうです。紺色の紙に銀色でお経が書かれてます。その焼けた部分がまるで今も神秘の炎を放って焼き続けているようにも見えます。表装は現代美術家の杉本博司氏がされたそうで、氏の写真作品で横長で静かな海と空を写した「海景」シリーズを思いだしました。

 

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》鎌倉時代 13世紀後半

この作品は日本に残っていたら国宝になっていたそうです。

源義朝と藤原信頼が武士団を率いて後白河法皇の住まわれる三条殿を襲撃し、御車を建物に付けてまさに後白河法皇を無理やり乗せようとしている場面。

その後、三条殿は火を放たれます。

作品に近づいてみると攻め入ってくる武士団、驚き慌てて逃げる貴族や侍女、近隣から牛車に乗り駆けつけてくる大臣、騒ぎに驚き暴走する牛、車に巻き込まれてしまう人と犬。人々が集まり混乱し行くさまがダイナミックに表現され、大きなうねりと緊迫感を感じ、それでいてそのどれも顔や鎧や衣装が精緻な筆致で描き分けられてます。絵の中から人々の阿鼻叫喚、馬のいななきが聞こえ、火の勢いや熱さが感じられました。

 

炎上した三条殿と混乱してゆく人々を後にして後白河法皇を載せた御車は武士たちに囲まれながら去っていきます。

日本の天皇や上皇は姿を描かれず、神秘的な存在のままでいます。現代ではお姿を拝見する機会はありますが、他の国にも昔は姿を描くことを不敬とする王室、もしくは皇室はいたのだろうか。もしくは今も存在するのだろうか。

 

 

《吉備大臣入唐絵巻(きびだいじんにっとうえまき》平安時代後期~鎌倉時代初期 12世紀末

平治物語絵巻より少し遡りますが。この絵巻こそが今回お会いしたい空飛ぶ二人がいる作品でした。4巻が同時に展示されてましたが、その第3巻にいました。

物語は吉備真備が遣唐使として唐にやってきたのだけど、優秀さを聞いていた中国の皇帝やお役人は吉備真備を困らせてやろうと企みます。先ずは鬼が出没して生きて返れるものはいないと言われる高楼に閉じ込めます。そこに昔遣唐使として唐に来て幽鬼となった阿倍仲麻呂が来て、吉備真備と親交を温めます。

上の絵は翌日様子を見に行った唐の役人が吉備真備が健在なのに驚き、新たな難題を突き付けてやることにします。真備は阿倍仲麻呂の超能力で空を飛んで楼閣をそっと抜け出し宮殿に向かいます。

 

飛んでる拡大図。着ている袍の袖や袴の裾や冠の後ろについている「えい(糸篇に嬰)」という飾りが風になびいてます。赤いお顔が鬼になった仲麻呂ちゃん。白いお顔が吉備ちゃん、飛んでいるときも正座してきちんと杓を立てて持っている。

 

二人は宮殿で皇帝と役人が企む様子を盗み聞きします。どうも「文選」という難解な書を試験問題にする様子。

 

役人が傘を持ったお供他数人を連れてやってくる様子と、楼閣を下から見上げている様子が描かれています。こんな風に同じ人物が何回も絵に出てきます。

役人が楼閣に上がったらすでに部屋の中には「文選」の文章を書き散らかしているのに驚きます。吉備ちゃんはこんなの日本ではみんな知ってるとうそぶく。

 

びっくりして本来お供が持つべき傘を自分で持ちながらあわてて帰る役人とお供。

 

役人は皇帝にそのことを報告。さて、次に何を企むのだろう・・・

次の巻では囲碁対決をします。吉備ちゃんは楼閣の天上の格子を使って上向きで囲碁の練習したり、対決の場で囲碁の玉を飲み込んだりして勝利し、怪しんだ役人が吉備ちゃんに下剤を飲ませても仲麻呂ちゃんの超能力で囲碁の玉が出ないようにしたりと、何とも緩くのんびりとした話に和みました。想像で描かれた唐の世界は、輿車が日本の牛車とそっくりだったり宮廷の様子もなんだか神社みたいです。この絵巻を読んだいにしえの人々もふふっと笑いながら楽しんだのかな。

 

ところで2012年にも「ボストン美術館展」が開催されてました。その時のテーマが「日本美術の至宝」で、《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》と《吉備大臣入唐絵巻》はその時も来日して展示されました。やはり素晴らしい作品ですからね!その時のパンフレットを持っているのですが、空飛ぶ吉備ちゃんと仲麻呂ちゃんはそんなにクローズアップされてませんでした。

また今回の会場のショップには2022年の「ボストン美術館展」のパンフレットと共に幻の2020年度のパンフレットも並んで販売されてましたが、2020年度版もやはり空飛ぶ二人は大きく載ってませんでした。が、2022年度版は空飛ぶ二人が大きく載っています。

2年遅れたけどやっと日本で開催されるよ~♪と一足先に知らせるため、飛んでる二人が展覧会の宣伝に起用されたと思うのですが、その絵がきっとコロナや政情不安の日々を過ごす中、企画者にも私たちにとっても、重い気分を軽やかにしてくれる新鮮で魅力的なキャラクターに見えたように感じられました。

飛ぶ二人のグッズはショップでも人気があって、Tシャツは売切れてました。

 

《厚板 萌黄地牡丹立涌模様》江戸時代 17世紀末~18世紀初頭

厚板とは主に男性の役の能装束だそうです。緑地に大胆な白い曲線と牡丹の花の刺繍(後で知りましたが、刺繍に似た立体織物だそうです)でずっしりと重そうです。能ははじめは庶民の娯楽だったけれど、次第に将軍や時の権力者に奨励されてどんどん格式が高くなり洗練されて、古典の知識を必要とする芸術鑑賞になりました。江戸時代でも幕府の公式の儀礼となり、大名も能を保護し稽古をしたそうです。武士社会の中で力のあるものがたしなむ芸能だったのですね。

 

展覧会の最後に展示されてたのはこちらの華やかな作品でした。

 

《孔雀図》増山雪斎 江戸時代 享保元年(1801年)

いつしか武家は文化をたしなむ知識階級となり、大名茶人の松平不昧、大名の親族の琳派の酒井抱一などのかなり高位の武士が芸術方面で名を残すようになっていきます。こちらも伊勢長島藩の大名増山雪斎(ましやませっさい)が描いた作品だそうです。

パッと見ると、鮮やかな孔雀を描いた伊藤若冲の作品かなと思いましたが、近づいてみると絵が違いました。隣で鑑賞していた人も同じことをつぶやいていました。

江戸時代、清の国から日本の将軍により招聘された沈南蘋という画家の絵から多くの日本の画家が影響を受けたそうですが、伊藤若冲も増山雪斎もやはり南蘋絵画から影響を受けたそうです。

若冲は素晴らしい写実のなかに、それとなく自分の持ち味を描き入れてます。例えば孔雀(孔雀と姿を似せて描いている鳳凰も)は羽の先端模様がハート♡型だったり、カッと見開いた目をしたり、鳳凰では人間のような色っぽい目をしていたりするのですが、増山雪斎の孔雀ははあくまでも厳密に対象を写実的に描いてます。とても端正で誠実で精緻な描写。

 

孔雀の顔をアップにしました。目のところ、下まぶたがあがっていくところなどかなり正確に鳥を描写してます。

なおかつこの作品は「満堂富貴」をテーマにし、絵の中に孔雀、木蓮の花、海棠の花、牡丹の花が描かれいずれもおめでたい意味が入ってるそうです。

この展覧会の珠玉の作品たちを鑑賞してきた私たちに最後に現れて寿いでくれて、幸あれと見送ってくれているように思えた作品でした。

 

今回作品数は56点と少なめでしたが、その分ゆったりと展示されていてとても見やすかったです。作品1点1点をじっくり見たいので、私にはちょうど良い数でした。それと時間指定制で人数が制限されていて人が団子のように詰まることがなく安心して鑑賞できました。

 

展覧会ショップではもし空飛ぶ吉備ちゃんズの扇子か団扇が売ってたら是非買いたいと思ってましたが、売ってなくて残念💦風に乗って空を飛んでいる二人の絵の入った扇子か団扇で風を起こすなんて洒落ていると思ったのですが・・・

結局吉備ちゃんズのしおりと、狩野探幽の絵の絵葉書を買いました。

 

《楊貴妃・牡丹に尾長鳥図》三副対のうち右副 狩野探幽 江戸時代17世紀後半

こちらの作品です。会場で展示されたのは三副対で、真ん中の絵に白い衣装をまとった楊貴妃が肉感的ではなくかわいく可憐に描かれて、両側の絵は花と鳥が描かれてました。その向かって右側がこの絵です。豪華な作品が多い中、探幽の繊細な筆致で描かれた牡丹と尾をひらひらさせて飛ぶ尾長鳥の組み合わせが可愛らしくて気に入って、今机の上に飾ってます♪


2 コメント

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きっとまた会えますよ (himary)
2022-10-14 11:51:56
ごみつさん
私も展覧会開催直前に骨折して無理かなと一旦諦めたのですが、8月の終わりにギブスが取れて、9月になってまだ右手に力が入らなかったけど、行ってきました。
行ってやはり見応えがあり良かったです!
ボストン美術館展はきっと何年かあとに開催されるような気がします。そして平治物語絵巻と吉備ちゃん仲麻呂ちゃん物語も再び里帰りしてくるような気がします。その時に出会いますように。私も再会したいな
作品数は同じチケットの値段なら多い方がお得なのだろうけど、体力も年々衰ろえてきてるし私も一作品ずつをじっくり鑑賞したいのである程度絞ってくれた方が個人的には嬉しいです。作品展示もゆったりとスペースがあるので見やすいし、なにより感染症の心配が軽減されるし。
空飛ぶマログッズ。展覧会ショップでも数点ありましたが、お菓子は箱代がかかっているのはわかるけど値段の割にお菓子が少ししか入ってなくてやめて、クリアファイルは見開きで複雑な構造でしたがマロ達のすぐそばに字がドーンと入っていてやめて、単体ではなくセットで売ってた絵葉書では小さくちょっと不鮮明に写っていてそれでセットで買う気にはなれず、結局栞を買いました。吉備ちゃんズと一緒に本の中の世界にlandingしたら楽しいなと思って♪
空飛ぶマログッズはこれから開発されてほしいな。期待大です♪
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行きたかったな~ (ごみつ)
2022-10-12 22:35:04
こんばんは。

ボストン美術館展の記事、興味深く、楽しく読ませていただきました。
西洋美術から東洋美術、工芸品や宝飾品まで、とても幅広く、しかも一流の作品ばかりで見応えがありますね。
展示されている点数が少な目なのもグッド。

展覧会って、それなりに集中力がいるから適正な展示点数ってありますよね。

空飛ぶマロ達、可愛い!私もこの2人のグッズ欲しいです。

平治物語絵巻、吉備大臣入唐絵巻、どっちも面白いですね!図書館に本がないか探してみよう~っと。
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