今年九月から統一教会に関する堅苦しい話が続いてきたので、今回は、統一教会に関心があれば興味をそそる話を寄稿してみる。最初は、統一教会系自民党役員萩生田光一政調会長から取上げる。政調会長とは「政務調査会長」の略で、その役割は「自民党として如何なる政策を打ち出すか」を取りまとめる責任者である。すなわち自民党のこれからの動きがある程度予測できることになる。
筆者は2022年10月03日に「統一教会と萩生田光一政調会長」を寄稿した。その時に萩生田は「旧統一教会への解散命令は困難」であると述べていた。自民党と協力関係にある公明党が、統一教会問題が国会で追及される過程で「政教分離」問題にまで発展しないよう「信仰の自由」という枠の中で論議するように躍起となっていた。これが令和4年10月3日に召集の第210回国会の運営方針であった。しかし、自民党内に統一教会から多くの選挙支援を受ける際に提出した「推薦確認書」問題や山際大臣辞任などがあったことから、旧統一教会被害者救済法や、統一教会に対して解散を視野に入れた「質問権行使」にと進んだことで、最も恐れた「政教分離」問題までには行きつくことなく前半戦を終了した。この状況は、羽生田の政調会長としての手腕が秀でたことによるわけではない。野党の中に統一教会や幸福実現党と手を結ぶ隠れ会員が潜んでいることから、論議が本質問題に発展しないように動いていることが幸いしたに過ぎない。
そんな萩生田が、同年11月13日、後半国会の方針をぶち上げた。それが東京新聞「地方での改憲議論を要請」である。
自民党の萩生田光一政調会長は13日、地方組織の政策責任者を集めた会議を党本部で開き、憲法改正に向けて「都道府県連でも地方議員と連携しながら細かく議論を進めてほしい」と要請した。海外進出した製造業について、円安を機に国内回帰を促すため、地域でニーズを掘り起こすよう求めた。
改憲を巡っては、岸田文雄首相(党総裁)が今年3月の全国幹事長会議で「地方において国民的な議論を盛り上げていくことが必要だ」と協力を求めた経緯がある。
出席者からは、物価・エネルギー高騰対策や、防災力を強化する国土強靱化のさらなる推進が必要との意見が出た。
この記事の不思議なところは、統一教会が問題となる前の本年3月に全国幹事長会議で改憲論議を盛り上げるように指示していたことを受けて、統一教会が問題となっている今になって(11月13日)論議を活発化させるように指示していることである。
自民党の改憲理由は「GHQの押し付け憲法はNOだが、統一教会案はYESだ」という恐ろしく無謀な論理で進めようとしている。この自民党改憲案は、統一教会の要請で進められてきたことが明らかになっているうえ、近年の国政選挙は憲法改正に必要な三分の二を確保するため統一教会の選挙支援を最大限に利用して行われたことが判っている。選挙支援を行う際の手口は、自民党公認候補であっても統一教会に「誓約書」いわゆる「推薦確認書」を提出させて身動きが取れないようにすることであった。これで自民党内部にいる反安倍派や改憲反対勢力を一掃する狙いがあった。この差配の中心にいたのが統一教会の申し子であって、自民党を私物化していた安倍晋三なのである。これらは本年7月に行われた参議院選挙までは実にうまく機能していた。
その後の政局は、統一教会を解散させる方向で動くことになった。そのような中で、萩生田光一政調会長は「地方において国民的な議論を盛り上げていくことが必要だ」と云い始めたのだ。つまり萩生田は、これもまた統一教会が地方議会を抑えるために準備した「日韓トンネル推進全国会議」を中心にして改憲運動を盛り上げようと考えているのだ。しかし、各地区の中心人物は、地方議会の議長などであることから、いま、下手に改憲を口にして動き出すと「推薦確認書」問題を追及され統一教会系の議員であることを自ら名乗り出ることに等しい。挙句の果ては、自らの政治生命する失う恐れすらあるのだ。そこまでの危険を冒して各県幹事長が改憲に動き出すかといえば、懐疑的な見方をするしかない。おそらく、政界中央の統一教会問題が地方議会に拡散するだけなのである。もしも、内閣支持率の低い岸田総理大臣が解散総選挙に打って出ても、地方組織は壊滅状態で、とても2022年参議院選挙のように統一教会を積極的に使った選挙運動を展開することはきない。ましてや、岸田総理大臣は、既に統一教会との関係を解消すると宣言している以上は、さらに、統一教会の支援を得ることはありえない。そのくらいの情勢分析ができているからこそ岸田総理大臣は、口が滑っても解散を言い出せないのだ。それなのに、なぜ、萩生田が、改憲論議を口にしたかである。
恐らく、平成29(2017)年10月22日に実施した衆議院選挙と同じような、姑息な手口でこの危機的な状況を脱しようとしているのだ。平成29年の衆議院選挙とは、森友学園問題及び加計学園問題で窮地に陥った安倍晋三を助けたるため、小池百合子が希望の党を設立することで野党を分断して安倍晋三の窮地を救うことであった。新興宗教の全面支援のもとで「緑のたぬき」と揶揄される小池百合子が八面六臂の大活躍で、当時の最大野党民進党を分裂させてしまった。その時の影響は、未だに尾を引いて、与党に対峙する野党という存在がなくなり大政翼賛会の様相を呈している。
それでは萩生田は、2022年11月に如何なる方法で、末期的な状態の自民党を救おうとしているのか。参考になる記事がある。
2021年11月12日付け、読売オンラインに「自民、憲法改正に積極的な維新に接近」が掲載された。
自民党が、衆院選で躍進した日本維新の会に接近している。憲法改正や防衛力強化に積極的な維新との連携で議論の前進を図るためだ。同様に国民民主党との連携も模索する。自民の改憲案の実現や防衛力強化に消極的な公明党をけん制する思惑もある。
国民民主との連携も模索
自民党の茂木幹事長は9日夜、維新の馬場幹事長と東京都内の中国料理店で会食した。茂木氏は「国民投票法を何としても一度は国民の手に委ねたい。国民に憲法を触らせたい」と述べ、改憲の国会発議と国民投票実施に意欲を見せた。馬場氏は「(国会で)憲法審査会をしっかり動かしてほしい」と要請した。
会合は、自民側が持ちかけた。両党の国会対策委員長らも同席し、国会で連携して改憲議論を進める方針を確認した。
衆参両院の憲法審査会では、野党第一党の立憲民主党などが開催を拒み、今年1~6月の通常国会では、衆院で4回、参院で6回の開催にとどまった。状況打開のため、自民は国民にも触手を伸ばす。自民党憲法改正推進本部の衛藤征士郎本部長は8日、国民の玉木代表に電話し、改憲論議で協力を要請。玉木氏は「憲法の議論は、どんどん進めなければいけない」と応じた。
自民内には「維新、国民を巻き込めば、与党だけで議論を進めていると批判されずに済む。今が改憲のチャンスだ」(幹部)との見方が広がる。与党に維新、国民を加えると、衆参両院で改憲の国会発議に必要な3分の2以上に達する。
維新と国民は衆院で計52議席を持ち、公明の32議席を上回る。自民党幹部は、「維新、国民と話をまとめれば公明は改憲の議論に乗らざるを得ない」と皮算用をする。維新は「野党として是々非々で付き合っていく」(松井代表)としながら、改憲論議ではむしろ加速に向けて自民に圧力をかける構えだ。
この記事にあるように、自民党と国民民主党そして維新の会は、既に、改憲に関して合意が成り立っているのだ。そして統一教会問題で窮地に立っている自民党は、統一教会に対する「質問権」を行使する前に「被害者救済法案」を成立させ、自民党内で脱統一教会が進んでいという体裁を取り繕いながら、同法案の成立とともに憲法問題に論点を切り替えることで、これ以上、統一教会に関係する不都合な事実が出ないようにすることを狙ったのだ。とくに文鮮明の「御言選集」が流出したことで安倍晋三、中曽根康弘など歴代自民党総裁のスキャンダルが続々と出て来る可能性が高いだけに、一刻の猶予も許されない。その結果として、萩生田は、今次国会の議会運営を憲法改正問題に切り替えて、統一教会問題で結束している野党を分断して事態の収拾を図ることを決意したのだ。それが本年11月13日の萩生田政調会長の発言の真意なのだ。
国会運営の力点を統一教会から憲法改正に切り替えるとどのような効果がうまれるかといえば、本年9月21日に立憲民主党と維新の会が統一教会問題で合意した国会内での共闘を終了させることができる。この共闘が終了したところで、維新の会と国民民主党が改憲問題で共闘することで、一枚岩ではない野党第一党立憲民主党も分断できる。つまり、萩生田の打った一石は、二鳥にも三鳥にもなる絶妙の野党分断作戦なのだ。加えて、改憲に慎重な公明党にとって最大のアキレス腱「政教分離」問題まで踏み込まれるよりは改憲に同意することで延命をはかることは願ってもない妙案なのだ。
つまり荻生田なかなかの策士なのである。
以上(寄稿:近藤雄三)
P.S.
実は、上記の寄稿日を一日伸ばしたところ、面白いニュースが配信されたので追記する。
2022年11月17日付け産経新聞「維新が改憲論議リード 立民を牽制、共産を攻撃、自民を叱咤」という記事である。
日本維新の会が今国会で改憲論議の「旗振り役」を務めている。憲法改正に慎重な立憲民主党に協力を呼びかける一方、改憲を「党是」と位置付ける自民党には主導権を発揮するべきだと発破をかける。自民と立民がともに党運営で弱みを抱える中、「第三極」の強みをいかし、来春の統一地方選や次期衆院選に向けて存在感を示す狙いもありそうだ。 「緊急事態条項の議論がかなり煮詰まってきている。憲法改正は必ずホットな話題になる」。維新の馬場伸幸代表は17日の衆院憲法審終了後の党会合で、改憲論議の進展に強い意欲を示した。
維新の存在感は先の通常国会に比べて高まっている。立民が憲法審をめぐり本格的な日程闘争を避けている理由の一つに、維新との政策実現を目的とした共闘関係を壊さないための配慮があるのは明らかだ。
一方、維新はそんな野党第一党の足元を見ている。支持層に護憲派も抱える立民は17日の憲法審で、改憲手続きに関する国民投票法改正の議論などを優先すべきだと主張した。維新幹部は「論点を拡散し、改憲テーマを絞り込ませないようにする魂胆が見え見えだ。しかし、改憲勢力のスクラムが崩れることはない。立民が背を向けるなら『さよなら』だ」と牽制(けんせい)する。
憲法審の開催にすら反対する共産党には容赦がない。馬場氏は先月27日の憲法審で、「維新が『憲法9条改憲の突撃隊』となっていることは明らか」とツイッターで発信した共産党の志位和夫委員長に反論。「SNS(交流サイト)といった土俵外でモノ申すのは止め、この場で堂々と意見表明されたらいかがか」と〝宣戦布告〟した。 維新の矛先は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を受け、憲法改正を訴える余裕がなくなったと指摘される自民にも向かう。馬場氏は先月27日の憲法審で、改憲実現への自民の奮起を促す一方、「それでも進まないなら維新が突撃隊となって改憲論議を引っ張っていく覚悟だ」と訴えた。 自民関係者は「うちが『結論を出そう』と呼びかけたら立民は蛸壺に入ってしまう。自民が受け身で対応できるよう、維新にはもっと声を出してほしい」と期待する。
是でお判りであろう。萩生田光一政調会長の号令で、維新の会、国民民主は統一教会問題で機能不全に陥っている自民党政権を救済するため、敢えて、この時期に憲法改正問題を持ちだしたのだ。今回の野党分断工作の中心となる維新の会と国民民主にも多くの統一教会関係者がいて、統一教会問題が自党に飛び火する前にもみ消す絶好の機会であると判断して「ユダ」役を演じることにしたのだ。そして、うまくいけば憧れの自民党公認が待ち受けている。