前号『統一教会に誓約書を提出した麻生太郎と「日韓協力委員会」』で日韓協力委員会の主導で日本の国益を大きく損なう「日韓大陸棚協定」「日本国と大韓民国との間の両国に隣接する大陸棚の南部の共同開発に関する協定」(いわゆる「日韓大陸棚協定」(南部協定))を締結したが、同協定が満了する3年前の2025年に日本が終了の意思を通告することができると規定されていることを受けて、またぞろ「日韓協力委員会」が動き出したことを報告してきた。今回は韓国国内で「日韓大陸棚協定」が如何なる動きになっているのかに付いてまとめてみる。
最初に取り上げるのは韓国経済新聞(2022年02月03日付)、韓国外国語大学教授パク・フィグォン氏の『【時論】日韓大陸棚協定終了、対応戦略が必要』とする記事である。この記事が書かれたのは2022年5月10日に尹錫悦が大統領に就任する前ものである。それだけ日韓大陸棚協定が韓国外交にとって重要な問題であるのかをうきぼりにするものである。
日韓大陸棚共同開発(面積約8万㎢)問題は次期政府の主要外交課題となりそうだ。現行共同開発協定は50年間効力をもち、2028年6月21日まで有効する。しかし、もし満了する3年前の2025年に日本が終了の意思を通告する場合は、直ちに大陸棚境界をめぐる日中韓3国の激しい海洋角逐戦が展開されると予想される。
2025年に本が終了意思を通告した場合、沿岸国間大陸棚確保をめぐる激しい競争が展開される。重要なのは「ポスト2028」体制が必ずしも日本が望む方向には展開されない可能性が高い点である。特に、中国政府は数回に渡って日韓共同開発について異議を出しており、協定満了は中国の参与を引き起こし、日中韓という3カ国間の海洋角逐戦に発展する可能性が高い。
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海洋境界画定の難しさと日中韓3国による紛争可能性を考えると、韓国としては現在の共同開発体制を維持・発展させるのが一番望ましい。従って、日本との関係改善とともに、効果的な開発政策の樹立、推進し、日本の誠実な移行を求める必要がある。日本の持続的な不移行について責任を問えるように、国際法上の根拠を蓄積していく必要もある。何より、2028年の協定満了後の、全ての可能性を念におきながら、対応戦略を緻密に準備しなければならない。
韓国では、2025年に日本が「日韓共同開発地区」を解消する旨の通告を行うことに強い危機感を抱いているのだ。この問題に強い危機感を抱いている韓国は、外交上の優位を保つために2012年12月に国連大陸棚限界委員会(CLCS)に自国の大陸棚の外縁を沖縄トラフまで延長することを申請している。その様子は、2012.11.26付け『中央日報』に見ることができる。
「韓国の大陸棚が沖縄トラフまで続いている」という内容の政府の意見書が年内に国連に提出される。
韓国外交通商部の当局者は25日、東中国海(東シナ海)大陸棚の境界に関する韓国政府の公式立場をこのように整理したと明らかにした。この当局者は「内部での検討が終わり、27日に国務会議に報告する予定」と述べた。この文書で政府は、韓国の領海基線から200カイリ圏外である済州道(チェジュド)南側の韓日共同開発区域(JDZ)内水域まで1万9000平方キロメートルの面積を韓国側の大陸棚と規定した。韓日が1974年に締結した「大陸棚南部区域共同開発協定」が適用されるところで、韓国の面積の20%に該当する。
日韓この問題では、条約締結後、国内法へ移行するまで4年もかかっており、それだけ問題の在る協定ということになる。河上民雄は『第75回国会 衆議院 本会議 第16号 昭和50年4月15日』で次のように政府を追及している。
024 河上民雄
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まず第一に、日本の大陸だな境界に関する考え方は、従来、大陸棚条約第六条に言う等距離中間線理論であったはずであります。かつ、今回の協定の交渉過程におきましても、政府は中間線理論を主張したと聞いております。当然、中間線理論をとれば、今回の共同開発区域の全部はすっぽり中間線よりわが国側に入り、わが国の主権的権利の及ぶ地域であるはずであります。しかるに、今回の協定では、そこが共同開発区域として、韓国の主権的権利が同時に及ぶことになっております。これは自然延長理論にわが国が屈服し、その結果、従来からの日本側の主張する中間線理論を放棄してしまったことにほかならないと私は思うのでございます。(拍手)このことは、海洋法会議その他の外交交渉におけるわが国の立場を著しく傷つけるものと言わなければなりませんが、三木総理は、この点についてどのようにお考えでいらっしゃいますか。
次に、中国との関係について御質問いたします。 中国の大陸だなに対する考え方は自然延長論であり、東シナ海の大部分は中国の大陸だなであると主張しております。地質学的に言えば、本協定に言う共同開発区域は、むしろ韓国の大陸だなというより、中国の大陸だなに属すると言われております。中国は、すでに昨年二月、外交部スポークスマン声明で、本協定に対し、これは中国に対する主権侵害であり、中国政府は絶対に容認できないとの抗議をしてきました。朝鮮民主主義人民共和国においても、ほぼ同趣旨の抗議を発しているのであります。 大陸棚条約によれば、「大陸棚が隣接している場合」その境界は第一次的に当事者同士の合意で決定され、合意がない場合、中間線をとるとされております。今回の共同開発区域は、まさしく日中韓に隣接している区域であり、当然第一次的に中国との合意を求めなければならない区域であると思うが、なぜ中国と話し合いをしてからこの協定を結ばなかったのか、お尋ねいたしたいと思います。(拍手) 中国側が共同開発区域は中国の大陸だなであると言う論拠に対し、日本側の等距離中間線理論を放棄して韓国の自然延長論を暗黙に認めてしまった今日、中国側の論拠に対抗することはできないと思いますが、いかがでございましょうか。 このように、中国を無視して既成事実をつくり上げてしまうことは、将来の東シナ海における大陸だな問題を非常に困難なものにしてしまうおそれがあります。この協定が、また日中平和友好条約締結に支障を来すのではないかと恐れるものでありますが、三木総理のお考えはどうでございましようか。
これに対する三木首相の答弁は「……数年にわたって長い間交渉して、日韓大陸だなの境界線については、両国の主張が平行線をたどって、いつまでたってもその地域の石油開発はできないと判断いたしました。他方、日本のエネルギー事情にかんがみて、この際、法的な立場は立場として、これを損なわない形で、問題を現実的に解決することがよいと判断して、本協定に署名をいたしたわけであります……」と答弁している。しかし、「日韓協力委員会」で凡その区割りを決めたのちに外交交渉が始まっているため交渉がもめることはない筈である。このことを過去の歴史に照らし合わせれば「対華二十一か条要求案」は、実は袁世凱が政敵である孫文をアメリカに放逐した場合の見返りとして日本に経済的利益を認めるとしたことから始まるが、交渉の混乱は「中国国民には日本による圧力に対抗して交渉した」と見せるための演出であったということに酷似している。そもそも外交は、条約締結後、国内法へ移行することは「如何に国民をだますのか」が最も重要な点だということにある。岸と矢次が主導した「日韓協力委員会」は、この点まで織り込み済みであったと考えられる。
ところで交渉を行った外務省は東シナ海の領海について「……(我)国は、境界が未画定の海域では少なくとも中間線から日本側の水域において我が国が主権的権利及び管轄権を行使できるとの立場をとってきた。……」としている。外務省の主張からみても、日韓共同開発区域の策定は以上なのだ。それも国家としての主権すらない。やはり岸と矢次による税金のかからないブラックマネーを確保するためだったと考える以外ない。
ところで、2025年に協定の終了の意思を通告する場合に想定される両国で起こりうる問題を考えてみる。韓国は、現行協定を延長することが最も有利である。しかし、交渉となった場合に、最終的な結論が現行協定の延長とするため、国連大陸棚限界委員会(CLCS)に自国領海の拡張を申請している。周到な準備を10年も前から始めているのだ。
対する日本の現状は「日韓協力委員会」を通じて日韓の外交問題を決めてきた手法が機能しない可能性が出てきた。それは、統一教会問題を契機として自民党政権が存続して韓国の希望に沿う同協定を継続させることができない可能性もでてききた。併せて「日韓協力委員会」の提言に従い外交問題を政策に反映させる役目を負ってきた「日韓議員連盟」の中心人物(会長:額賀福志郎)は、統一教会問題で一挙に政界を引退せざるを得ないことから実質的な活動を停止する可能性が高い。その兆候は、自民党は統一教会との関係を断つことを宣言していることから、統一教会関係議員は次の選挙では当選することがおぼつかなくなることは十分に予想される。そのうえ、安倍晋三が尖閣問題から自国領海を死守することのために軍拡を開始している中で、日韓大陸棚協定だけは「友好」「親善」や「愛国」等の美名で国民をだますことはできなくなっている。つまり岸信介と矢次一夫が「日韓協力委員会」で取り決めた東シナ海の石油および天然ガスなどの資源配分構想と、マネーロンダリングを組み合わせた外交政策での解決は不可能なのである。
(続く)(寄稿:近藤雄三)