ヘイト法(いわゆる『ヘイトスピーチ解消法』)をご存知でしょうか。この法律は、左派がヘイトスピーチを問題にしたのを皮切りに、2016年、いわゆる保守派の人たちが中心となって作られた法律です。
しかし、この法律には、数多くの問題点が指摘され、国連人権理事会からも厳しい勧告を受けていますが、日本国政府は無視し続けています。
ヘイト法にはいったいどのような問題があるのでしょうか。
●日本人へのヘイトスピーチを「容認」
このヘイト法の正式名称は、『本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律』です。
この法律においては、『本邦外出身者』を『第二条』において『「専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの」』と定義しています。
つまり、この法律は、日本人に対するヘイトスピーチを意図的に無視し、外国人に対するヘイトスピーチだけを解消する対象とした、とんでもない法律なのです。
日本国内においては、日本人は大多数派であり、日本人へのヘイトスピーチは起こらないだろうから、日本人へのヘイトスピーチをわざわざ解消する対象としなくても良いのではという意見もあるでしょう。
しかし、ヘイトスピーチというのは、結構簡単に行うことができるものです。例えば、外国人が「日本人死ね」や「日本人は消えろ」「日本人は日本から出て行け」など言えば、それはヘイトスピーチです。
言うだけでも、ヘイトスピーチです。つまり、日本人は大多数派であり、日本人へのヘイトスピーチは起こらないということはないのです。外国人がその気になれば、日本人へのヘイトスピーチを引き起こすことは可能です。
そもそも、ヘイトスピーチは差別と密接な関係にある問題ではありますが、差別と完全に一致するわけではありません。言葉に限定されますが、それ以外の点では差別よりも広い概念です。人種等や信条を理由にして「侮辱、排除の煽動」などを行うことがヘイトスピーチです。
そして、現に、今、日本人へのヘイトスピーチが起きています。この前はクルド人が「日本人死ね」という事態が発生しました。これは「病院行け」と言ったという説もありますが、どちらにせよ人種等や信条を理由にして侮辱や排除の煽動を行うものであり、ヘイトスピーチです。
海外でも、「アメリカなのにアメリカ人が差別される」というような一見すると良くわからない実態が頻発しています。
日本人へのヘイトスピーチを解消することも大切なのです。
●日本人「だけ」に外国人へのヘイトスピーチ解消を強要
しかも、この法律は、『第三条』において、日本人を差別する姿勢を明確にしています。
『第三条』では、『「基本理念」』などと題して、
第三条 国民は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性に対する理解を深めるとともに、本邦外出身者に対する不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない。
と規定しています。まず、これは「国民の責務」ですから、『「基本理念」』とするのはおかしいです。
そして、ここでは、外国人に対するヘイトスピーチを解消する責務は、国民、すなわち、日本人にのみあると明言しています。
ここでは、外国人による外国人へのヘイトスピーチも無視されているのです。
ここから読み取れるのは、法律を作った人物は日本人だけがヘイトスピーチをする悪者であり、外国人様はヘイトスピーチされるだけの善人であるという価値観を持っていることです。
これは、明らかな日本人への差別です。
●国連人権理事会も「差別性」指摘...『ヘイトスピーチ解消法』の正体は「日本人ヘイト法」
何も、このような主張は、私だけが行っているのではありません。
国連人権理事会も、2018年、「あらゆる人に対するヘイトスピーチを対象に含めるよう保護範囲を適切なものとするなど、ヘイトスピーチ解消法を改正すること」を勧告しました。
つまり、国連人権理事会は、『ヘイトスピーチ解消法』に日本人へのヘイトスピーチも対象に含めるよう、日本国政府に厳しく要求しているのです。
しかし、日本国政府は、これを無視する態度を貫いており、ヘイト法はいまだ改正されたことがありません。
このような状況を見るに、『ヘイトスピーチ解消法』の正体は、日本人に対するヘイトスピーチを容認し、挙句の果てには、積極的に推進する「日本人ヘイト法」といえるのではないでしょうか。
●世界最悪の日本人ヘイト法は「違憲立法」
このような日本人ヘイト法は、憲法に違反します。
憲法第14条では、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と明言されています。
つまり、日本人に対するヘイトスピーチを見逃したり、日本人にだけ外国人に対するヘイトスピーチの解消を強要したりする日本人ヘイト法は、明らかに、日本国憲法の保障する「法の下の平等」に反し、日本人か、外国人かという「人種」や「社会的身分」において差別する憲法違反の法律だということです。
憲法は最高法規であり、これに反する法律は無効です。
この日本国においては、このような憲法違反の法律が、なんと7年間も放置されているのです。
●世界最悪の日本人差別法を作ったのは『保守』!?...自公案よりもまともな野党案
このような日本人差別の悪法を率先して作ったのは、なんと、愛国を自称するいわゆる『保守』の人々でした。
特にあの西田昌司議員が中心となって、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」という日本人ヘイト法が提出され、その後、衆議院と参議院で文字通り強行採決され、成立しました。
その前には、野党から「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案」という法案が出されていたのですが、これは「人種等差別防止政策審議会」を設置する旨があること、「民間団体への活動支援」という利権を生みかねない規定があるなどの問題がありました。
しかし、「人種等を理由とする差別」というように、あくまで人種差別撤廃条約などに沿ったものであり、実際には日本人差別に向かうとしても、理念的には日本人に対する差別も禁止しており、逆に日本人が武器として使うこともできる法案でした。
これに対して自公案は「本邦外出身者に対する」として日本人が武器として使う可能性を消滅させたばかりか、野党案の「何人も、」から始まる禁止規定を改悪し、「国民は」としました。
こういった事実を踏まえると、明らかに自公案よりも、野党案の方が優れていたと感じます。仮に今、野党案が通過していたならば、今ごろ、法律を逆手に取って日本人ヘイトに対する反撃が始まっていた未来も想像できます。
しかし、自公案のせいで、日本人ヘイトと戦う前に法律と戦わなければならなくなっています。本当に余計なことをしてくれたという印象です。
小山常実氏も、当時、自公案について「自公案は、明らかに民主党案よりも下劣な案であり、日本国民を差別する案である。それは、之まで指摘してきたように、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」という名称自体に現れている」と述べました。
また、「自公案は、頭から、差別する悪者は日本人、差別される善なるものは外国人と決めつけた法案である。理念的に日本人を悪者とする日本人差別法案なのである。」とも述べました。
『保守』の人々は、どうしちゃったのでしょうか。やっぱり、愛国心なんかなくて、ただ売れるから「愛国」と言っていただけなのでしょうか。
ともかく、私は、この事実を知ったとき、いわゆる『保守』の人々を全く信用できなくなりました。
と、私の個人的な話は良いとして、日本人ヘイト法は法律自体に罰則こそありませんが、裁判や会社などで大きな影響を発揮することになるでしょう。
例えば、日本人に対するヘイトスピーチで賠償を求める裁判が行われても、原告側が敗訴となる可能性が高いです。
そして、会社などで、韓国や中華人民共和国の企業との取引をしている中で、その企業の製品の問題点を指摘したら、韓国人や中国人に対するヘイトスピーチとして宣伝される可能性があります。
そうなれば、その実態はどであれ、会社の信頼は地に落ち、指摘した社員も、会社もTHE ENDになります。※このことは、小山常実先生の「「ヘイトスピーチ法」は日本人差別の悪法だ」に載っていた話です。
日本人ヘイト法は、権利の平等に反するだけでなく、競争の自由(自由競争)さえも侵害してしまうのです。
さらに、社員の生活が脅かされる事態が本当に起きてしまえば、憲法第14条第1項どころか、憲法第13条が保障する国民の幸福追求権や憲法第25条の保障する健康で文化的な最低限度の生活を営む権利さえも侵害するものになります。
日本人ヘイト法は、日本人にとって脅威でしかないのです。
●罰則条例でいよいよ始まる日本人弾圧...あの治安維持法が米粒レベルになった
この日本人ヘイト法は、理念法時代(2016年~2020年6月30日)までは、せいぜいTwitterで「日本人ヘイトはヘイトスピーチではない」とか言われたり、「日本人ヘイト」としか言えないような差別的言動が平然と行われたりするにとどまっていました。(もちろん、上で示したようなリスクははらんでいるが。)
しかし、神奈川県川崎市で『川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例』が成立・施行すると、状況は一変しました。
これまで、理念法だった日本人ヘイト法に罰則が付きました。これで、いよいよ日本人ヘイト法が憲法違反ではないという言い訳はできなくなりました。
条例によって罰則が付いたのですから、「理念法」だから合憲、みたいな意味不明な言い訳はできません。
そして、実は、西田昌司議員などのいわゆる『保守』の人たちが、日本人ヘイト法を制定するときに、本物の保守派の皆様に、「理念法だから大丈夫」みたいな言い訳をしていました。
ですから、当然、このような罰則条例には反対するべきでしょう。しかし、これらの人々は、誰一人として声を上げませんでした。
こうして、日本人ヘイト法は、罰則が与えられ、ついにはあの悪名高い治安維持法をも軽くこえてしまう、正真正銘の悪法となったのです。
この流れに対抗する動きとして小山常実先生が「日本国民及び本邦出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」を公表されました。私も、最近、日本人ヘイト法への打ち返しとして「人種等を理由とする不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」をつくりました。
※治安維持法が、反政府思想を見えないようにする(取り締まる)だけにすぎない(これでも十分やばいが)のに対し、日本人ヘイト法は、日本人そのものを悪の存在とみなし、その滅亡を目指して日本人へのヘイトスピーチを容認・推進しています。日本人ヘイト法の悪法度合いを100とすれば、治安維持法は1未満で、もはや米粒よりも小さく、(言論弾圧法としては)ポンコツすぎて映れば良い程度になるでしょう。
※一時は最悪といわれた言論弾圧法が、(言論弾圧法としては)ポンコツすぎて目も当てられない事態になるとは、治安維持法制定当時誰が予想していたでしょうか。ほかにも、戦後は優生保護法やら何やらで、かなりの数のやばい政策が行われてきたことを考えると、戦後史こそが日本最大の暗黒の歴史なのかも知れません。一刻も早く、この暗黒の歴史を終わらせなければ日本にとってとんでも事態が起きるような気がしてなりません。
●憲法違反・日本人差別の日本人ヘイト法は廃止を!
現在、日本人ヘイト法に罰則を付ける条例が、さまざまな地方自治体で制定されようとしています。
ひとたび罰則が付けられば、日本国の国家権力はもう日本人の味方ではありません(日本人ヘイト法制定時点で味方ではなくなっているが)。明確に日本人の敵となります。
私は、日本人として、憲法違反の日本人ヘイト法に罰則を付ける条例の制定の阻止と、日本人ヘイト法そのものの廃止を唱えていきたいと思います。
自由社の「新しい公民教科書」は「ミニ知識 法の下の平等に反するヘイトスピーチ解消法」というコラムの中で「規制を認めるとしても、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」だけではなく「人種等を理由にする不当な差別的言動」全体を問題にすべきである。そして、国民だけではなく日本居住の外国人にも義務を課すべきである。同じことを、2018年、国連人権理事会は日本政府に対する勧告の中で指摘した。本法は、明らかに権利の平等に反する法律である。」と記していましたが、国家権力によって傍線部が削除されました。
また、タイトルから「法の下の平等に反する」が削除され、日本人ヘイト法が法の下の平等に反することを指摘するためのコラムの趣旨は大きく歪められました(詳しくは→法の下の平等に反する『ヘイトスピーチ解消法』の問題点を指摘した自由社の「新しい公民教科書」を評価する)。
たとえ、日本国の国家権力からどんな弾圧や抑圧を受けようが、私は屈しません。この差別法に抵抗し、尊厳を守りたいと思います。
皆様もまずは、日本人ヘイト法を肯定する呼び方である『「ヘイトスピーチ解消法」』という呼び方をやめて、「日本人ヘイト法」と呼びましょう。
小山常実先生も、日本人ヘイト法について非立憲主義のとんでもない法律だと自身のブログに書き、『「ヘイトスピーチ解消法」』ではなく日本人ヘイト的な意味で「ヘイト法」と呼んでいます。
ともかく、『「ヘイトスピーチ解消法」』という呼び方だけはやめましょう。私のおすすめは「日本人ヘイト法」ですが、「ヘイト法」という呼び方も良いと思います。
憲法違反の日本人ヘイト法廃止のために、ともに戦いましょう。
※法の下の平等と人種などによる差別を禁止する憲法第14条等違反(違憲)、人種差別撤廃条約第2条及び第5条違反(国際法違反)。
人種差別撤廃条約(抜粋)※傍線部は筆者。
第2条
1 締約国は、人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため、
(a)各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する。
(b)各締約国は、いかなる個人又は団体による人種差別も後援せず、擁護せず又は支持しないことを約束する。
(c)各締約国は、政府(国及び地方)の政策を再検討し及び人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、廃止し又は無効にするために効果的な措置をとる。
(d)各締約国は、すべての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法を含む。)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる。
(e)各締約国は、適当なときは、人種間の融和を目的とし、かつ、複数の人種で構成される団体及び運動を支援し並びに人種間の障壁を撤廃する他の方法を奨励すること並びに人種間の分断を強化するようないかなる動きも抑制することを約束する。
2 締約国は、状況により正当とされる場合には、特定の人種の集団又はこれに属する個人に対し人権及び基本的自由の十分かつ平等な享有を保障するため、社会的、経済的、文化的その他の分野において、当該人種の集団又は個人の適切な発展及び保護を確保するための特別かつ具体的な措置をとる。この措置は、いかなる場合においても、その目的が達成された後、その結果として、異なる人種の集団に対して不平等な又は別個の権利を維持することとなってはならない。
第5条
第2条に定める基本的義務に従い、締約国は、特に次の権利の享有に当たり、あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種、皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに、すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する。
(a)裁判所その他のすべての裁判及び審判を行う機関の前での平等な取扱いについての権利
(b)暴力又は傷害(公務員によって加えられるものであるかいかなる個人、集団又は団体によって加えられるものであるかを問わない。)に対する身体の安全及び国家による保護についての権利
(c)政治的権利、特に普通かつ平等の選挙権に基づく選挙に投票及び立候補によって参加し、国政及びすべての段階における政治に参与し並びに公務に平等に携わる権利
(d)他の市民的権利、特に、
- (i)国境内における移動及び居住の自由についての権利
(ii)いずれの国(自国を含む。)からも離れ及び自国に戻る権利
-
(iii)国籍についての権利
-
(iv)婚姻及び配偶者の選択についての権利
-
(v)単独で及び他の者と共同して財産を所有する権利
-
(vi)相続する権利
-
(vii)思想、良心及び宗教の自由についての権利
-
(viii)意見及び表現の自由についての権利
-
(ix)平和的な集会及び結社の自由についての権利
(e)経済的、社会的及び文化的権利、特に、
- (i)労働、職業の自由な選択、公正かつ良好な労働条件、
失業に対する保護、同一の労働についての同一報酬
及び公正かつ良好な報酬についての権利(ii)労働組合を結成し及びこれに加入する権利
-
(iii)住居についての権利
-
(iv)公衆の健康、医療、社会保障及び社会的サービスについての権利
-
(v)教育及び訓練についての権利
-
(vi)文化的な活動への平等な参加についての権利
(f)輸送機関、ホテル、飲食店、喫茶店、劇場、公園等一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所又はサービスを利用する権利
日本国憲法(抜粋)※傍線部は筆者。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第十八条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
第二十三条 学問の自由は、これを保障する。
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
※第三十一条は、法律が無効である場合に必然的に生ずる違反。第14条以外については、結果的側面が強い。