昭和63年は仕事上でも私生活面でも起伏の激しい年だった。5月に同期で入社した
友人が亡くなり、その6月には妻が頸椎ヘルニアで5時間にも及ぶ大手術の後、3ヶ月
の入院をした。丁度その年は私の厄でもあり、これも何かの因縁かも知れないと思っ
たりした。妻が入院し子供と3人で暮らしている間に銃の更新手続きがあった。
狩猟をすれば動物の命を奪うことになる。親を獲れば残された子はどうなるのか等と、
普段の思いとは全く違う考えが出たり入ったりして、どうするのか纏まりのつかない状
態だ。
銃を扱うのに自分自身の気持ちが、きっちりとしていないこと時点で銃を手放すべき
なのは明確で、悩むべき問題ではないのだ。強引にそれが正しい答えだとして、狩
猟を辞める決心をした。短期間に出した結論ではない。あれほど好きで楽しんできた
狩猟を辞めさせるのだから随分と悩んだ。趣味としては高度な技術を要するし健康
維持の為には身体を使うのでとてもいい。狩猟していた5年間はどんなに寒い時でも
風邪を一度もひかなかったが辞めた途端に風邪をひくようになった。
自然保護と狩猟の関係に対する持論は今でも変わっていないし、狩猟が嫌になって
やめたのでもない。ちょっとした心の隙間に友の死、妻の病気が重なっただけだ。
でも2度と銃を手にすることはないだろう
第二章、おわり