自分で捕まえた魚を飼ってみようと思い立つ。無理は承知で渓流の山女を生かし
て帰り水槽に入れる。山女は岩男より下流に住む虹マスの陸封型で淡いピンクの
横線に斑点があり注意深い魚だ。水温が高いだろうから長期的に飼うことは難し
いかも知れない。ほんの数時間前までは渓流を自由奔放に泳いでいたものが狭
い水槽に入れられて、あちこちで水槽にぶつかりすっかり元気を無くしてしまつた。
ここの環境に順応するとは思えないが塩焼きになるよりは少し長生きができると勝
手なことを思う。水温の克服はできず今だかつてお目にかかったことのない菌で
遂に尾が腐れ始め、身体中に広がり死んでしまった。
水温を下げることの出来る器具が今、出来ているのかどうか知らないが当時は叶
わぬ夢だった。夜の海辺は小魚が明かりの下に集まる。小魚なら水槽への順応
性は高いだろうし餌付けも簡単に出来ると考え海水を汲むポリタンクを三つ持っ
て恵曇の海岸に出かけた。タモで群れているクロの子、桜エビを捕らえ早速、水
槽に放す。クロの子は一人前に真っ黒になったり灰色に戻ったりして見せる。水
槽への慣れは早く、水も故郷のものだから何の不足もないだろう。
餌は魚の骨に身を残したものを与える。おこぼれは下の桜エビが貰い受ける。
それからが大変だった。1〜2週間おきに水汲みに往復2時間の道程を通うことに
なった。餌は毎日やっているのに桜エビの数が減っている。よく見ると岩の陰に足
や手の殻がある。餌不足で共食いしてしまったのだ。弱肉強食の下剋上が自然
界の淀なのだ。1ヶ月も経つとクロは5センチ程度に育ち逞しささえ漂わせてきた。
友達が欲しいのか?キュウセンべラを釣り水槽に加える。こいつは飼うまで砂に潜
って寝ることを知らなかった。姿がなくなりまたエビの餌になったかと思っていたら
砂の中からチャッカリと顔を出していた。
別名、ギザミとも呼ばれ広島では珍重されるがこちらでは見向きもされない。白身
だが骨は緑色しておりあっさりとした味ながら箸が出て行かない魚だ。
セイゴの小型、サザエ、カニと色々、飼ってみた。海のミニ公園ができたようで楽し
く見せてもらった。
動物には口があり環境がある。多少のことは人ができるが所詮、人間の浅知恵で
彼らの望むことはしてやれない。魚を飼いながらそのことはつくづく感じた。
♪海は広いな大きいな♪
海を見ているとその雄大さに自分の心も
もっともっと広くなるような気がする。
寄せては返す波が語る。
小さいことにこだわるな、
ほら、ちゃんと次の波がくるさ。
人の世は辛抱の連続だろう。
ゆったりと行こうじやないか。
機を逃しても私のように寄せては返すのさ。
第一章 おわり
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