K.H 24

好きな事を綴ります

義賊とカルトの温床。僕らはどれを選ぶのか。①

2020-01-07 16:03:00 | 小説
①警視庁捜査一課益田絢子警部補
 
 益田絢子警部補は、父親である紘明の後を継ぐように警察官になった。父親は所轄の刑事部で巡査部長だった。優秀な実績を持つも謙虚さが勝り、昇進を望まず現場主義の人間だった。残念な事に、若くして凶悪な殺人犯の逮捕時に殉職してしまった。
 犯人に手錠をかけ、他の捜査員に応援の連絡を取った時、刃渡り6cmのナイフで胸部と腹部を数10回刺され意識を失った。その後、犯人が益田巡査部長の手首を切断しようとしてる時、応援に来た数名の警察官が犯人を取り押さえ、手首の切断を免れた。その時に益田巡査部長と組んで捜査をする事が多かった、相棒的存在である本庁の横井警部補も駆け付けていた。横井は犯人を自分の拳が折れるまで、犯人の顔が変形するまで、意識が無くなるまで、殴り続けた。バキバキ音を立てていた。これは、紛れも無く、怒りの感情が噴出した過剰攻撃であった。その後の横井警部補の逮捕時の行為が問題となり、半年間の謹慎処分を課せられる事になった。
 凄まじい逮捕劇の後、益田巡査部長と犯人の男は共に救急搬送された。益田巡査部長のみ出血多量で死亡した。絢子が21歳、大学3年生の時だった。
 絢子は、父親の仕事振りは尊敬していた。事件の捜査が始まると、自分よりも歳下ながら、階級が上で捜査一課の横井定幸警部補と協力し合っていた。時々横井が家に来て晩酌を共にした。それを見る絢子の目には、2人が名コンビに映った。しかしながら、時折、傷を負って帰宅する父親を心配せざるを得なかった。致命的な負傷を負って欲しくなかった。それは、献身的な母親橙子の姿を見ていたからだ。
 しかし、その心配はただ自分を不安にするだけで、有ってならない事態を迎えたのだ。
「奥さん、お嬢さん、益田巡査部長は殉職されました。犯人逮捕時に。」
 予測しないタイミングで横井警部補が益田の自宅に訪れた。両手に包帯を巻いて、大粒の涙、大量の鼻水を流しながら。
「ご、ご主人様を迎えに行きましょう。ご準備願います。」
 横井の隣りに立つ制服警官が絢子と母親の橙子にそう言い、深々とお辞儀し、涙を地面にぽとぽと垂らし、その姿勢を取り続けた。
「はい、ご苦労様です。わざわざ私達を迎えに来て下さってありがとうございます。少しお待ち下さい。」
 橙子は、横井達と違い、凛とした姿勢で、覚悟が出来てたかのようにそう言うと、私の手を取り、奥に入った。
「絢子、頑張ったお父さん、迎えに行こう。着替えるね。あなたも恥ずかしくない格好に着替えるのよ。」
 母親は、絢子に目を合わさずそう言った。
「うん。分かった。」
 絢子は震える唇を、声まで震えないように力の入った小さめの声で答えた。怖さに押し潰されそうだった。
 病院に到着し、霊安室に入ると、益田紘明は顔に白い布を被されていた。その布を開き顔を見ると、穏やか表情をしてた。
 絢子は泣き崩れた。少し遅れて橙子が泣を流した。何の言葉も発しない。ただただ、涙を流すばかりだった。
「この人は、犯人を逮捕して、手錠をかけて安心したのよ。きっと。最後まで仕事が真っ当出来たのね。お疲れ様でした。絢子、誇りを持って、お父さんを連れて帰るよ。涙は拭きなさい。」
 橙子は絢子にそう言った。
「ありがとうございました。」
 側に居た横井警部補はそう言い、制服警官と共に、再び深く一礼した。
「奥様、急な事、たいへんお悔やみ申し上げます。葬儀社の滝元と申します。この後は、ご自宅で、お通夜されますか?それとも弊社の施設をお使いされますか?」
 優しく穏やかに聞いて来た。
「はい、自宅で。」
 橙子は答えた。
 霊柩車で益田紘明の棺は自宅へ運ばれ、絢子と橙子は葬儀社の滝元の車で後を走った。
 自宅に着くと、葬儀社の社員達がお通夜の準備をしてくれた。程なくして、紘明の勤務する警察署の署長も駆け付けた。
「奥様、お嬢様、益田巡査部長の活躍で今回の事件は解決出来ました。しかしながら、非常に残念でなりません。また、お二人には、とても申し訳なく思っております。すみませんでした。私は、いわゆる、キャリア組でありまして、益田巡査部長には、刑事と言う仕事を沢山学ばせて頂きました。心から感謝致しております。突然な事ではありましたが、お二人は深くお悲しみかと存じますが、私達は、益田紘明巡査部長の思いを継いで日々精進して参ります。誠に、ご愁傷様です。」
 涙のスジを何本も頬に流して署長は言ってくれた。絢子は、改めて、父親の偉大さを痛感した。そして、自分自身は被害者のみならず、その家族、友人等まで心傷を負わすような犯罪の予防、早期解決を念頭に置いた警察官になる事を誓った。
 時な流れ、絢子が警視庁捜査一課に勤務し始めた数年後、ある男女の死体が古びたアパートの一室で発見された。その現場の見た目は、男が自殺し、女が後追い自殺したような現場であった。
「定さん、凄い自殺の仕方ね、男の方。」
 絢子が横井警部補に言った。
「何だか、わざわざこんな手の込んだロープの使い方しなくてもいいのにな。」
 それは、外開きの勝手口のドアノブにロープを巻きつけ固定し、1.5m程そこから離れた場所にある洋服箪笥、高さ120cm、横幅95cm、奥行き40cmのサイズの箪笥にそのロープを上から回して、勝手口とは反対側の箪笥の側面に背中を付けて首を吊っていた。
「この女も勇気あるよ。自分でしっかり頸動脈をナイフで切ってるよ。」
 横井警部補が言った。
「不自然な気がするけど、よっぽど男の死にショックを受けたのかしら。」
 絢子は言った。
 捜査を進めていくと、男の死亡推定時刻が昨夜の20時から23時の間で、女はその日の10時から13時の間だったのが分かった。そして、男の死亡した時間帯には、これと言った目撃証言は無かったが、15時頃にその男が小学校低学年くらいの男の子と手を繋いで部屋に入って行った目撃証言はあった。また、今朝は9時頃に、女が小学校低学年くらいの昨日とは別の男の子を連れて、部屋に入って行き、数分後に直ぐにその子と一緒に出て来たが、再び部屋に入って行った。2、3分後には女が連れてきた男の子が独りで部屋から出て行ったとの目撃証言が、その男女の死体が発見された部屋の真向かいにあるアパートの住民からあった。
 その男女は、運転免許証を持ってたため、身元は直ぐに分かった。そして、夫婦関係でない事、女には、会社員の夫と中学生、小学生の2人の息子が居る事。自宅の所在地が直ぐに分かった。すなわち、2人は不倫関係だった可能性があり、男の遺書はなかったものの、自殺し、その亡骸を見た女が後追い自殺した、と、推理された。それぞれの遺体には、争った形跡は微塵も無かった。
 よって、先ずは、女の夫に、女が死亡した事を報告しつつ、事情を聞く事にした。
 自宅へ電話を入れたが誰も出なかった。しかし、子供が独りだけポツンとテレビの前に座ってた。
 女の夫の会社に連絡を取り、署に来てもらい身元確認させた。
「妻です。こいつまだこの男と浮気してたんですね。罰当りだ。」
 死亡した女、林田久美子の夫、大輔が言った。
「不倫関係にあったんですね。いつ頃からですか?」
 横井警部補が聞いた。
「もう一〇年以上も前ですよ。そして、子供が出来て、久美子にとっては次男ですね。うちで引き取ったのですが、私には愛情が持てませんよ。久美子も嫌になってたみたいで、昨日の朝、その坊主を金山が連れてったんですけどね。その餓鬼は今朝早く戻って来てたので、久美子にどうにかしろと言いました。私が知る限りの事はこんなもんです。」
 大輔は言った。
「長男の蒼一郎君は、学校をさぼりがちみたいで、次男の二郎君は不登校ですね。二人のご子息の学校に問い合わせたのですが、家庭内も上手く行ってなかったのですか?」
 絢子が聞いた。
「何でそこまで聞くんですか?私は女房と金山との事は関わってませんから。おのメス豚は専業主婦だ。それと、俺が養ってやってたんだ。二郎が生まれて、俺とあの女の関係は破綻したんだよぉ。蒼一郎のために離婚しなかったんだ。子育てをあの女に任すしかないだろうがぁ。俺は外で稼いでるだぁっ。」
 大輔は声を荒げて怒鳴った。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。では、旦那さんは、子供達を無視してた訳ですね。これも虐待になります。そう捉えて構いませんか?」
 横井警部補が聞いた。
「二郎は俺の子じゃないんだ。そりゃ、俺には責任ないだろう、認知もしてねぇよ。金山が認知してた筈だ。蒼一郎はちゃんと話をしたし、小さい頃は遊んでやってたさ。虐待にならねぇだろう。喰わせるために、あの糞餓鬼の分も稼いでたんだよ。」
 また、大輔は怒鳴った。
「一応、虐待になります。それと、久美子さんの死因は、頸動脈をナイフで自ら切ったための出血多量でした。しかし、身体中には殴られて出来た内出血が多数ありました。これは生前についた傷と判明してます。これはどう言う事ですか?DVと捉えておかしくないと思うのですが?」
 絢子は言った。
「俺の血を継いでくれてるのは蒼一郎だけだ。俺は真面目に働いてる。蒼一郎の事を考えると、あの女に手を挙げてしまう事だってあるさ。刑事さん達も俺の立場で考えてみろよ。こんちきしょうぉ。」
 大輔は冷静になれないで居た。
「はい。しかし、客観的には、これは久美子さんへのDVと二郎君への虐待があった事になります。林田さん、あなたを罪に問おうなんては考えてないです。二郎君の今後を考えてるんです。あなたの下に居た方がいいのか、それとも、児童養護施設で生活させた方がいいかを判断したい訳です。私達は、二郎君を児童相談所に引き渡したいと考えてます。宜しいですか?」
 絢子は言った。
「その方がありがてぇや、あの馬鹿女、心中した訳だからな。俺は糞餓鬼を育てようなんて考えられないぜ。」
 大輔は少し落ち着いて言った。
 その後、警察署に連れて来てた久美子の次男、二郎と話しをした。
「こんにちは、二郎君ですね。林田二郎君ね。私は益田絢子です。聞きたい事があるの、教えてくれるかしら。」
 絢子は優しい声で言った。
「はい、僕は林田二郎です。」
 二郎は答えた。
「宜しくね、おじさんは、横井定幸です。」
 横井警部補は笑顔を交え言った。
「この腕の青痣はどうしたんですか?」
 絢子は聞いた。
「分かりません。」
 二郎は無表情であるがはっきり答えた。
「他にも痣があるのかしら、身体見ても良いですか。」
 絢子は心配そうに言った。
「はい。」
 二郎は全く表情を変えない。何かが抜け落ちたかのように。
 絢子は、二郎のシャツの襟元を引っ張って胸や背中を見た。そして、両手を持ち確かめるように手の甲と掌を見た。両方とも傷だらけだった。
「身体には痣は無いですね。でも、両手に傷が沢山有りますけど、これはどうしたんですか?」
 絢子は二郎の目をしっかり見つめて聞いた。
「分かりません。」
 決して二郎は表情を変えなかった。まるで、ロボットのように。人としての生気を感じられない。
「じゃあ、両腕と両手、写真撮らせてもらえますか?」
 横井警部補は懸命に優しい顔で言った。
「はい。」
 横井警部補は数回カメラのシャッターを切った。
「二郎君、何故ここに来たか分かりますか?」
 絢子は聞いた。
「分かりません。」
 二郎にこれ以上質問する事が心苦しくなる程、感情を表現出来ずに居るように絢子は感じた。
「絢ちゃん、相談所の新川さん呼ぼうか?」
 横井警部補は悲しい顔で言った。
「そうですね。私、この子と一緒に居ますので、定さん連絡お願いします。」
 その後は、絢子と二郎の間には会話が無くなった。絢子が『お腹空いてるかな?』と、ジュースとお菓子を出しても無反応で、何も手を付けなかった。瞬きも少なく、ただ目を開いてるだけだった。
「林田二郎君ですか、私のところにも以前、学校から相談があった子ですね。1年生の二学期から登校しない事が増えて来たと言う事で。ご両親はほぼネグレクトで、食事もちゃんとしたものを与えてられなかったと思います。小学3年生にしてはだいぶ小柄ですよね。後、この子のお兄さんの蒼一郎君は素行が悪くて、その子からも虐められてた疑いがありますね。我々は、半年に1回くらい、二郎君の安否確認しか出来ずで、申し訳ないです。」
 児童相談所のベテラン相談員の新川努が駆けつけて来て、絢子と横井に話した。
「以前からそんな事があったんですか。どうでしょう、新川さん養護施設が適してるかと。」
 絢子はそう言い、横井は心中事件の経緯と仮の父親の発言等を新川相談員に説明した。すると、養護施設へ入所させる方向で進めて行く事が決まった。
 これが、12年後再会し、益田絢子警部補の六人衆となる林田二郎との初めての出会いであった。また、この出会いがきっかけで、『一般社団法人益田防犯研究所』を立ち上げる事になるのだ。
 時は経ち、林田二郎との最初の出会いから、更に、3年が過ぎた15年後、絢子の防犯研究所は大盛況で多忙となった。職員を増員させなければならなかった。
「二郎君、加藤。今度、私達の仲間になってくれる神路(かみじ)姫子と美里、サキ。三姉妹よ。宜しくね。」
 絢子は、防犯研究所のトレーニングルームで警察官の頃から協力者であった二郎と加藤志水(しみず)に三姉妹を紹介した。
「美人三姉妹ですねぇ。益田さん、やるじゃないですか。俺、やる気3倍アップですよ。」
 加藤はおちゃらけて言った。
「あなたが二郎君ですか。絢さんから聞いてますよ。6変幻するようですね。強そうだ。今は、シンジ君ですか?お手柔らかにお願いしますね。」
 加藤をスルーして姫子が二郎に話しかけた。
「どうも、今は二郎です。僕はそんなに強くないですよ。こちらこそお手柔らかに。」
 姫子に答えた。
「かなり強いわよ、ジロちゃん。隣りのおじちゃんなんか目じゃないわね。」
 美里は言った。
「私は歌音さんとアヤナミさんに早くお会いしたいです。」
 サキは言った。
「申し訳ない、今は、俺か佐助にしか代われないんだ。歌音やアヤナミと代わる場合は着替えないとさ。」
 二郎からシンジ君に代わり、そう言った。
「げっ、シンジ君、また腕や脚、太くなったな。でも、俺だって沖縄で修行して来たから、腕は上げたぜ。八卦掌で勝負だ。」
 加藤はシンジ君の成長にビビりながらも見栄をはった。
「しみーずぅ、あなたは身の程知らずね。でも、漢はそれくらいがいいか。」
 美里は加藤に言った。
 加藤は早速、シンジ君に組手を挑んだ。しかし、二郎の強さをその三姉妹に見せたく思い、シンジ君は二郎と代わった。
「加藤君、いつでもいいよ。」
 以前とは違い、加藤の構えは変わってた。
 八卦掌は中国武術の一派で、太極拳と形意拳とともに内家拳を代表する武術である。易経の八卦思想に基づいた技術理論から、拳よりも掌を多く使い、一見、舞踊の動作に見えるのが特徴的である。また、他にも歩法に特徴があり、敵を中心に追いやり、円を描くような脚捌きで相手の力の流れも利用して攻撃していくと言った神秘的な武術である。
 したがって、加藤の構えは、掌を開き鳩尾くらいの高さまで腕を広げて、肩を落とし力を抜いて、左脚は膝を曲げ重心を低くし、右脚は膝が伸び、前に置いた状態である。
 組手が始まると、加藤は二郎を中心に置こうとするも、二郎はそれを避け、加藤の攻撃を受ける隙を与えなかった。逆に、八卦掌の程派を使い加藤をバッタバッタ投げたのである。
「参りました。二郎、いつの間に?やっぱり、シンジ君のセンスとアヤナミちゃんの戦略なのか?」
 加藤は、驚きを隠せずそう言った。
「加藤君が沖縄で修行するって言ってたから、一文字さんが沖縄にある中国武術や琉球古武道、沖縄伝統空手の道場やそれぞれの武術の理論的背景、鍛錬方法を全部調べたんだ。本が出せるくらいあらゆる情報を分かり易く整理してくれた。シンジ君とアヤナミが中心になって研究したんだよ。丁度、本場で学んで来た加藤君と手合わせ出来て良かったよ。僕も勉強になった。ありがとう。」
 二郎は答えた。
「しょうがねぇか。二郎達を超えられない。ありがたいよ、俺はさぼれないな。少しでも気を抜くと置いてかれそうだ。俺は加藤志水として精進する。ありがとう二郎。」
 加藤は予想以上に二郎に圧倒され撃沈したが、沖縄で上手く進められた修行に慢心を持たず、日々磨きをかけないといけない事を思い出した。沖縄で出会った越来當将(ごえくとうしょう)先生に言われた事を。
「凄過ぎる。絢さん、私達、必要なの?二郎君達が居れば無敵よ。」
 姫子は絢子に言った。
「何言ってんの、必要よ。二郎君はお医者さんだから、ここは副業なのよ。」
 絢子は言った。
「ほんとなんだ、お医者さんもしてるんだ。」
 サキが言った。
 確かに加藤は格闘技の腕を上げていた。実践を積めばもっと強くなる伸び代も蓄えて来た。しかしながら二郎は、6人の人格が、6人の身体を持てるようになって、感覚知覚、運動表出力が更に高まり、判断や予測する能力も向上した。おかしな言い方だが、空を飛べないスーパーマンである。加藤が歯が立たないのは当然だ。
「初めまして、歌音です。姫子さん、美里さん、サキさん、宜しくお願いしますね。」
 着替えて来て、歌音に代わり三姉妹に挨拶した。
「格好良いです。歌音さん。サキです。テンション上がるぅ。」
 歌音の腕に抱きつき、サキは身体を密着させた。
「コラコラ、サキ、初対面なんだから。馴れ馴れしいわよ。」
 美里が注意した。
「大丈夫、気にしないで。」
 アヤナミに代わり、そう言った。
「わっ、胸、大きくなった。アヤナミさんですか?声が変わったと思ったら、一瞬なんですね。」
 サキは、驚いた。
「いや、10秒、20秒くらいはかかるわ。」
 アヤナミは言った。
「後は、一文字さんと佐助君だけね。絢さんの言った通り。正直、半信半疑だったけど。人間の身体ってまだまだ解らない事だらけよね。ほんと、パラダイムシフトしなきゃ。」
 姫子が言った。
 こうして、益田絢子は常識を覆えす人材に恵まれ、研究所の運営を発展させる事が出来た。しかし、ここはカモフラージュのための施設で、警察官の頃から二郎と加藤に協力してもらい、警察が手を出しにくい犯罪者を葬る裏稼業が絢子の一番の目的である。それが充実出来る事に喜びと期待を抱いてた。
 一方、6人格を持ち、それぞれの人格に合った身体に変化出来るようになった林田二郎は、医師と益田、加藤との裏稼業の二足のわらじからのプレッシャーが和らいだ事に安堵した。と、同時に神路三姉妹の脅威を感じ取っていた。自分達が教えて行く役割りを担わないとならない事を自覚した。そして、益田絢子の恐ろしさも再認識させられた。
 
つづく