K.H 24

好きな事を綴ります

義賊とカルトの温床。僕らはどれを選ぶのか。⑥

2020-01-29 03:13:00 | 小説
⑥神路三姉妹はカルトなのか

 永井虎将のアジトをつきとめ、人身売買が行われる日時も知る事が出来、明日は研究所へ報告に行こうと思ってた矢先、電話が鳴った。
「もしもし、今、お電話いいかしら?」
 神路三姉妹の長女、姫子からだった。
「こんにちは。姫子さん、大丈夫ですよ。」
 二郎は答えた。
「絢さんから聞いたんだけど、外国人女性の人身売買の情報収集してるんですね。進捗状況はどうです?」
 姫子が聞いて来た。二郎にとって姫子から電話が来るのは初めての事だった。同じ女性が被害を受けてる事だから興味があるのだろうと思った。
「はい、それに関わってる半グレ集団のアジトと、人身売買が行われる場所と日時が分かりました。明日にでも益田さんに報告しようと思ってますけど。」
 二郎は言った。
「流石、二郎君ね。半グレ集団は、もしてして、永虎が頭のロンタイかしら?」
 姫子が聞いた。
「はい、そうです。姫子さん、永虎達の存在、ご存知だったんですね。他にも、色んな犯罪行為してるみたいですよ。」
 神路三姉妹も永虎が関わった事件を調査してるのかと思い、答えた。
「やっぱりそうなんだ。先月、恐喝事件の調査してたら、その集団の名前が出たの。手広くアンダーグラウンドを仕切ってるみたいね。それで、人身売買の現場と日時は?」
 姫子は聞いた。
「はい、再来週の火曜日に南港の5番倉庫前で23時からです。ここまでは分かりました。姫子さん、明日は研究に居ますか?妹さん達も。その現場を押えるの、警察に協力した方がいいと思うので、益田さんや加藤も交えて、プラン立てた方がいいと思うんですよ。」
 二郎達は、神路三姉妹と加藤志水の協力が必要と考え、姫子に言った。
「分かった、美里とサキも連れてくわ。二郎君は夕方よね、研究所に来るのは?加藤君に連絡しとくわ。」
 姫子は積極性を伺わせた。
「ありがとうございます。はい、明日は18時頃には行けると思います。宜しくお願いします。」
 二郎は言い、電話を終えた。
 翌日、防犯研究所に着いたのは、18時15分前だった。益田さんをはじめ、加藤、神路三姉妹は既に会議の準備をしてた。
「お疲れさん、二郎。姫子から聞いた。情報収集お疲れ様でした。」
 益田が真っ先に労った。加藤は右手でグータッチ。サキは抱きついた。姫子は笑顔見せた。美里はサキの腕を引っ張って二郎から離れるよう仕向けた。
「先ずは、永井虎将を見て下さい。」
 会議用テーブルにノートパソコンを置き、みんなが椅子に腰掛け、アヤナミが撮った永虎の写真をディスプレイに拡大して見せた。
「怖いぃ、この顔。私、嫌〜い。」
 第一声はサキだった。
「何だか、海の中から出て来そうだな。デカイ、手足も太い。そんなに腹は突き出てない。きっと普段から筋トレやってるぞ。」
 加藤が言った。
 永虎は、身長180cmはあり、体重が100kgを超えそうな、ラガーマンや柔道無差別級の選手達のような体格をしてる。
 スキンヘッドで、顔は眉毛を短くカットしてて、目と口が大きく、鼻は団子鼻。右の小鼻にダイヤのピアスが刺さってる。左右の耳にもダイヤのピアス。鼻ピアスの3倍くらいの大きさはありそうだ。この写真では、眉間に皺を寄せてて、怖い表情で写ってる。
「強そうね。」
 腕を組んでる姫子は、呟くように一言、言った。
「悪そうな顔つきだこと。力でねじ伏せて来たのね。」
 益田は言った。美里は、我、関せずと言った表情だった。
 次に、アジトの写真と、自宅で作った外観だけの簡単な見取図を見せた。そして、金網フェンスが老朽化してる事。日没に合わせて1人の男がフェンスと建物の出入り口を開けて、メンバーが集まり、最後にピカピカのキャデラックで永虎が来る事等、偵察に行った日の事を話した。勿論、口を破らせたバイクの男の事も話した。
 「取引まで、まだ時間があるから、このアジトから襲撃していいかも。」
 二郎からアヤナミに代わって、そう言った。
「真正面からでもイケるぜ。」
 シンジ君に代わって言った。
「拳銃とか機関銃とかあるとヤバイんじゃない。」
 益田は言った。
「大丈夫、俺も居るから。」
 今度は佐助が代わって言った。
「神路姉妹と加藤には、後方支援して欲しいんだ。我々が、正面から乗り込んで、それに気を取られている間に4人が後ろのフェンスを破って、左右のドアを開けて、側面の引き戸を開けて欲しい。中がどうなってるか分からないけど、4つの逃げ道があれば、僕らも身を守れるよ。相手も逃げるかも知れないから5m幅くらいで撒き菱を撒いてくれれば。恐らく逃げ出す人間は少ないと思う。2、30人なら倒せるよ。」
 一文字さんが代わって言った。
「もっと良いのがあるよ。ドローン、ミサイルが発射出来るやつ。足下狙えば、足だけは吹っ飛ぶけど。」
 姫子が言い、美里に目配せした。
「4機飛ばすなら、私と姫子で操縦出来るよ。命を奪わないって保証は100%は出来ないけど。」
 美里は今日初めて喋った。
「じゃあ、俺とサキちゃんで4つの出入り口は開けようか?」
 加藤は言った。
「良いと思うわ。それで行きましょう。取引にロンタイが参加しないのなら、当日は幾分、手間が省けるわ。」
 益田が言った。
「アジトへの襲撃は、せいぜい二日前がいいじゃない?あまり早過ぎると、情報が漏れて取引が中止にならない?そうなると、後2つの組織と外国人組織も摘発出来ないし、取引が延期になって場所が変わると、人身売買は終わらないわよ。」
 歌音が代わって言った。
「永虎自身から聞き出せると思う。他の組織の事は。でも、現場を押えるのが確実ね。」
 アヤナミが代わって言った。
「よし、5日前にしよう。今日を入れて6日後。アジトを襲撃して、アヤナミ達は確実に、外国人組織も含めて、情報を得る事。そして、女の子達を運ぶ船の情報も得る事。そうすれば、その船は洋上で、海上保安庁と警察庁が合同でガサ入れ出来るわ。私と定さんでかけ合えば大丈夫。そうしましょう。」
 みんな了解し、解散した。
「美里、サキ、半グレども、みんな殺すよ。ミサイルからマシンガンに替える事出来るよね?」
 姫子が研究所から自宅へ帰る、サキが運転する1991年式のターボエンジンに載せ換えしたイエローのミニクーパーの中で言い出した。
「出来るよ。姫子、私もそう考えてたの。あんな半グレ、生きててもしょうがないからね。」
 美里は、姫子と同じ考えをしてた。
「2人ともそう考えてたのね。私もよ。あの糞虎の首、ナイフで掻き切りたいわ。」
 三姉妹は、皆殺しを決意した。
「サキ、ナイフは5、6本持ってた方がいいわよ。直ぐ斬れ味悪くなるはずだから。」
 姫子は言った。
「徹底してるね。姫子は、新しく買わなきゃ。美里、ネットで、私ってバレないように買えるでしょ。お願いしていい?」
 サキが言った。
「分かった、家に着いたら、どのナイフか教えてよ。」
 美里が言った。
 自宅に着くと、早速、美里はドローンに装着する100連発式マシンガンを10丁とサキが指定した全長20cmのタガーナイフを10本購入した。2日後には納品出来る事になった。この三姉妹、最早、殺人カルト集団の趣きを漂わせた。
 一方、二郎は、久し振りに益田と食事に行くことになった。翔子も誘った。と言うのも、とても美味しい料理だか、例えば、煮込みや焼き鳥、揚げもの、刺身にしても、その店の1人前は、通常の3人前程あるからで、特に、煮込みは牛すじと根菜類、糸蒟蒻が具材であるが大量に作ってて、濃厚だが後味がスッキリしてる。焼き鳥は通常の3倍の大きさのモモ、ムネが揃ってて、とてもジューシー。刺身に関しては、マグロの赤みは分厚く、トロやブリ、脂の載ったものは、それの半分。鯛やヒラメの白身は赤みの1/3程の厚さで出てくる。とても、味が良く食べ応えがある。だから、益田はこの店、『めにぃでりしゃす』に行く時は誰かを誘うのだった。
「益田さん、翔子は後30分くらいで着くみたいだ。翔子が来たら、気にせず色んな料理注文出来るよ。なんせ、令高大のイーターオブクイーンだったからね。」
 二郎は言った。
「先ずはビールと枝豆頼もうか。」
 益田さんは仕事中の笑顔よりも可愛いらしい表情を二郎に向けた。
 ビールが運ばれて来た。この店は、生チュウがない。大ジョッキである。枝豆も5人前程。二郎は、食べながらも、テーブルに常備されてる取り皿に房から豆を出していた。
「二郎、豆だけ集めてどうするの?」
 益田は聞いた。
「うん、翔子は豆にマヨネーズをかけて、ちょろっと醤油を垂らして、一味をかけて食べるのが好きなんだ。うちら2人はこの1/3あれば、枝豆充分でしょ。」
 二郎は言った。
「翔子ちゃんのためにしてるの。ほんとに好きなのね。私も男欲しい。」
 大ジョッキの2/3くらいビールを飲んだ益田は、思わず本音が出た。
「定さんが居るじゃないですか。あっ、加藤がいいのかな。」
 少し笑いながら二郎は言った。
「おい、定さんはおじいさん。加藤はサキちゃんにメロメロなの。たまには私の相手になってぇ。何言わすのよ。もう。」
 そんな会話をしてると、翔子が来た。
「こんばんは、益田さんお久し振りです。先日は、お世話になりました。あっ、私も生下さい。」
 翔子が益田に挨拶すると、店員が近づいて来て翔子は直ぐに注文した。そして、大ジョッキが来ると、その店員に焼き鳥のモモ三人前、ムネ三人前、厚切りタン元を五人前注文した。「お疲れ様です。遅れてすみませんでした、カンパーイ。」
 翔子は大ジョッキのビールを2/3まで呑み干した。
「一気呑みしちゃうと思ったわ、翔子ちゃん。」
 益田が言った。
「少し、遠慮しちゃいました。テヘ。」
 翔子は、はにかんだ。
「可愛いね、翔子ちゃん。えっと、先に牡蠣フライと鶏唐は先に2人前注文したけど大丈夫?食べれるの?」
 益田がまた聞いた。
「はい、さっき注文したのは、私1人でぺろっといけますので。」
 満面の笑みで、翔子は答えた。
「益田さん、大丈夫、大丈夫、YouTubeの大食い動画見るみたいに楽しんで下さい。」
 二郎は言った。
「翔子ちゃん、『ゆりもり』さんだっけ?何度か一緒に出てたもんね。」
 益田が言った。
「今も、たまにLINE来ますよ。でも、私が時間合わせられないから、なかなか会えないんですけど。助産師してるの知ってるから。でも、赤ちゃんの写真送ってくれって。子供好きなんですよ、彼女。」
 翔子は言った。
 注文した焼き鳥と分厚いタン元が運ばれて来た。翔子は二郎や益田にも焼きそれを取り分けてた。そして、大きく口を開けて、通常よりも3倍もある大きな肉を口に入れた。頬を大きく膨らませて、しっかり咀嚼して飲み込んだ。
 タン元が2枚に減った時、鳥モモとムネを2人前、ハラミを5人前、追加注文した。
「翔子ちゃん、早いし、沢山食べれるし、でも、太らない。良いわね。幸せな身体よねぇ。」
 益田は日本酒に替えて、ちびりちびり、エイヒレを齧りながら頬を赤らめていた。
 二郎はハイボールに唐揚げで結構ハイペースで呑んでいた。
 そうやって、益田が翔子の食べっぷりを楽しみ、力を抜き、心もスッキリしたところで宴を終えた。
 二郎は、神路三姉妹を気になってたが、益田にその話しをするきっかけをみつけきれずに、翔子のマンションへ手繋ぎ向かい、その都度、翔子が話して来る事に相槌を打つだでいた。その日の夜は、しっとり二人で過ごす予定が、佐助が一変させた。結果的には悪くはなかった。翔子はストレス発散が出来たようだ。
 とうとう、永虎達のアジトを襲撃する日がやって来た。益田は、二郎に18時に現地集合と電話で伝えてた。
 それよりも1時間前に、神路三姉妹は動いてた。まだ誰も来てないアジトに着いていた。
 既に前日、6600Vの電圧を発揮出来るディーゼルエンジン発電機をレンタルして、迷彩柄のシートを被せ、敷地の後側にある草叢に設置していた。電流が10A流れるように調整した。
 まだ、誰も来ていないアジトの金網フェンスに電線を繋げた。そして、ドローンを五機スタンバイした。
 二郎が言ってたように、セドリックに乗った男が正面のフェンスを開けた。16時20分だった。次いで、バイクが6台、車が2台入って来た。最後に白のキャデラック。美里が発電機に向かい、姫子はドローンの操縦機にスタンバイした。サキは、正面から入っていった。建物の3m前で止まった。姫子が見える場所だ。
「どうしたお姉さん、なんか用かい?」
 中堅くらいに感じれる男が近づいて来た。サキは笑顔で仁王立ちした。
「兄さんどうしたんですか?」
 若いのも来た。
「ここは、ロンタイのアジトなの?キャデラックで来たスキンヘッドが虎さん?」
 サキは馴れ馴れしく話しかけた。
「姉ちゃん、失礼じゃないか。虎将さんの事そんな言い方すんじゃねぇよ。」
 若いのが言った。
「おい、待て。お姉さん、虎将さんに会いたいのか?急に来られてもなぁ。」
 中堅が言った。
「そうよ。会ってみたくて、強そうなんだもん。」
 ミーハーな感じでサキは言った。
「そんな理由で会える訳ないですよ。奥にいらっしゃるけど。お帰り下さい。」
 中堅が言った。
「ええぇ、そんな事言わないでよお兄さん。」
 と、言いながら2歩近づいて右手を腰に回し、タガーナイフを取り、中堅の喉を切りつけた。外頸動脈にヒットして鮮やかに真っ赤な血が吹き出した。すると、発電機のエンジンを美里がかけて、姫子の側に戻って行った。時刻は17時10分になっていた。
「おーい。」
 若いのが大声を出すと、サキはその男の喉も斬りつけた。10秒経たないうちに2人を殺した。同時にドローンが建物に入って行き銃声と悲鳴が響いた。後の左右のドアから男が出て来た。控えてたドローンが蜂の巣にした。建物の中は地獄絵図となった。次々と輩達は血塗れで倒れていった。
 パーテーションの中には、拳銃を保管してる棚があるも、誰1人手がつけられない。5分で、永虎と側近と思われる男2人。3人だけが生き残った。電流フェンスは意味を成さなかった。
 永虎と2人の男は、両手を上げて、サキに近づいた。
「殺さないでくれ、降参だ。もうやめてくれ。」
 美里は発電機のエンジンを切り、それを回収するようレンタル会社に連絡して、ミニクーパーでフェンスの中に入って来た。
 永虎は声も身体も震わせていた。勿論、2人の男達も同様で青白い顔になってた。
 ドローンの操縦を美里がミニクーパーの中で1人で始めると、ワルサーPPKを永虎達に向けて姫子が歩いて行った。
「3人とも頭の後ろに腕を組みなさい。」
 3人の後ろに周り姫子は言った。
 図体ばかり高い男達は震えながら腕を組んだ。
「こっち向いて、3歩前に出て、腹這いになりなさい。」
 姫子は銃口を向けたまま言った。3人が腹這いになると、サキが永虎の両腕を腰に回し、結束バンドで縛った。次いで、両足首も結束バンドで縛り、そのバンドの上のアキレス腱をタガーナイフで突き刺した。左右のアキレス腱を切断したのだ。永虎の右側の男が逃げようとした。姫子は引き金を引いた。その男に威嚇射撃を1発放った。
「早死にしたいの。」
 姫子は言った。
 その男は驚き、動きが止まった。また、腹這いになると、股下に水溜りを作った。
 サキは、それを避けながら、結束バンドで永虎と同じように縛りあげ、アキレス腱を切断した。悲鳴を気にせずに。左側のもう1人の男も同様に。
「こいつらから、取引に関わってる後2つの組織と外国船の情報聞いてて。」
 サキに言い、姫子は建物の中に入って行った。
 パーテーションの内側に回ると、ソファー2つにセンターテーブル、テレビと冷蔵庫、金庫と2段構えの棚があった。
 その棚の上段はガラスが入ってて、拳銃五丁とマシンガン二丁が並んでた。鍵がかかってたが、二つの針金を使って簡単に開けた。下の段の鍵も開け、扉を開けた。ここには三斤袋に入った白い粉が30袋入ってた。その武器類、麻薬と思われる白い粉をセンターテーブルに並べた。
「虎将君、棚の下の白い粉は何かしら?」
 姫子は永虎に聞こえるように言った。しかし、永虎は黙ってた。サキがタガーナイフで頬を軽く叩いた。
「シャブだよ。シャブ。」
 永虎は言った。
「素直になりなさい。」
 姫子は言った。
「あら、痛い思いをしないと素直になれないのかしら。」
 サキは言うと、永虎の左隣りの男の背中、左右の僧帽筋に沿って菱形になるラインをタガーナイフでなぞり切った。
「うわぁー止めてくれぇ、ぎゃあー。言う、分かった何でも言うから、何でも言うから。」
 その男は喚き散らした。
「じゃあ、話してくれるかな。後2つの組織は?」
 サキが聞いた。
「き、き、北九州のスネークポイズンってグループだ。俺のスマホに連絡先がある。スネポの田中ってのが連絡係だ。」
 サキは、この男のお尻のポケットからスマホを取り出し、スネポの連絡先を自分のスマホで写真を撮った。
「こんなに出血しちゃって、警察がきたら、救急車呼んでくれるよ。日本の警察は優しいからね。」
 サキはその男に言った。
「私も日本人だから優しいのよ。右の男、もう1つの組織は?」
 ドスを効かせ、低い声で永虎の右側の男に言った。
「へい、北海道のすすきのを縄張りにしてるホワイトフォックスってグループです。」
 右の男は声を震わせ、素直に答えた。この男からもスマホを奪い、連絡先をカメラに収めた。
「取引の時は、何人ずつ来るんだ。それと、外国の女の子は今度、何人?」
 サキは聞いた。
「お、俺ら3つのグループからは3人づつ出ます。女は10人予定してます。」
 永虎が苦しそうな声で素直に言った。
 サキは、徐々に怒りが込み上がって来た。
「お前ら悪党は許せないわ。」
 思わず呟いた。
「船名は?」
 サキは怒りを抑え聞いた。
「ピンクキャメル号だ。」
 永虎が言った。
「分かったわよ。」
 姫子に聞こえるように、サキは言った。
 その時姫子は、金庫を開錠してた。金庫破りを楽しんでいたのた。
 ドローンからの映像を見てた美里は、益田に連絡を入れ、ロンタイと別の組織が北九州のスネークポイズンと北海道のホワイトフォックスである事と、取引には3人づつ参加する事、外国船がピンクキャメル号であるのを伝えた。
 丁度、その頃、加藤と二郎がやってきた。時刻は17時50分だった。
「地獄絵図じゃないか、なんで。」
 加藤は言った。
「ご苦労様、我慢できずに先にね。」
 サキが笑顔で言った。
「戻ろうか。」
 二郎は絶句した。
 姫子は、金庫から1億近くある100万円毎に束ねられた札束とこれまで買い取った女性の名前、年齢、出身地が記された名簿をセンターテーブルに並べて戻ってきた。
「あら、お2人さん、お疲れ様。この奥に拳銃やら麻薬、現金が有ったわ。全部デーブルに並べてる。」
 そう言うとワルサーPPKで、3人の頭を撃ち抜いた。
「姫子、お前。」
 歌音に代わって、姫子が右手で持つワルサーPPKを手首を捻り奪い取り、弾丸を抜いて返した。
 「研究所で話し合いしようよ。この地獄絵図、大問題。信じられない。」
 歌音は言った。
 二郎と加藤、神路三姉妹が研究所に着くと、益田は笑顔で迎えた。
「姫子、二郎と加藤を待てなかったの?無理しないでいいのに。でも、警察庁と海上保安庁に連絡して、ピンクキャメル号を洋上で抑える手配が出来たわ。それと、今頃永虎達のアジトに捜査員が向かったはずよ。福岡県警と北海道警にも連絡が行くのも根回ししたわ。」
 益田は安心した面持ちで、5人に話した。
「それなんだけど、みんなで話し合わないと。奥に行こう。」
 二郎が言った。加藤も困った表情を益田に見せた。
「どうしたの?二郎何かあったの?」
 益田はただならぬ表情で聞いた。
「姫子さん達が皆殺しにしたんだよ。永虎達を。アジトは血の海で地獄絵図だよ。あんな無残な光景、見たことないよ。」
 二郎は言った。
「あれは、酷かった。夢に出そうだよ。」
 加藤は言った。
「あんな半グレ集団、生きてても無駄よ。」
 姫子は言った。
「世のため人のためよ。」
 サキが言った。
「えっ、皆殺しにしたの?どうして?そこまでやらなくても。しょうがないかしらね。」
 益田は言った。
「いや、人殺しは止めたほうがいい。どんな人間であっても殺したら駄目だ。」
 シンジ君に代わって言った。
「よく言えたもんねぇ。シンジ君、あなた自分の両親を殺したんでしょ。」
 姫子が言った。
「それも、9歳の時に。衝動に駆られてやったんじゃないの。」
 サキが言った。
「あなた達、私の金庫探ったわね。」
 益田が言った。
「えぇ、私達は両親と兄が殺されたから。身近な存在に。あまり、人を信用出来ないのよ。ここへ入社したのは、絢子さんは唯一信用が持てた人、それでも、何もかも信用しては無かったの。だから、林田二郎と加藤志水はしっかり身辺調査したのよ。」
 美里が言った。
「確かに、俺は二郎の両親を殺した。二郎を助けるためにね。俺は、正義の味方が大好きだった。仮面ライダーにウルトラマン、宇宙刑事シャバンとかね。だから、二郎を助けてやれたと思って、スーパーヒーロー気分さ。酔いしれたよ。ドーパミンが大脳皮質を包んださ。今でもあの快感は忘れられない。忘れてはいけないんだ。それで、歌音と一文字さんに諭された。人を殺して、人を助けられたかも知れない。だが、殺された人の周りにも人が居るんだと。その周りの人は傷つく。中には、その悲しみで人格が崩れてボロボロになって生きたしかばねで、文化を持った人間の生活が出来なくなる。1人殺す事で多くの人の人生を歪めてしまう。それと、殺した側も同様だ。幸い、二郎は、児童養護施設に入れた。奇跡だよ。世間的に育ての父親は、人殺しの子の親なんて後ろ指指されなかったけど、酒に溺れた。種違いの兄貴はヤクザになった。身体に障がいを負わせたけどな、俺達が。死んでなくなるよりは、その障がいで兄貴は悪さする事はない。その反面、その兄貴と接する人の中には、同情し親切心が目覚める人が生まれる。少なくても一人以上は。介護産業が潤うなんて事じゃないぞ。罪を犯した罰として、不自由な身体になるんだ。そんな人間を世話しないといけない立場の人が生まれる。その人達は全うな人達さ。その全うさが、広がり、時には引き継がれる。俺らの社会で、そんな思想が広がるのが平和や幸福に結びつくんじゃないか。そう思うんだ。だから、姫子達、よく考えて欲しい。そして、人を殺す恐ろしさを気づいて欲しい。人間の優劣なんて、大した差はないだろ。」
 シンジ君は力説した。
「少し、綺麗事に聞こえるねぇ。シンジ君。」
 姫子は納得出来ない表情でそう言った。
「あのな、俺は二郎が9歳の時に人を殺した。俺は、歌音と一文字さん、アヤナミ達と、もう人殺しをしないと誓った。でもな、中学、高校の時、二郎は異性を意識する心が芽生えた。俺は嬉しかった。二郎が人間らしく成長したからだ。でも、俺は二郎よりもそれが強くなった。それを満たそうと、同級生の女子を殺してまでって衝動に駆られたよ。恐ろしかった自分自身が。辛かった。とても苦しんだ。そしたら、俺から佐助が分離したんだ。佐助が生まれたのは俺からなんだよ。みんな佐助を認めてくれた。特に、アヤナミは佐助が暴走しないように指導してくれた。そして、大学に入り、梅木翔子と出会い。佐助も優しく愛する心が確立した。歌音は、佐助はいずれ、二郎に統合するといったが、今の今まで、佐助が存在するのは、二郎の思いやりなんだ。佐助は性欲が強い反面、足が速くて身のこなしが軽い。そんな佐助が必要だ。そうやって、役に立ちたい佐助の思い、生きる目的を二郎は認めたんだ。翔子ちゃんもな。君らに理解は難しいだろうけど、俺ら6人格、1つの身体を助け合って使って、アイデンティティを築いたんだ。」
 シンジ君は涙を流し力説した。
「恐らく、三人は気が付いてないと思う。人を殺した快感を得るとね、大脳辺縁系と前頭連合野で構築したニューロンネットがその快感を増幅させるんだ。それを続けてると、そのニューロンネットに関わる神経細胞体や軸索突起も太くなって、数も増えるんだ。シナプス間の伝達物質もカテコールアミンしか放出出来なくなる、それしか受容しなくなるんだ。抑制できなくなるんだ。すると、辺縁系と前頭連合野の間のネットワークは殺しの快感を求めるようになる。人殺しを定期的に実行しないと苦しくなる。落ち着かなくなるんだよ。それでもいいのか。」
 声を強めに二郎が言った。
「なるほどね。簡潔に言い換えれば、殺人依存症ね。そうなると人間やめなきゃいけないね。」
 美里はさらっと理解した。
「姫子、サキ、私達危ないところだったわ。ただの殺人マシーンになってたところよ。」
 美里は、姫子とサキに言った。
「切り裂きジャックやテレビの特番で出てくる殺人鬼になっちゃうの。それは嫌だ。」
 サキは言った。
「みなさん、ほんとにすみません。私、そんな兆候を全く気づけませんでした。お詫びします。」
 涙を流し、姫子は言った。
「姫子、少し休むと良いわ。美味しいのを食べて、美味しいお酒を呑んで、身体も心も力を抜いて。ね。」
 歌音は優しく言った。
「私もまだまだね。今日で、勉強になったわ。防犯研究所所長として、今回の件は、何かあったら全力でみんなを守るから。絶対に。」
 益田が言った。
「みんな、俺だって道を間違える時があると思うから、その時は遠慮なくお願いします。」
 加藤は深々と一礼した。
 そんな加藤を見た姫子は、両手を出して、加藤と握手した。加藤の手に涙が数滴落ちた。
 当然である。加藤は日本を代表する空手家であった訳で、姫子は把握してた。そんな男が、素直に頭を下げるわけだ。姫子は、自分自身が調子に乗り過ぎた、慢心してたのを実感した。自己否定せざるを得なかった。
「今日は解散。いつ、何時、何があるかわからないので、自宅待機お願いします。失敗は成功の元。私は、みんなが事ある毎に議論するのが大好きです。頼もしいです。素晴らしい事です。これが人間の成長です。どうか、心穏やかに待機してて下さい。」
 益田は一生懸命、みんなを慰めようと意識して、話しを収めた。しかしながら、張り詰めた空気は和らがなかった。シーンと無音が鳴り響いてた。
 2日後、二郎と加藤に姫子からメールが届いた。『私の家で食事しませんか?』と。
 加藤は喜んだ。暗く、膜を貼ったような自分の心から這い出るきっかけが欲しかった。
 一方、二郎はシンジ君が人殺し呼ばわりされたのがショックだった。まだ、蟠りがあった。これを解消するために、翔子を誘った。
「よっ、二郎。翔子ちゃんも久し振り。まだたらふく食べてるのか?今日は楽しくやろうぜ。二郎、買い込んで来たのか?翔子ちゃん、1つ持ってあげるよ。」
 神路三姉妹の自宅前で二郎と加藤はばったり出会した。そして、二郎と翔子は両手に食料品が沢山入ったエコバックを持っていた。
「加藤さん、2つ持ってよ。食べる体力、温存しなきゃね。」
 翔子は、笑顔で加藤に荷物を渡した。
「凄いなぁ。この量。翔子ちゃんだから持てるだよ。怪力女王め。」
 加藤は翔子が持ってた荷物の重さに驚き皮肉った。
「いらっしゃい。どうぞ。」
 姫子が玄関を開け3人を迎えた。
「お邪魔しまーす。わっ、びっくりした。剥製かぁ、この梟。」
 2段ある上がり框の1段目の左端に、壁に取り付けられた木の枝に留まってる木兎を見て加藤は驚いた。
「加藤さん、梟じゃないですよー。木兎です。空手バカ一代ですねぇ。」
 翔子は皮肉った。
「お3人さん仲が良いのね。いっぱい買い物してきたの?あらら気を遣わせちゃったわね。一応、美里とサキがキッチンで盛り付けしてるけど。」
 ダイニングルームに案内しながら姫子は言った。
「いらっしゃーい。丁度、完成ですっ。星3つっ。」
 サキが陽気に言った。
「どうぞ、お掛け下さい。」
 ローストビーフを美里が優しい表情でテーブルに運びながら言った。
「凄い、豪華だぁ。肉に魚にエビ。美味しそうだぁ。でも、翔子ちゃん全然足らないよね。」
 加藤が言うと、神路三姉妹は、加藤を見て目が点になった。
「アハハ、大丈夫ですよ。追加の食材、持参してますから。」
 二郎は言い、対面式のシステムキッチンの大理石の天板にエコバックを置いた。
「じゃあ、お皿に盛り付けましょう。」
 美里は言った。
「すみません、お手数かけます。私も手伝います。」
 翔子は慌ててキッチンに向かい、そう言った。
 テーブルの上には、三姉妹が手作りした薄ピンクのカクテルソースが入ったガラスの器に10尾の海老がその縁に飾られたカクテルシュリンプが3つとシーザーサラダ、グレイビーソースがかかったマッシュポテトとブロッコリーのソテーが添えられた300gのローストビーフを半分まで3mm厚にスライスされたのが二皿、鯛とタコが交互に並び、レッドペッパーとケーパー、粗挽き胡椒、細かい粒の岩塩が散りばめられ、オリーブオイルが輝くカルパッチョ、肝のソースがかかった二つ分スライスされた焼き黒アワビが2皿。そして、二郎と翔子が買ってきたエビフライと胡瓜にレタスが入った太巻き5本、生春巻き10本、丸ごと一羽焼き上げたガーリックチキン三羽、カットされた豚カツ10枚。これらがテーブルを埋め尽くした。更に、ロング缶のエビスビール6本パックが2パック冷蔵庫に入れてもらった。
「えーっと、こんな光景は我が家で初めてで、動揺してますが、乾杯しましょう。加藤君、お願いね。」
 姫子が言った。
 二郎と加藤、翔子とサキはエビスビールを片手に。姫子と美里は、シャンパングラスに微炭酸の日本酒を注ぎ手にした。
「では、初めて神路家に呼んで頂いてありがとうございます。姫子さん、美里さん、サキちゃんは、驚いてるでしょうが、二郎と翔子ちゃんが居るので、この料理は残りません。楽しんでいきましょう。カンパーイ。」
 長めに加藤は、音頭を取った。
 翔子はエビスビールを半分一気に呑むと、ローストビーフから手をつけた。スライスされた分は3分もかからず胃袋に収まった。次はガーリックチキンの脚を取り高速で骨にして、5分で丸ごと一羽食べ終えた。
 翔子の食いっぷりに三姉妹は目が離せなかった。姫子は唖然とした表情。美里はマイペースでシーザーサラダとカクテルシュリンプを食べてた。サキは、それを肴にエビスビールを味わった。会話が始まらない。
「ねぇー、ねぇー、三姉妹で1番料理が上手いのは誰?」
 加藤が聞いた。
「はい、私。」
 頬張ったエビを少し飲み込んで、美里が言った。
「いや、私でしょう。」
 サキが負けん気を見せて言った。
「さぁ、どうかしら。私でしょ。」
 姫子は言った。
 加藤が余計な事を言ったお陰で、険悪な雰囲気になった。しかし、加藤はその雰囲気を治める術が見当たらなかった。
「3人が一緒に協力したからこれだけ美味しい料理になったんでしょ。私達のために作ってくれたから。姫子さんは、食材の組み合わせと味付けが凄いね。美里さんは、食材の下準備が素晴らしいですね。エビの背腸の綺麗な取り方、サラダの野菜のシャキシャキ感、マッシュポテトの滑らかさ、ブロッコリーの炒め具合。私の口の中はリズム良く動いて喜んでます。サキさんは、ローストビーフや黒アワビの焼き具合、漬けだれや肝のソースが一体化してます。なかなか、家庭では出せない味、3人がお互い分かり合ってないと出せない味ばかりです。神路三姉妹、絶妙なチームワークですね。そう、正にOne Team。こんなに美味しいの、私、平らげますよ。」
 翔子はそこまで話すと、どんどん料理を口に運んで行った。
「そうだね。なんだか、作ってるところから見られてた感じね。翔子さんありがとう。」
 美里はいった。
「食べるのが大好きなんだ、翔子ちゃん。そんな事も考えながら食べてたんだ。楽しそうね。」
 姫子は言った。
「私だって翔子ちゃんに負けないくらい大食いなんだから。」
 サキは満面の笑みで言った。
 翔子の発言で場は和んだ。加藤も安堵の表情を見せた。
「翔子の料理も美味しいですよ。翔子なりの料理で。お母さんの味付けに似てるね。」
 カルパッチョをエビスビールで流し込んだ二郎が言った。
「どれも旨いよ。旨いよ。」
 加藤は、翔子が買ってきた生春巻きを頬張りながら言った。やっぱり加藤はどこかズレてる。
 沢山あった料理もだいぶ減り、美里は空いた食器を洗い、姫子はカツオの酒盗とクリームチーズを肴に微炭酸の日本酒を二本目の封を切ろうとしてた。翔子は、休む事なく食べて呑んでた。そして、サキと二郎は加藤の武勇伝を聞かされていた。
 すると、食器を洗い終えた美里が席に戻ってきて話し始めた。
「私、格闘技、身に付けたいんだけど、誰か指導してもらえないかしら。」
 突然、誰もが思いもよらない事を言い出した。
「急にどうしたの?」
 姫子は言った。
「こないだの件なんだけど。私、機械ばかり操作して、体感出来ないと言うか、ゲーム感覚なの。確かに、やり過ぎだったのは理解出来たけど。体感出来ると、シンジ君が言ってた『怖さ』、人を殺したくなってしまう怖さが理解が深まるかと思って。武道を習うの通して、感じ取れないかなって思ったの。」
 美里は真面目な顔で言った。
「素晴らしい、気がついたのね。美里さんに武道が身につくと、この三姉妹、もっと洗練されるわ。そう思わない。歌音、一文字さん。」
 翔子の中のユキが言った。
「確かにそうだね。体感した事で相手の立場も理解しやすくなるからね。」
 二郎から歌音に代わって言った。
「美里さんは、太極拳から学ぶとどうかな。」
 一文字さんに代わって言った。
「え、え、ちょっと待って。翔子ちゃん、翔子ちゃんなの?」
 姫子は翔子の変化に気づき驚いた。
「すみません、出しゃばったわね。初めまして、私はユキです。翔子の守護人格です。もう1人、杏がいます。まだ高校生ですけど。美里さんに太極拳、合ってると思いますよ。」
 姫子は勿論、加藤に美里、サキも驚き、口が開いたままだった。
「私も1人じゃないんです実は。隠すつもりはなくて、ユキが判断して交代しました。みなさんの事、好きになったんだと思います。応援したくなったんだと思います」
 翔子に戻り、言った。
「翔子さんも苦労なさったのね。ありがとう。ユキさん。」
 美里は言った。
「僕らと違って、翔子は姿はそのままなんだけど、三人なんだ。ユキさんは、僕ら六人にも時々、アドバイスしてくれる。ありがたいよ。」
 二郎は言った。
「美里さん、太極拳良いよ。合ってると思う。今度、トレーニングルームで。アヤナミが上手く教えてくれるよ。姫子さんも一緒にどうです。」
 シンジ君が代わって言った。同時に二郎の蟠りが消えた。
「私は、私は。」
 サキが聞いた。
「サキちゃんは、八卦掌もう少しやった方がいいと思うけど、なっ、カトちゃん。」
 シンジ君は答えた。
「お、うん、だいぶ上達してきたけど、八卦掌覚えると、太極拳も理解しやすいと思うよ。」
 加藤は言った。
「そっか、私には八卦掌があったわね。難しいとこがあったのよねぇ、カトちゃん、また、ご指導お願いします。」
 神路三姉妹に謙虚さが見られて来た。身体を動かす事に全く興味がなかった美里が勇気を出して決断した事がこの三姉妹を変える、いや、両親と兄を殺された憎しみが浄化されるきっかけとなった。三姉妹の心はとても穏やかだった。姫子は涙さえ浮かべてた。
 すると、翔子以外のスマホに益田から一斉メールが届いた。
「何、何、どうしたの?」
 翔子は驚いた。
 また、新たな仕事が舞い込んできたようだ。『明日、10時研究所に集合願います。益田より。』
「明日、集合だって、益田さんから。僕は行けないので、みなさん宜しく。」
 二郎は冷静に言った。
「どんどん、仕事が舞い込んでくるな。自宅待機っても、すぐこれだ。一週間くらい休んでみたいよ。」
 加藤は言った。
 そのメールは、人身売買を洋上で防ぎ、ピンクキャメル号の乗組員を勾留した結果、黒幕が居たのが分かり、その対処を検討せねばならなくなった。
 益田でさえ、誰もが難渋する案件とは未だ知る由も無かった。

つづく