偶蹄類はどこか悲しい。大きいほど尚のこと。夢やビジョンに古代の彼らが現われ叫ぶ。
生きる苦悩のように聞こえる。涙が出るほど気高く美しい。
私は山を切り開いた道路を車で走っている。脇の林から巨大な青いオカピが現われる。
彼は怒っている。叫びを上げて蹄をアスファルトにぶつける。
オカピの中のオカピが、怒りに目覚めてしまった。
動物は馬鹿なんかじゃない。奪いつくすということがどうしても理解できないだけだ。
それがわかってしまったオカピはもう普通のオカピではない。己の力に目覚めて人への怒りを
叫んでいる。
こんな激しい怒りと悲しみは知らない。今それを背負ってオカピは生きている。
…人への怒りに目覚めてしまった動物は誰かに殺されてしまうだろう…
己を越えて世界を想うオカピの気持ちのわからない、卑怯な私が考えている。
車はオカピに邪魔をされて一歩も進めない。
ラジオでニュースが入ってくる。チータの姉弟がどうやら人間にコンタクトをとっている。
肉食動物も草食動物も同じ事を始めているのだ。
弟のチータは人間に銃殺されてしまったようだ。誰も傷つけてなんかいなかったのに。
姉チータの深い悲しみが私の心に伝わってくる。
間違っている。
もはや彼らはただの動物なんかじゃない。何か新しいことが始まっているのでは?
心が壊れてしまいそうになる。どうしたらどうしたらいいのだろうか。
私の心は裸になって、森を抜けて崖の上にいく。
車に乗っていたら気がつかない。道路の周り以外はブルドーザーに食われてしまった。
泊まる予定のリゾートホテルは10年前とは違う。此処は荒地だ。地割れが何度も起こって、
隣のホテルはもう崩れている。私は知らなかった。
気がつくとオカピの前にいる。彼の激しい身振りは収まったようにも見え、静かに立っている。
オカピと私は向かい合っている。
決死のオカピの前には、決死の私が衣を脱いで頭を深く下げるのがいい。
そこから何が起こるのかはわからない。
画像はアニメ『死と処女』より
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