夢の中で、非常口電光板の逃げる人のような、白く光る単純な人型が布団に入り込んで来る。
「うわっ!こわい!」と一瞬思うが、ここで拒否したら金縛りになってさらに怖い思いをするのが判っているので、
これは白く愛嬌のある可愛い何かということにして、勝手にさせておく。
いつの間にそれは血肉の通った、私が愛する恋人のような存在となり、
彼は私に真実だけを話す。できたら私が事実として受け入れたくないようなことも口にするが、
私はそれを理解しつつも、彼の言葉を素直に受け入れている。
私も彼に微笑み抱きしめ、二人で夢に入っていく。
『性の迷宮』
夢の中、リビング室内に抱擁しあう私と恋人、それと二人の顔見知りらしい男がいる。
恋人以外の二人の男たちは、私とグループ・セックスをしたいと思っているのがわかる。
それに気付いた私は、二人の男のパートナーである女性二人を呼ぶ。彼女たちは私の仲良い友達のようだ。
互いのパートナー同士、時にはパートナー同士の理解の上で、ちょっと相手を取り替えたりもして、
同じ空間で自由な性愛の世界を一緒に楽しもうと思ったのだが、
男性二人は自分たちのパートナーたちが現われた途端に萎縮したかのようにその意志を失ってしまう。
私と、常に姿が変わり続ける夢の恋人とは、ソファでキスをしている。
恋人の姿が時に老人になろうが身内の顔になろうが、その変身した姿を常に私は新しく愛しく抱きしめる。
女性二人は花そのものというような明るい美しい仕草でお茶や食べ物を幸せそうに楽しんでいる。
男性二人はどうしていいのか判らない様子で無言で壁際に立ち尽くしている。
私の前ではグループ・セックスを楽しもうと思っていたのに、最も親しいパートナーの前ではできないのかな…
私は一体何故なんだろうと考えてみようかと思うが、二人の男に魅力を感じなくなったし、
興味も関心も薄れて彼らについて考えること自体がバカバカしく感じたのでやめておく。
女性の友人は子供を連れてきている人もいる。私も多分赤ちゃん時代の甥であろう乳児の面倒を見る。
男たちはどっかに行ってしまったようだ。私は恋人に対しての関心を失っている。
大忙しだけど楽しい。
甥は病気にもなるが、看病する心配や苦労も含めて私は幸せだ。
女たちと子供たちの世界はカンペキ労働はヨロコビ。花一杯光一杯歌一杯だ。
次ぎの瞬間私の心には恋人も家族も無い。私は一人だ。電光の室内に人が増えてくる。
皆各々の欲望を抱えているのが私には見えるようにわかる。彼らは私の中学や高校の同級生のようにも見える。
空間にはクラッシックなファミレスのような食卓もいくつかあり、
私は何人かから恋愛に関する切実な相談を受ける。
彼らの言葉には無駄や防御も多く感じる。ネックになる一言を探すためにのみ集中して耳をかたむける。
かつて恋愛関係だった人たちが、今は別の人と付き合い、そして今パートナーがいない人たちも
どういう愛と欲望の成り行きが起こって行くのか興味をもって見守っている。
彼らの欲望が見えているかのような夢の私はつくづく、人間は乱婚なのだなと思う。
人間は関係の無い他人の欲望に自分の興味を重ねている。そして多くの人がパートナーを何度も変えている。
そんなこと昔現実に付き合っていた人が言っていたなあと思い出す。
「時間がずれていれば、誰も大騒ぎしないようなことを、偶然重なる運命になった途端に
特別な大騒ぎするようなことだと思ってしまう…」
ある青年から恋愛の相談を受ける。その時、私はある女性を選んで呼んで隣に座らせていた。彼女も嬉しそうだった。
すると別の青年が、テーブルにやってきて、その女性に言う。
「ここで何の相談をしても俺はかまわないよ!ただし、君だけは席を外すべきだ!」
周りの皆もそうだと思っているみたいだ。彼女がどこに座っていようが室内に話は筒抜けなのに…
私は、抗議したその青年は、本当は私の行いのみを批判したかったのだが、
隣の女性に怒りをぶつけるような形を取ったのだと思った。
私は遠い昔、彼から付き合って欲しいと言われたような記憶がある。
見物人の一人である絵のように美しい、しかし奇妙な顔でもある女性がしみじみと言う。
「みんなの恋愛相談はできても自分のことだけはわかっていないのね」
隣に座っている彼女や相談者や抗議者が、今まで私とどういう関係だったのか、
おそらく周囲の人たちは知っているようだが、私には確かな記憶が無く、全くわかっていないようだ。
聞いた言葉から勝手に詮索してみるが、当たっている自信が全く無い。
私は突然飛んで、育った石神井公園に行く。
子供のころ畑だった、今は住宅地である場所が、緑の芝になっていて、小型の風力発電のような
白い風車が沢山立っている空間に変わっている。
何となく原子力も使っているような気がする。
それを気にしているのか、周囲には家がない。
だけど歩いて5分くらいの処に実家があるはずなので気休めでしかないのだろう。
家は無いが、白いファッションビルが二つ立っている。辺鄙な場所の豪華なビルは浮いている。
Aがつくアルファベット4文字のビルだった。「ALTA」とか「ATRE」とか思い出す。
白い壁に銀の文字で「A○○○1、2」と番号がふってある。
中は1階がカフェとファーストフード、上の階は古着屋雑貨化粧品、ティーン向けの安いブランドなどで
女の子たちの世界だ。
価格が安いからお客さんは来ている。原子力施設の傍でも買い物の情熱が恐怖を失わさせるのだろうか。
こんな住宅地の真ん中にファッションビルがあること自体が、このエネルギー産業の策略なのだろうかと私は思う。
ビルの中では少女向けの雑貨をつかってオリジナルオブジェを作る公募が行われていた。
私が最も可愛いなと思うもので何も考えずに適当にちゃちな物を作ったら入賞して女の子たちに喜んでもらう。
ビル内の変わった服を売る古着屋さんで二人の若い女性が売り子として働いていた。
二人とも美しい。特に一人の女性は変な顔でもあるがとても魅力的だ。
安っぽい奇妙な着物を崩れた下手な着付けで身にしている。
それ以上にその染付けというか、ただのプリントなのか、柄が妙な布団柄のようで気になってしまう。
二人の心は幸せではない。何か影を抱えている。
私はまた相談役としてフェミレスのような席にもどってきた。
公募で作った自作の可愛いオブジェも一緒に持ってきてテーブルに置いた。
次ぎの相談者は先ほどのファッションビルの売り子の女性たち二人だった。相変わらず着物の柄が気になる。
私が飛んで石神井公園のファッションビルに行った時と、ファミレス風のテーブルに座っている時が、
一体どういう時空の関係だったのかよくわからないのだが、
美しい方の売り子の女性こそ、先ほど私に「自分のことだけはわかってない」と言った女性と同じ人であった。
彼女たちと向き合った私は、相談に答えるためなのか、全く関係ないのか良くわからないのだが、
精神状態に変化が起こっていく。
突然思考の認識方が普段と変わって、自分が思考したことが文字になって脳内でイメージ化していく。
私は思考は言葉だと思っている。
彼女たちの相談事が何だったのか、果たして聞いたのか捉えたのかも全く思い出せない。
ただ頭に言葉が読める。
「性があるから迷宮がある」
ああそうか…セックスがあるからここから出られないんだな…私は納得する。
でもそれってどういう意味なんだろうか?そう思いながら目が覚めていく。
画像は猫
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