
『ミステリと言う勿れ』の新刊も15巻だったんですね。
表紙は、ケガで入院した主人公の整(ととのう)が、病院で出会った謎めいた女性ライカ。
ライカは、父親の虐待を受けて、解離性同一性障害(かつては多重人格といわれました)となった「千夜子」の交代人格です。かつて千夜子には、複数の交代人格が存在しましたが、ライカだけが最後まで残りました。両親が亡くなった後は、精神科に入院し、里親さんも見つかりました。ライカも「春までには消える」と主治医に伝えているようです・
ドラマ版では、初詣デート回(正確には焼き肉回)を最後に、整に別れを告げて消えてしまったのですね。しかしこのエピソードは、2020年2月発行の原作6巻所収。作中の時間は3か月あまりですが、原作のほうは、5年ほど続いてライカも活躍していたのでした。ドラマの続編を作ろうという気はなかったのかな?
帯には「“神回”ついにコミックス化!」という惹句があり、ライカとの最後のデート回は、雑誌掲載時に大反響を呼んだようです。
整と奇妙な友情関係を結ぶ指名手配犯の「ガロくん」が、整が夢中らしいライカに興味をいだいて会いに来るエピソードがありました。
別れの日が近づいたライカは、整にとって大切な人たちに接触を試みます。ひとりは、整の保護者で恩師でもある天達(あまたつ)先生。もうひとりは、大学でできた友人のレンくんです。
ライカといえばカメラの名前ですが、動物実験のデータを取るために、ソ連が片道切符のロケットに乗せらメス犬の名前でもありました。そのはなしを天達に聞いたライカが、「え! ひどい! かわいそうじゃないか!」と感情をあらわにするところがよかったですね。
いままでは、クールでミステリアスで、そういう「普通」の反応をするキャラクターというイメージではなかったので。整のカレーに「わーい!」とよろこび、フーフーとおいしそうに食べるライカのかわいらしさときたら。少女のままの千夜子との「統合」の日が近いのでしょう。ライカとの別れのあとに出会った千夜子は、整との日々の記憶はないはずなのに、きょうの病院メニューがカレーであることを喜び、「次のお泊りの日はカレーを作っちゃう」と里親さんにいわれて、「わーい」と喜んでいます。
ライカと最後に一緒に見た桜の花の木のまえで、千夜子を見かけて、「ライカさん」とちいさくつぶやく整。
自身も虐待サバイバーの整は、
「寂しいと思ったことは、人生一度もないです」
と、かつては語っていました。
しかしいまではちがいます。
「何かで読んだ
寂しいと思うのは 楽しいことがあったからだ
楽しい時を 過ごしたから
寂しいことを 知るんだ
だから これは いいことなんだ」
この作品は、好きか嫌いかでいうと、けして好きな作品ではないのですが、このシーンの美しさは永遠でした。