5月14日、関西テレビ スーパーニュースアンカーで「“学校選択制”先行する事例から学ぶ」が放送された。
学校選択制は2000年ごろから導入が進み、これを取り入れている自治体は全国で約15%に及ぶというが、この間見直しや廃止に動くところが続出している。その一つ、選択制廃止を決めた東京都杉並区の実態に焦点を当てている。問題点をあぶり出したとてもいい番組だ。
※スーパーニュースアンカー「“学校選択制”先行する事例から学ぶ
http://www.youtube.com/watch?v=rnuLJus1wNs
大阪市の方針は、統廃合のための学校選択制であることを正面から見据える
杉並区では、「地域と学校の関係が希薄になる」などの理由で廃止を決定したが、大阪の橋下・維新の会がやろうとしているのは、「選択制導入」一般ではない。学校同士を競わせ--この競わせるというのは、つまるところ入学者の人数によって“勝敗”が決まることになる--生徒・児童数が減った学校をつぶしていくという、統廃合のための選択制なのである。
選択制と統廃合を結びつけることに対しては、杉並区の関係者の誰もが口を揃えて反対するのも印象的だ。
橋下徹市長は「住民の合意がどうこうと言っていたら何も進まない。学校選択制で選別にさらし、統廃合を促すしかない」と“つぶすための選択制導入”の意図を露骨に語っている。橋下氏の方針によれば、297ある市立小学校のうち101校を統廃合の対象とし、この統廃合レースを各学校にやらせようというわけだ。
橋下市長はあいかわらず、詭弁を弄して言う、「だって誰も通う子がいなくなったらもう学校を開けておく必要ないじゃないですか。若干、地域のコミュニティが希薄になるとかいうことは我慢してもらいます」--だれが、子どもが一人もいない学校を存続させろと言っているのか!?
・「誰も通う子がいなくなったら」。学校に通う子どもが誰もいないという極論で議論をすり替える。
・意図的に「選ばれない学校」を作り出す政策を問題にしているのに、その結果の是非にすり替える。
・地域のコミュニティが希薄になるというのは前橋市や杉並区での廃止の最大の理由の一つなのに、「若干のコミュニティの希薄化」とはぐらかし、ガマンせよと強要する。
「夜スペ」の和田中学校の校長も危惧を表明
番組では次に、橋下市長が評価する「夜スペ」東京都杉並区の和田中学校を取材する。
和田中では、授業の後、大手学習塾に教室を無料で貸し出すかわりに生徒は塾と同じ授業を通常の半額以下で提供する。いわば学校の学習塾化だ。
たしかに和田中は人気で、生徒数が3倍に増えたという。
ところが、「夜スペ」を立ち上げた藤原和博氏に続いて校長になった代田昭久校長は語る。
「これは中々難しいんですよ。本当に血みどろの(生徒の)取り合いが始まってしまうんですよ。統廃合のために。教育現場に政治的なものを巻き込むべきじゃないと思います。(学校改革の)シナリオを描くのも大事だけど、それ(生徒数)のみで統廃合を決めるのは非常に危ない政策だと思います」
橋下市長がモデルとする和田中学校の校長も統廃合をセットにした橋下流の学校選択制には異を唱えている。
「結局失敗」「教育現場でのゆがみをもたらした」
別の学校に子どもを通わせる保護者も言う、
「結局、自由選択制度は競わせるわけだから人気校と不人気校にキッパリ別れる。不人気校に行くことになった生徒の行き場のない気持ちにはとんでもない大きなものがあるんです」
「結局失敗というか、(うわさに)惑わされただけという意見の方がすごく多いです」
杉並区では、制度の導入後、児童が少ない2つの小学校が統廃合されたというが、東京都内で初めて学校選択制を廃止する方針を決めている。
杉並区内の教師を中心にアンケートを行った結果、「選択制の影響で学校と地域の繋がりが無くなった」などの理由で、7割以上の人が見直しや廃止を求めたからだ。
杉並区の結柴誠一区議は言う、「校長先生はじめ先生方の努力が子どもに向かうよりは自分の学校のイメージ作りに必死にならざるを得ない。その結果、学校自身がそれぞれ一定の特色あるものができたにしても非常に教育現場でのゆがみをもたらしました」
選択制を続ける荒川区では存続の方針
一方、選択制を今後も続ける方針の荒川区も取り上げる。荒川区では、設備が充実する大規模校に児童が集まり、元から人数が少なかった小学校の児童はさらに減る二極化はここでも見られるという。
しかし、保護者から聞こえてくるのは意外にも好意的な声。
「少人数でアットホームな感じが良かったと思います」
「地域方のボランティアがすごくて家まで送り届けてくれるんです。安全性も確保されています」
荒川区では選択制で児童が減った学校の統廃合はしておらず、一人一人がきめ細かい指導を受けることができる小規模校も選べることから、保護者アンケートでは実に7割弱が選択制に賛成しているという。
第六日暮里小学校金子和明校長
「数で廃校とは一概には言えないと思う。109名の学校ですから職員・PTAで児童を真ん中に据えて思いっきりスクラムが組めるメリットがあります」
感想
杉並区の和田中代田昭久校長の言葉
「本当に血みどろの(生徒の)取り合いが始まる」「それ(生徒数)のみで統廃合を決めるのは非常に危ない政策だ」
杉並区結柴誠一区議の言葉
「校長先生はじめ先生方の努力が子どもに向かうよりは自分の学校のイメージ作りに必死にならざるを得ない」
まず統廃合のための学校選択制は、教育現場や地域を破壊する愚策と言わざるを得ない。「ダメな学校」を作り出し、廃校という形で制裁を加えるものでしかない。
ところで、杉並区は教員に対するアンケートで7割が選択制廃止を求めたと言うが、荒川区は保護者に対するアンケートで7割が選択制を支持している。
これだけで一概には言えないが、荒川区では、統廃合と結びつけておらず、教職員などの大変な努力で、選択制によって子どもたちに影響が出ないように、十分な教育が受けられるように条件整備されているのではないか。それによって、少人数校に行った子どもも、大規模校に行った子どもも、保護者にとっては好意的な反応があるのではないか。結果として問題は出ていないという反応だ。
一方、杉並区では実際に2校が統廃合されている上、和田中に見られる学力主義とも絡み、教員は生徒集め競争に心身をすり減らしているのではないか。アンケートでは、教育の質で選ばれるというより施設の充実さなどで選ばれるなど、教員が生徒集めのために何をしたらいいか分からないという苦悩も見える。そして、生徒が集中する一部の学校(「勝ち組」)に対するその他の「負け組」の教員の敗北感がアンケートに出ているように思える。
※学校選択制について考える(4)--廃止を決めた杉並の声(教育基本条例NO!)
http://blog.goo.ne.jp/kimigayo-iran/e/5c5c08cbbca7ccb0d6fcb1a5fbb58b9f
※学校選択制について考える(3)--杉並での廃止!(教育基本条例NO!) http://blog.goo.ne.jp/kimigayo-iran/e/bb41b62034cd323a322f37edfcdf6f5d
むしろ荒川区のアンケート結果は、設備の充実や少人数学級、教員・PTA・児童の「スクラム」など、学校選択制によるのでなく教育行政が果たすべき施策として求められていると見るべきだろう。
心に響く 山本浩之アナウンサーの言葉
最後に山本浩之アナウンサーの言葉を書き留めたい。
「僕は、教育問題に関しては、橋下市長、維新の会が考えていることとは全く違っていて、地域コミュニティが希薄になることは少しは我慢していただいてというんですが、いや違う、そこをなぜ我慢しなければならないのか。それこそが一番根本、一番必要なことだと思うし、一歩踏み込んで課題がでたら修正したらいいとおっしゃるんですが、その間影響が出た子どもに対して責任をどうお取りになるのか、とずっとそれは思っています。慎重であるべきで、学校選択制の長所もあると思うし、今の校区あるいは単位がベストではないというのも思うんですが、学校選択制と統廃合の問題を絡めて考える話ではない、その対象にしてはいけないと思います」
(ハンマー)