NHK ETV特集「枯れ葉剤の傷跡を見つめて--アメリカ・ベトナム 次世代からの問いかけ」(1月30日)を観ました。
映画「花はどこへ行った」の監督坂田雅子さんが、ベトナム戦争を闘った米兵の二世がベトナムの被害者を訪ねるのに同行するという内容です。坂田さんがこの問題にかかわったきっかけは、ベトナム帰還兵であった夫が肝臓ガンのため54歳の若さで亡くなり、枯れ葉剤作戦に向き合わざるを得なくなったからといいます。
米兵の二世にこれほどまでの被害が出ていること、そしてベトナムの子どもや孫の世代に被害が出続けていることも知りませんでした。
※映画「花はどこへ行った」の評はピースニュースが掲載しています。
http://www.jca.apc.org/~p-news/bunka/hanahadoko.htm
ベトナムを訪ねる米兵二世の女性ヘザーバウザー(38歳)さんは、右足と左指の欠損などの障害を持っています。登場する米の被害者は、内蔵がすべて露出している女性や全身の体毛がない女性などあまりの衝撃的な映像でした。内蔵がすべて露出している女性は、自らの障害を背負いきれず、思春期を過ぎた頃から生活が荒れ始め、30代で亡くなってしまいます。
ベトナムの方はさらに衝撃的で、頭が二つある少年や「皮膚ポリフィリン症」という全身の皮膚がただれている姉弟、眼球のない少女など、被害の大きさに圧倒されます。今も生まれ続けています。ベトナムではそのような障害をもった子どもたちも、助け合いながら生きていけるよう国家が可能な限り保障していることが伝わってきますが、この人的、環境的損失は、社会主義経済・社会にとってもきわめて大きな痛手になっているだろうと想像できます。
米軍は10年にわたって枯れ葉剤を散布し続け、400万人ものベトナム人が枯れ葉剤を浴びたと言います。米兵も散布下で軍事作戦に従事しました。
ホーチミン市ベトナム南部で最大のツーズー病院では、今でも先天性障害をもった子どもたちが生まれ、2009年に生まれた5万人のうち、実に1000人もの赤ちゃんが先天性障害をもって生まれてきたといいます。驚くべき高さです。
ベトナム帰還米兵のチャック・セアシー(65)さんは、ベトナム戦争のことが頭を離れず、米国から現地に戻り、枯れ葉剤被害者救済のためのNGOを立ち上げました。「枯れ葉剤と障害との関係を云々している場合ではない。まずこの子たちを救済することが大事だ」と米政府を批判します。
米国には、戦争被害について政府を訴えることはできないという法律があり、被害を被った帰還兵らは、枯れ葉剤をつくった製薬会社を訴えました。裁判で枯れ葉剤の実態が暴かれることをおそれた政府は、裁判開始の直前に和解。一人あたり250ドル~1万ドルというあまりにも少ない和解金でした。その後クリントン大統領が1996年に枯れ葉剤と障害の因果関係を部分的にみとめ補償する方針を打ち出しますが、女性兵士の子どもなどに限られています。
番組は全体として、米のベトナム侵略戦争に対する批判が弱いような感じを受けましたが、それを差し引いてもあまりある内容でした。
沖縄をはじめ在日米軍基地がベトナム戦争の出撃基地になったことを考え、日本でもベトナムの枯れ葉剤を決して他人事とみることはできないと思いました。
(ハンマー)