5月25日(日曜日)、ボストンから夜行バスで5時間、スキー観光の拠点都市としても知られるヴァーモント州バーリントンで開催されたヴァーモント・シティ・マラソンに参加する。米国24州目、通算47回目となるフルマラソン。全米第6位の広さを誇るシャンプレーン湖の絶景を楽しめるニューイングランド地方屈指の人気大会である。
NY方面からのアクセスはグレイハウンド・バスが便利だ。前日少し早めの時間にボストンに入り、ボストンでカーボディナー。その後、夜11時発、早朝4時到着のバーリントン行きに乗る。バス・ターミナルのあるバーリントン空港は非常に綺麗で、待合所で食事もできるし、ダウンタウンまではタクシーで15分もあれば行ける。そして、この大会はゼッケンの当日ピックアップが可能なので(朝5時半から7時まで)、そのままレースに参加できるというのも好都合だ。
当日はよく晴れたさわやかなコンディション。朝の時点で15℃くらいあるのでやや暑いが、この時期であればやむを得ない。スタート会場となっているバッテリー公園に行くと、3000人弱のフルマラソンの参加者のほかに、マラソンと同じコースで同時に行なわれるリレーのランナーでごったがえしている。実はこのリレーのほうがマラソン以上の人気種目で、町を上げての大応援を生み出す要因になっている。
スタートは8時。特別ゲストのジョアン・ベノイト・サミュエルソンさん(米国の女子マラソン選手初の五輪金メダリスト)の挨拶を含むセレモニーを経て、いよいよレース開始となった。
Mile 01: 9分01秒(09分11秒)
Mile 02: 8分48秒(17分49秒)
Mile 03: 8分45秒(26分34秒)
Mile 04: 8分26秒(35分00秒)
Mile 05: 8分29秒(43分29秒)
Mile 06: 8分32秒(52分01秒)
今回の目標はBQ、それもできれば-3分くらいの余裕がほしいところだったので、マイル8分15秒ペースを想定していたが、最初の1マイルは上り勾配だったこともあり、いきなり9分以上かかってしまった。ダウンタウンの繁華街を通過する2マイル以降は下り勾配が続いたので挽回に転じたのだが、8分40秒台がやっとで、どうにもスピードが出ない。リレーのランナーが一緒なのでやや混雑していることもあるのだが、それ以前に、自分の体の切れが今一つのように思えた。
4マイル目からは市街地を出て、高速道路ルート127の折り返し区間となる。遠くグリーン・マウンテンの山並みを臨む景色が素晴らしい。このあたりでようやく体が温まってきて、マイル8分30秒前後のラップを刻めるようになる。しかし、今日はこれくらいがMAXという感覚もあった。当初想定していたBQレベルのスピードは、この時点で到底無理なことがわかってきたのである。
Mile 07: 8分35秒(1時間00分36秒)
Mile 08: 8分48秒(1時間09分24秒)・・・ゆるやかな上り
Mile 09: 8分54秒(1時間18分18秒)・・・ややきつい上り
Mile 10: 8分27秒(1時間26分45秒)
Mile 11: 8分33秒(1時間35分18秒)
Mile 12: 8分43秒(1時間44分01秒)
Mile 13: 8分43秒(1時間52分44秒)
中間地点通過: 1時間53分43秒
6マイル地点を過ぎるとルート127をそのまま折り返し、再びダウンタウン方面に向かう。7マイル目を過ぎ、8マイル目になるとゆるやかな上り、9マイル目はややきつい上りで8分50秒台までペースダウンする。この時点で3時間45分のペーサー、ヒゲのトロイに追いつかれた。
「今日のレベルはこれくらいか・・・?」
内心ではまだまだこんなものではないと思っていたので、10マイル目の下りで第1回目のハニー・スティンガーを補給し、ヒゲのトロイを一気に引き離しにかかる。8分27秒。多少リードを奪ったかのように思えたが、ダウンタウンの南方に抜ける11マイル目でまた追いつかれた。
こんなやつとデッドヒートするつもりはないんだが・・・ と思いながら、12マイルを過ぎ、13マイル目に到達。ここで何の前触れもなく、コースは森林のバイク・トレイルに突入する。と同時に、今まで走っていた道路に比べると半分以下の道幅になった。なんだこれは? と思うほどの急激な変化。修正が効かず、ほかのランナーと体がぶつかる。あまりの混雑でさっぱり前に出られない。その隙に、ヒゲのトロイは群衆に紛れ、一気に走り去ってしまった。
「やられた!」と思わずつぶやく。そう、この大会のコースは小刻みな変化や起伏に特徴があるので、何度も走っている地元のランナーのほうが有利だ。初めて走る遠征ランナーにとっては、予期しないシチュエーションが多く、ペース配分が取りにくいコース。この時点で3時間45分のペーサーにも置いていかれ、当初は思いもよらなかった目標修正を余儀なくされることになった。
ほどなく中間地点を通過。1時間53分43秒。
BQどころの話ではない。後半をイーブンで走ったとしても3時間47分台にしかならない。
下手をすると3時間50分も危ないのではないか。
なにしろ、このレースで最大の難所は、まさにこれから訪れるのだから・・・
Mile 14: 8分47秒(2時間01分31秒)
Mile 15: 8分43秒(2時間10分14秒)
Mile 16: 9分21秒(2時間19分35秒)・・・きつい上り
Mile 17: 9分11秒(2時間28分46秒)
Mile 18: 8分41秒(2時間37分27秒)
Mile 19: 8分49秒(2時間46分16秒)
Mile 20: 9分24秒(2時間55分40秒)
中間地点を過ぎると、いっときではあるが、左手にシャンプレーン湖の美しい景観が広がる。必死で走っていても思わず心の癒しになる印象的なシーン。こういう大自然を目の当たりにすると、人間同士の争いなどちっぽけなものにしか映らない。「自分たちは何を必死に闘っているのだろう? 人よりいいタイムを出したとして、それが何になるというのだろう?」そんな気持ちが湧き上がってきてしまう。
14マイルを過ぎ、15マイルに達すると、いよいよ運命の天城越えが近づいてくる。
はからずも、自分はレース前にその天城越えの坂道を見てしまった。当日の朝、ゼッケン受け取りの会場から、一時的に荷物を預けるだけの目的でヒルトンホテルに向かう途中、そのヒルトンホテルが途中に位置する長い上り坂が、まさにこの天城越えの坂道だったのである。
「な・なに? この坂道を上るのか?」
見なければよかった・・・ と思っても後の祭り。
まだ走ってもいないのに、トラウマになってしまった。
この瞬間、案外自分の潜在意識の中では、すでにBQをあきらめていたのかもしれない。
15マイルを過ぎると、少しづつ勾配が上りになる。すると地の底から湧き上るような恐ろしい和太鼓の響きが聴こえてきた。この大会の名物として、ほかのランナーのレポートにも紹介されていた勇壮な応援。しかし自分の耳にはまるで地獄からの使者のような・・・ 必死で坂道を上るランナーたちの背後で死神があざ笑っているようにしか思えなかった。
和太鼓の一団を過ぎると、いよいよ勾配が急になる。つい先日走ったボストンのハートブレイク・ヒルもかくやと思われる悪夢のような坂。一歩上るごとに、痙攣のような震えがふくらはぎに襲いかかる。脚全体が棒のようになり、歩くのと変わらない速度に急降下。そして9分21秒という時間をかけ、やっとのことで頂上に達すると、行き倒れをまぬがれた安堵のため息が出てきた。
終わった。これで最大の難関は乗り越えたと・・・
ここから先は木立の美しい近郊住宅地で、ゆるやかなローリング・ヒルを北に向かう区間となる。2回目のハニー・スティンガーを補給した17マイル目はまだ脚に後遺症が残り、9分以上かかったが、18マイル、19マイルは8分40秒台に回復。しかし20マイル目は疲れが出て9分24秒にペースダウンする。気温も確実に20℃を越えてきているせいか、軽い眩暈のような症状になりかける。そのたびに意識を強く保ち、時おり応援の人たちが供給してくれる冷水シャワーを浴びながら走り続けた。
これ以上失速するとサブ4も危ない。文字通り正念場を迎えてのラスト・クウォーターとなった。
Mile 21: 9分09秒(3時間04分49秒)
Mile 22: 9分01秒(3時間13分50秒)
Mile 23: 9分14秒(3時間23分04秒)
Mile 24: 9分10秒(3時間32分14秒)
Mile 25: 8分57秒(3時間41分11秒)
Mile 26: 8分25秒(3時間49分36秒)
ふつうはここで3回目のハニー・スティンガー補給の場面だが、ここで無理な追い込みをかけたところで、どっちみちBQの可能性はないので、次のレースに備えて温存しておくことにした。その代わり、地元住民が出している私設エイドを利用し、スイカやオレンジなどの果物類をエネルギー代わりに補給していった。
21マイル、22マイルを9分ちょっとで乗り越えると、最後の4マイルは気持ちのいいダウンヒルのバイク・トレイル。ゴール会場のあるウォーターフロント・パークへの1本道をひたすら南に下っていく。そして右手には再びシャンプレーン湖の絶景! 青いさざなみが初夏の陽光を受けて燦然と輝くさまは、見事というほかない。
脚は疲れていたが、まだ死に切ってはいない。このあたりは練習で距離を踏んでいるささやかな恩恵であろう。23マイル、24マイルと目立った失速もなく切り抜ける。25マイル目は多少意地を見せ8分台に復活。そして最後の1マイルの表示を合図に、ギアを一段階上げ、前を行くランナーを次々とぶっちぎりながら、すさまじいまでの加速を開始した。
遅まきながら飛び出した究極の必殺技、炎の光速ダッシュ!
鮮やかな初夏の緑にあふれるウォーターフロント公園。シャンプレーン湖に停泊するボートが真白き光を放つのを右手に見ながら、今、米国24州目の走り旅を終えようとするヒーローがフルマラソン47回目のゴールに向かって疾走する!
そして沿道の大歓声が最高潮に達する中、猛烈なラスト・スパートでゴール!
なんと最後の26マイル目が、このレースでの最速ラップ(8分25秒)となった。
Finish Time 3時間51分14秒(8:50/mile)。
BQを基準にするなら、見事な敗北。しかしそんなことは、道行く人々は知らない。
完走メダルをかけたランナーに対しては、誰それの区別なく「おめでとう!」と声をかけてくれる。
そう、これは間違いなく、おめでたいことなのだ。
あくまでBQを基準にするなら、昨年秋からの闘いは2勝4敗。その2勝もギリギリのBQなので、来年はボストンに出られないかもしれない。
でも、それはそれでいいじゃないか、と思えてきた。4月中旬から下旬にかけては、まだ出ていないKY州ケンタッキー・ダービー・マラソンとか、もう一度出てみたいTN州カントリー・ミュージック・マラソンなど魅力的な大会がいくつもある。ボストンがダメなら、そちらの大会に出ればいい話である。
サブ4を基準にするなら24連勝。
完走を基準にするなら47連勝(途中棄権なし)。
市民ランナーとして、十分誇れる実績であると思う。
■MEMO■
総合順位 719位/2432人中
男女別順位 515位/1267人中
年代別順位 18位/82人中
★スタート会場のバッテリー公園にて。
★スキー観光の拠点都市バーリントンの路上をスタート。
★ウォーターフロント公園内でのゴール。最後は芝生の上を駆け抜ける。
★完走後、シャンプレーン湖岸のデッキにて祝杯。
★バーリントンの繁華街チャーチ・ストリートにて記念撮影。
★完走メダルとお土産のハイテクシャツ。
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