配信版『火の鳥 エデンの宙』

［映画紹介］

「火の鳥」は、
手塚治虫のライフワークで、
「○○篇」という形で、
沢山の独立した物語が存在する。
今回の作品は、「望郷篇」を映像化。
実は「望郷篇」は、２つあり、
漫画誌『ＣＯＭ』に掲載された、古代を舞台にしたもの
（1971年12月号）
『マンガ少年』に掲載された、宇宙を舞台にしたもの
（1976年９月号 - 1978 年３月号）があるが、
『ＣＯＭ』版は未完のため、
今日では望郷編と云えば、『マンガ少年』版のことを指す。

遥か未来の宇宙。
自然が失われた地球に絶望した
ロミと恋人のジョージは、
小さな惑星エデン１７を買い、移住する。
しかしそこは地震が頻発し、荒廃した惑星であった。
地球から持って来た植物を育てるためには、水が必要で、
水源を見つけたもののジョージは事故で死んでしまう。
ロミは一人取り残され、
子どもを産み、カインと名づける。

ロミは、息子と結ばれることで生命を繋ぐ決断し、
カインが大きくなるまで１３年間冷凍睡眠することになる。
しかし、１３年経ってもロミは目覚めなかった。
地震による機械の誤動作で、
１３年が１３００年になってしまったのだ。
絶望したカインは、コンピューターロボットを破壊するが、
異種族で超能力を持つムーピー族がエデン１７を訪れ、
地球人のカインとムーピーとの混血の新しい種族が産み増えていく。

ロミが１３００年の眠りから目覚めた時、
惑星エデンには、心優しく素朴な人々の住む、平和な文明が育っていた。

ロミは、エデンの女王として人々に慕われ、静かに老いていくが、
次第に地球への望郷の想いを募らせ、
超能力を持つコムという少年と共に
宇宙船「岩船」で、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　遥かな地球を目指す旅に出る。

途中、パトロールの宇宙船と衝突し、
パトロール隊員の牧村を助けて一緒に地球に向かう。

しかし、地球は特権階級が支配し、
地球に帰還希望する他星入植者を拒絶していた。
ロミたち一行は、不法侵入者として捕らえられるが、
地球で住んでいた頃共に生きた女性で、
ロミに対する記憶を持つ末裔ロボットのチヒロの協力で脱出し、
昔の地球の自然が保存されているヘブン島ヘ向かうが・・・

「火の鳥」という題名がついているが、
火の鳥は、登場人物の会話の中に出て来るだけで、
ついに最後まで物語には登場しない。

原作では、
ロミは唯一の女性として、
睡眠装置に閉じこもってしまったロミを憐れんだ火の鳥が、
夢に呼びかけ、異星人との混血をすすめ、
火の鳥の働きかけによりムーピーがエデン１７へ訪れて、
地球人とムーピーとの混血の新しい種族が繁栄していく。
という過程で、火の鳥が登場するのだが、
そこは映画化作品ではスキップ。（なぜ？）

また、牧村は試験管で生まれた人物で、
永遠の命を持つ「火の鳥」という生物を捕獲することを命じられて
宇宙に旅立ち、
鳥人が人間のように生活している惑星で
火の鳥と遭遇する、
という設定もスキップ。

つまり、物語の中で
火の鳥が関わる部分が飛ばされているで、
これでは「火の鳥」という題名が何なのか分からなくなる。

ただ、「望郷篇」は、
出版のたびに手塚自身の手で改変された作品で、
雑誌掲載版、朝日ソノラマ版、講談社版、角川書店版の各単行本では
大きく内容が異なる。
従って、どの原作が正編かは異論があるところなので、
本作は原作にとらわれない筋を探ったのだろうか。
それにしても、火の鳥が全く登場しないのは
どうかと思うが・・・

しかし、物語は、手塚ワールドが横溢。
男女二人だけで惑星に降り立って、
その惑星での人類始祖になり、
その子にカインという名前を付ける、
という旧約聖書の創世記を模した展開
（なにしろ星の名前がエデンだ）、
他の星に移住した地球人が、
年齢が進むにつれて
地球への望郷の念が募って地球に帰りたがり、
その帰還者を地球が拒絶するとか、
１３００年の眠りの間にエデンに新文明が誕生したが、
その平穏な暮らしが、
「悪」と「欲」を教え込まれたために
殺戮が始まり、荒廃するとか、
手塚的世界観が満載なことは確かだ。

「火の鳥」は実写版を含め、
何度か映画化されているが、
そのいずれも成功したとは言い難い出来だった。
それというのも、
宇宙に潜む生命の源としての火の鳥を描く
手塚治虫の壮大な構想に、
映画人がついていけていない、
どころか、理解さえしていない、
という気がしてならない。

脚本は真野勝成と木ノ花咲。
監督は西見祥示郎。
総作画監督は西田達三。
声の出演は宮沢りえ、吉田帆乃華、窪塚洋介、浅沼晋太郎ら。

９月１３日からディズニープラスで配信された後、
エンディングが異なるバージョン
「火の鳥　エデンの花」が劇場公開された。

配信版は、４話全１時間４１分。