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手塚治虫のライフワーク『火の鳥』

2023年11月13日 23時00分00秒 | 書籍関係

昨日、「火の鳥」のアニメを紹介したので、
今日は、「火の鳥」本体について。

「火の鳥」は、手塚治虫のシリーズ漫画。
歴史と宇宙を舞台に、
死ぬことのない「火の鳥(フェニックス/不死鳥)」を追い求めつつ、
生命の神秘や宇宙の成り立ち、人間の業を追究するという
一貫したテーマを持っている。

その普遍的テーマの大きさから、
漫画に留まらず、
映画、アニメ、ラジオドラマ、ビデオゲーム、演劇へと
拡散している。

手塚治虫が漫画家として活動を始めた初期の頃から
晩年まで手がけており、
まさに、ライフワーク

作品は時系列順には執筆されず、
また、発表の場も次々と変わりつつ、
描き続けられた。

最初に連載されたのは1954年(昭和29年)、
学童社『漫画少年』「黎明編」
学童社はその後約1年ほどで倒産し未完に終わる。

1956年、『少女クラブ』
「エジプト編」「ギリシャ編」「ローマ編」を連載。

1967年に月刊漫画誌『COM』に、
本格的な連載を開始。
『COM』は手塚自身の手で創刊され、
虫プロ商事が発行元なので、
自由に連載が出来た。
当時、私は毎月買っていた。
4年間に、
「黎明編」「未来編」「ヤマト編」「宇宙編」
「鳳凰編」「復活編」「羽衣編」「望郷編」「乱世編」
と書き継がれたが、
この連載の時に、
過去、未来、過去、未来、と交互に描かれ、
過去は時代を順に下り、
未来は時間をさかのぼり、
やがて「現代」でつながるという
構想が定まった。
最も先の時代を描いた「未来編」のラストは
「黎明編」に回帰する構成になっており、
輪廻を無限に繰り返す円環構造となっている。
しかし、同誌は1971年、休刊になり、完結しなかった。

1976年、朝日ソノラマ社『マンガ少年』で、改めて
「望郷編」「乱世編」「生命編」「異形編」が連載されたが、
同誌も1981年、休刊。

1986年に小説誌『野性時代』「太陽編」を連載。

1989年2月9日に手塚が亡くなったため、
手塚が生前執筆したのは、「太陽編」までだが、
複数のエピソードの構想が練られており、
シノプシス(あらすじ)で残っているものもある。
「大地編」は日中戦争が舞台の物語と幕末から明治維新が舞台の物語の二つがある。
「再生編」は構想のみが残され、鉄腕アトムが登場するという。
「現代編」は、未来と過去が結ばれ、手塚が死ぬ時に完結するという。

実は、我が家には、
「火の鳥」の単行本がある。
1976年(昭和51年)に
朝日ソノラマ社から出版された『マンガ少年』の別冊で、
全12巻。


我が家にあるのは、復活編までの5冊だけ。
講談社の手塚治虫漫画全集のB6判と違い、
B5判で、発表時と同サイズなのがよい。
終活で、本やCDを処分した時、
これだけは、と残しておいたものだ。

黎明編(初出:『COM』1967年1月号 -11月号)338ページ
未来編(1967年12月号 - 1968 年9月号)285ページ
ヤマト編(1968年9月号 - 1969 年2号)172ページ
宇宙編(1969年3月号 -7月号)151ページ
鳳凰編(1969年8月号 - 1970 年9月号)359ページ
復活編(1970年10月号 - 1971 年9月号)315ページ

ヤマト編と宇宙編は合冊。

黎明編・ヤマト編・鳳凰編は日本の歴史に題材を取り、
未来編・宇宙編・復活編は未来を舞台にしたSFである。

ほぼ50年ぶりに読んで, 驚倒した。
手塚治虫は、まさに天才だ


歴史モノは、
手塚治虫の教養があふれ、
3世紀の倭(日本)ではヤマタイの侵略、卑弥呼が永遠の命を求める姿、
『古事記』・『日本書紀』のヤマトタケル伝説、
奈良時代、強盗の我王と仏師の茜丸の大仏殿の鬼瓦を巡る争い、
を通じ、永遠の命を求める人間の呻吟を描く。
鳳凰編では、仏教の輪廻転生の中に永遠の命の姿が描かれる。

私が特に驚いたのは、
未来編・宇宙編・復活編の3編で、
並のSF作家が裸足で逃げ出すような、
素晴らしい斬新なアイデアがつまっている。

未来編

西暦3404年。
地上は荒廃したため、人類は地下都市に住み、
超巨大コンピュータに自らの支配を委ねていた。
しかし、コンピュータ同士で争いが起き、
超水爆で攻撃しあい、
地球上に5つあった地下都市の全てが消滅。
生き残ったのはシェルターに居た山之辺マサト、
猿田、ロック、不定形生物ムーピーのタマミのみであった。
マサトの意識は体外離脱し、
火の鳥により、宇宙の構造を示される。
そして、人類の滅亡が
生命の歴史のリセットを目的として
実行されたことを告げられ、
マサトは、生命を復活させ正しい道に導くために永遠の命を授かる。

マサトに火の鳥が見せる生命の秘密の部分が白眉。
火の鳥は、素粒子より小さい極小の世界にマサトを誘い、
それらの全てが生命体であることを示す。
そして、極大の世界にマサトを連れて行った火の鳥は、
銀河宇宙が集まって細胞のようなものを作り、
それらが全て「コスモゾーン」という宇宙生命であることを示す。

他の者は次々と死に、
マサトだけは永久に死ねない体のまま、
孤独に悶えながら生き続ける。
話相手を欲するマサトは、
合成生物を作るが、
ことごとく失敗し、諦めて、
再び地球が生命を生み出すのを待つ
何億年が経過し、
単細胞生物から始まって原始生命体となり、
植物を生み、動物を生み、
それらが進化して生命あふれる地球になる様をずっと見守ることになる。

途中、恐竜時代があり、
ナメクジのような生物が文明を作り、滅び、
やがて、哺乳類から類猿人となり、
人類となって、文化を作るのを見守る・・・。

この素晴らしい生命観、宇宙観を
SF小説ではなく、
マンガで描いてみせたのである。

宇宙編

2577年。
主人公たち5人は、ベテルギウス第3惑星から地球へ向かうために
人工冬眠をしながら宇宙を航海していた。
宇宙船が隕石と衝突し、
乗組員が目覚めた時、
1年ごとの交代操縦で起きていた
牧村五郎が死んでいることを発見する。
衝突の衝撃で燃料が流出し、
ロケットに留まることは危険なため、
それぞれ個人用救命艇で宇宙に出るしかなくなる。
救助されるのを待って宇宙を漂流するのだが、
食糧は半年分、酸素は1年半分しか積み込めない。
救命艇に乗り込んだ4人は、
宇宙空間に排出される。
同じ方向を漂う4人は、
無線通信機でコンタクトする。
(この4台の救命艇を描く実験的コマ割が斬新)
対話の中で、隊長が
牧村が殺された可能性に言及する。
牧村がダイイングメッセージで、
「ぼくはころされる」と書いていたのだ。
犯人はこの4人の中にいる。
物語は、突如としてミステリーの色合いを帯びる。
しかも、一人は、牧村が人造人間ではなかったかという疑問も口にする。
牧村の頭が金属性であるのを見たというのだ。
また、隊員の一人は、
見せられた写真から、
牧村が年々若返っていたと証言する。
そして、ロケットからもう1台救命艇が排出されて4人の後を追って来る。
牧村は死んだのではなく、
生きていて、乗っているのか、それとも・・・。

そして、救命艇は3台、
ある惑星に不時着する。
牧村の救命艇も着き、
そのカプセルを開くと、
そこにいたのは、赤ん坊だった。

ここで、真相が明らかになる。
ある星に派遣された牧村は、
その星で住民を殺戮し、
不死鳥の血を飲み、永遠の命を与えられた、
ただし、その方法は、
次第に若返るという「罰」だった。
大人になった後、若返って、
赤ん坊になり、また成長し、
若返ってを永遠に繰り返す。
牧村は、自分そっくりの皮膚ケースを着用し、
頭の部分が金属製。
マキムラはどんどん若返り、
ついに赤ん坊の姿で皮膚ケースの中にいたというのだ。

すごいと思いませんか?
映画「ベンジャミン・バトン  数奇な人生」が作られる2008年の
40年も前に、こんなストーリーが作られていたとは。
(もっとも、原作は1922年に書かれている。
 手塚がこの短編小説を読んでいたかは不明。)

復活編

2482年。
主人公の少年レオナはエアカーから墜落してしまう。
レオナは最新科学の治療で生き返るが、
人工細胞で脳を補うという方法だったため認識障害を起こす。
有機物(生命体)が無機物(人工物)に見え、
無機物(人工物)が有機物(生命体)に見えるようになってしまい、
人間が奇妙な無機物の塊にしか見えなくなってしまったのだ。
そんなある日、レオナは街で美しい少女を見かける。
唯一普通の人間に見えるその少女に心ひかれ追いかけるが、
彼女の正体は人間とは似ても似つかぬ旧式ロボットであった。
ロボットは無機質なので、人間に見えたのだ。
レオナはそのロボットに心を奪われてしまう。

やがて過去の記憶を辿るうちに、墜落死の原因が
かつてアメリカにおいてレオナがフェニックス(火の鳥)の血を入手したという
過去がからんでいることも判明した。
ついにレオナはチヒロと駆け落ちしてしまう。
そして再び瀕死の重傷を負ったレオナは、ある決断をする。

一方、西暦3030年、
旧式ながら通常のロボットとは異なる
奇妙な人間味を持つ家事ロボット・ロビタが、
次々と任地の家を放棄し、
列をなして溶鉱炉へ飛び込んで「集団自殺」するという異常事態が発生した。
しかし、一台のロビタだけが生き延びる。
それは、月面の貨物施設で酷使されるロボットだった。
そのロビタが、
「ワタシはニンゲンデス」と言い出す。
そして、ロボットには出来るはずのない
雇い主を死にいたらしめ、
「ワタシハニンゲンダカラ、コロシタ」と言い張る。

二つの話が一点につながり、
最後に真相が明らかになる。
狂気の科学者によって、
レオナはチヒロと合体され、
人間と機械の合成の末裔がロビタで、
だから、人間の心の残ったロボットとなったのだ、と。

自らエネルギーを断って「自殺」したロビタは、
各篇に登場する猿田博士と共に、
生命の秘密を求めて、
宇宙空間に旅立って行く・・・

宇宙を舞台にした各篇は、
まさしく手塚治虫の真骨頂ともいえるもので、
久しぶりに読んで、全然色あせていないので驚いた。

DNAが解析され、
クローン技術が出て来るのは、
手塚の死後。
生命の秘密に近づいた遺伝子解明に
手塚が出会ったら、
どんな物語を紡いだのだろうか。

1989年、60歳。
早すぎる死が惜しまれてならない。

 



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