[書籍紹介]
小野寺史宜(おのでら・ふみのり)による書下ろし連作短編集。
大学でバンドを組んでいた4人の男女の物語。
バンドの名前は「カニザノビー」。
由来は、「かに座(星座)のB型(血液型)」。
絹枝の読んだ小説の主人公だが、
リーダーはじめ二人がかに座のB型だったことで採用された。
曲はオリジナル。
そこそこの実力で、
コンテストで準グランプリになったこともあったし、
ライブハウスに出まくり、
ファンも付いた。
しかし、コロナでライブハウスもスタジオも閉鎖され、
活動できなくなり、解散。
4人のメンバー(GBDV)の
過去と現在と未来を追う。
Gは、ギター。
伊勢航治郎は、
解散後、鳴かず飛ばずで、ギターへの情熱も失せる。
付き合っている女性に同棲を迫るが断られ、
アパートを追い出され、
ついにギターを売ることを決意し、
家具職人への道を選ぶ。
Bは、ベース。
堀岡知哉はファンの女性と結婚し、
バー「インサイド」でアルバイトをしているが、
バーのオーナーから店を引き継いでくれるよう要請されている。
妻はそれでいいと承諾し、
ベースを売ろうとする堀岡に、
子どもが出来たら聞かせてやってくれ、と言う。
Dは、ドラムス。
永田正道は家庭教師をしながら、
行政書士になるための勉強をしている。
それは、離婚した父が進もうとした道だった。
ドラムは売り、残ったのはスティックだけだった。
Vは、ボーカル。
古井絹枝は、4人の中で唯一就活し、
書店に勤めている。
中学生時代、母が所属するコーラスグループに誘われて断り、
母を傷つけたのを悔やんでいる。
27歳。母が絹枝を生んだ歳に至り、
合唱団を作ることを思い立つ。
その歌詞を書くことで永田を誘う。
素人バンドの中でプロになれるのは一握り。
それは役者でも作家でも同じ。
スポーツ界だって同じ。
好きなことを見つけ、
それでプロになれるのは、幸運な人で、
大多数は途中であきらめていく。
そういう、どこにでもいるで若者たちを描いて、
いかにも小野寺史宜らしさが発揮される小説。
小野寺の作品は、「まち」「ひと」「ライフ」など、
「空飛ぶ自由人・1」で紹介している。
久しぶりに読んだが、
小野寺節は健在で嬉しかった。
登場人物が住んでいる町の情景が素晴らしい。
東京には、全国気各地から人々が集まっている、
映画は倍速再生が可能だが、
音楽は無理、
曲を倍速再生して楽しめるはずがない、
という記述は、なるほどと思わせた。
「わたしたちは、いいタイミングでやめたんだと思う。
コロナのせいでもない。
あれが限界」
という絹枝の論は正しい。
「夢は叶う」というが、
夢を叶えることが出来るのは、ほんの わずか。
ほとんどが夢を叶えられずに、人生を終える。
そのような生き方を歩いた4人を描いて、胸にせまる。
今でも高校や大学でバンド活動は盛んなのだろうか。
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