空飛ぶ自由人・2

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連作短編集『うたう』

2024年10月22日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

小野寺史宜(おのでら・ふみのり)による書下ろし連作短編集。

大学でバンドを組んでいた4人の男女の物語。

バンドの名前は「カニザノビー」
由来は、「かに座(星座)のB型(血液型)」。
絹枝の読んだ小説の主人公だが、
リーダーはじめ二人がかに座のB型だったことで採用された。

曲はオリジナル。
そこそこの実力で、
コンテストで準グランプリになったこともあったし、
ライブハウスに出まくり、
ファンも付いた。
しかし、コロナでライブハウスもスタジオも閉鎖され、
活動できなくなり、解散

4人のメンバー(GBDV)の
過去と現在と未来を追う。

Gは、ギター
伊勢航治郎は、
解散後、鳴かず飛ばずで、ギターへの情熱も失せる。
付き合っている女性に同棲を迫るが断られ、
アパートを追い出され、
ついにギターを売ることを決意し、
家具職人への道を選ぶ。

Bは、ベース
堀岡知哉はファンの女性と結婚し、
バー「インサイド」でアルバイトをしているが、
バーのオーナーから店を引き継いでくれるよう要請されている。
妻はそれでいいと承諾し、
ベースを売ろうとする堀岡に、
子どもが出来たら聞かせてやってくれ、と言う。

Dは、ドラムス
永田正道は家庭教師をしながら、
行政書士になるための勉強をしている。
それは、離婚した父が進もうとした道だった。
ドラムは売り、残ったのはスティックだけだった。

Vは、ボーカル
古井絹枝は、4人の中で唯一就活し、
書店に勤めている。
中学生時代、母が所属するコーラスグループに誘われて断り、
母を傷つけたのを悔やんでいる。
27歳。母が絹枝を生んだ歳に至り、
合唱団を作ることを思い立つ。
その歌詞を書くことで永田を誘う。

素人バンドの中でプロになれるのは一握り
それは役者でも作家でも同じ。
スポーツ界だって同じ。
好きなことを見つけ、
それでプロになれるのは、幸運な人で、
大多数は途中であきらめていく

そういう、どこにでもいるで若者たちを描いて、
いかにも小野寺史宜らしさが発揮される小説。
小野寺の作品は、「まち」「ひと」「ライフ」など、
「空飛ぶ自由人・1」で紹介している。
久しぶりに読んだが、
小野寺節は健在で嬉しかった。

登場人物が住んでいる町の情景が素晴らしい。

東京には、全国気各地から人々が集まっている、
映画は倍速再生が可能だが、
音楽は無理、
曲を倍速再生して楽しめるはずがない、
という記述は、なるほどと思わせた。

「わたしたちは、いいタイミングでやめたんだと思う。
 コロナのせいでもない。
 あれが限界」
という絹枝の論は正しい。
「夢は叶う」というが、
夢を叶えることが出来るのは、ほんの わずか
ほとんどが夢を叶えられずに、人生を終える
そのような生き方を歩いた4人を描いて、胸にせまる。

今でも高校や大学でバンド活動は盛んなのだろうか。

 



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