『蠅の帝国』 帚木蓬生
新聞の広告で興味を持ち、すんなり予約できた1冊。
図書館利用の難点は
発売から購入まで時間がかかるし
『入ってる!』と思った時には予約がいっぱい
今回、順番が回ってきたと連絡があったのはお盆前。
読むにはタイムリー過ぎる時期…
さまざまな立場の軍医さんの目から見た終戦前後の様子が
短編の形をとって描かれていました。
自宅のあたりが空襲に遭っているのを知りながら、
次々に運ばれる怪我人の処置に追われる軍医さん
南方で終戦を迎え、捕虜の扱いについて
戦犯として裁判にかけられる軍医さん
満州の医学校を繰り上げ卒業となり
戦線に投入され、終戦も知らず逃げ回る軍医さん
広島の『新型爆弾』による死因を解明するために
派遣され、解剖に励む軍医さん
…などなど、
そこで語られているのを聞いているような、
実際にその場所で見ているような、
そんな錯覚に何度も陥りました。
正直に言えば、非常に重く
何度も読むのをやめようかと思ったぐらい
人を助けるのが仕事のはずの医師が
(単純に言えば)人を殺す戦争に駆り出される…
その矛盾を突き詰めて考える隙も与えてくれない戦争の流れ、
恐ろしいと思いました。
軍医さんに限らず、
戦後、こうして体験を語ることができた方々は、
本当に紙一重で帰ることができた方々なんだなと
つくづく思いました。
この悲惨な戦争体験を後世に伝えねば!と
語ってくださる方々も勇気もさることながら
体験したことが辛すぎて語れない方々の気持ちも
少しわかったような気がします。
軍医さんの存在を何の不思議にも思っていなかったけど、
既存の軍医が多くいたわけではなく
勤務医はもちろん開業医も志願せざるを得ない状況に追い込まれ、
医学生も士官の地位が約束される
軍医依託学生という名目で訓練を受け、卒業後は軍医…
そういうことだったのね…の連続の1冊でした。
満足度: