以下 THE PAGE 4月28日(火)12時50分配信 のページのコピー 赤字のみ村長追加
「若者が手作りの家でローコストの生活を営む「小屋暮らし」が注目を集めています。量販店で建材や食料を、インターネットで情報を仕入れながら、人家の少ない郊外でしがらみのない自由を満喫するライフスタイル。ただ、実際には税金や法律、周辺住民との関係などの諸問題もかかわってきます。小屋暮らしの先駆者 や弁護士の意見を交えて、その理想と現実の問題をまとめてみました。
10万円で建築、生活費は月2万円
5年ほど前から山梨県の山あいで小屋暮らしを続け、「寝太郎」のニックネームで知られる高村友也さん(32)。
理想とする生活を「固定費を抑えて必要最低限(Basic)に」「素人が試行錯誤で遂行でき(Babyish)」「A級ではなくB級」などの意味で「Bライフ」と名付け、自ら実践。ブログや著書も出版して、多くのフォロワーを生み出しています。
理想を掲げるだけでなく、その情報発信は土地探し、小屋の組み立て方はもちろん、必要な収入や保険、さらに建築基準法や農地法、廃棄物処理法、河川法といった法律問題も一通り押さえるなど、とても現実的です。
「僕も最初は無計画で、とりあえず土地を買ってしまってから少しずつ勉強していきました」という高村さん。いざ小屋を建てようと法律を調べると、「土地に定着する工作物で、屋根・柱・壁を有する」という建築基準法上の「建築物」は、「金槌もろくに握ったことのない」自分では造れそうもないと判断。ならば「土地に定着させなければいいのか」と役所に確認しに行くと「その通り」だと言われ、基礎を固定しない「小屋」を建てることにしました。
購入した山林の一部に3坪の木造平屋を自力で建てた総費用は約10万円。電気はソーラー発電、水は沢水や湧き水をくみ、火は主に枝木を拾ってペール缶などで自作したロケットストーブと薪ストーブで調理や暖房。生活費は月2万円程度で済み、短期バイトなどでまかないつつ、悠々自適に暮らす日々だそうです。
生活上の一番の問題は排水や廃棄物の処理。「水は手に入れるより捨てる方が厄介です」と高村さん。地域の条例などによって違いがあるそうですが、家庭内から出る排水は原則、下水管や浄化槽を通さなければなりません。高村さんの土地に下水管はなく、合併浄化槽は設置に数十万円がかかります。そこで洗剤や石けん、歯磨き粉などは一切使わず、食器類は油を必ず拭き取り、「水だけでピカピカ」になるスポンジで洗うことにしました。
すると排水はほとんど無害になるので、畑にまけます。ラーメンの汁など、塩分の多い排水は別の配管に分けて自然蒸発。尿は排水と一緒に畑へ。大便は自作のコンポストトイレで発酵させ、やはり畑の肥料にします。コンポストには米ぬかをかけていましたが、最近は薪ストーブの灰をかけると消臭作用があり、虫や動物も寄ってこないと分かったそうです。
「排水の規制は地域によって厳しかったり緩かったりで、害がなければ垂れ流しでいいところもあるようです。また、建築物かどうかの判断も地域や担当者によって解釈が異なりますので、事前に問い合わせるのが確実。建築基準法とは別に、その建物が住宅として課税されるか否かという調査、判断もあります」と、慎重に「法令順守」する高村さんは、これまで苦情を受けたり、トラブルに見舞われたりしたことはないそうです。
こうしたライフスタイルは、法律のプロである弁護士から見るとどうでしょう。不動産や相続から空き家問題などまで手掛ける、みずほ中央法律事務所の三平聡史弁護士は「トレーラーハウスなどの扱いに似ていますが、土台がなく、上下水道もパイプで固定していなければ確かに建築基準法上の建築物にはなりません。登記しなければ固定資産税なども問題にならないでしょう」と認めた上で、「最も心配なのは、悪臭や火災による延焼などで近隣に被害を及ぼす恐れ」だとします。
「台風で屋根が飛んで周りの住宅や人を傷つけるようなことも『想定外』ではなく考え、対策をしておくべきでしょう。また、長く留守をしたり、気が変わって小屋暮らしをやめたりすると、放置された小屋にホームレスが住み着くことや犯罪の拠点になることもあり得ます。長期的な生活で周囲に迷惑を掛けないように、最後は解体して元に戻すところまで責任を持って、小屋暮らしを楽しんでほしい」。三平弁護士はこうしたアドバイスを寄せました。
小屋暮らし的な生活は、さかのぼると鴨長明の『方丈記』からヘンリー・デビッド・ソローの『森の生活』、ヒッピー・ムーブメント、最近の「0円ハウス」や「ノマド」ライフなど、形を変えていつの時代にも一種のあこがれとして存在します。特に日本の若者は、会社組織の縛りや地域社会のしがらみから解放されたいといった願望や、東日本大震災以降はエネルギーの自立という切実な問題意識も抱えていることでしょう。
そこにホームセンターなどで安く多様な建材が買えたり、若者同士がネットを通じて欧米の「スモールハウス」などについて情報交換したりするなど、時代や技術が追いついてきました。上の世代からはまだ田舎暮らしの延長や「世捨て人」的なイメージで見られるでしょうが、これからの世代には人生のポジティブな選択肢の一つとして広まっていくかもしれません。
「日曜大工などの経験がまったくない僕のような素人が、単に家賃節約のためだけに小屋暮らしを始めると、思ったよりお金や時間がかかってしまい、アパートのほうがよかったということになりかねません」という高村さんも、お金や法律の問題を最低限踏まえた上で、小屋暮らしの心構えについてこう助言します。
「自分の土地や城がほしい、自然に囲まれた暮らしがしたい、静かな環境がほしい、DIYで小屋を建ててみたい、高消費生活に疑問を感じる、生活を心機一転したい…。動機は人それぞれ違うでしょうが、コストパフォーマンスに加えて何か一つでも惹かれるものを感じれば、小屋暮らしはきっと面白くなるでしょう」
(関口威人/Newzdrive)」
+異国の地でホームレスになった困窮日本人
「ミニマルライフ」と「スモールハウス」。その魅力って? 末吉洋子
「地方での暮らしや、モノを減らしていく生活が注目されつつある今日このごろ。場所や時間、そしてお金にとらわれず「シンプルに、自分らしく生きる」ことをテーマに、生活スタイルを模索する若者も増えているようだ。そんな背景もあり、このところ注目されているのが、ミニマルライフやスモールハウス。それらの情報を発信するウェブサイト「未来住まい方会議」を運営している「YADOKARI」の、さわだいっせいさんとウエスギセイタさんに、新たな暮らし方についての魅力を伺った。
「ミニマルライフ」を通して、自分の求めていることが見えてくる
ライフスタイルに関する志向の多様化に伴い、地方移住や多拠点居住を選択する若者が増えてきている。そんななか、これまであまり馴染みのなかった”ミニマルライフ”という言葉への関心も高まっているようだ。エコからさらに1歩踏み込んだミニマルライフという暮らしとはどんなものなのだろう?
「簡単に言うと、極力モノを持たず情報も入れ過ぎずにシンプルな生活を送る、ということですね。アメリカでは携帯やPCすらも持たない『ミニマリスト』と呼ばれる若者も増えてきています。ミニマルライフの実践を通して、自分が本当に大事にしているコトを見つめ直すことにつながるともいわれています」(ウエスギさん)
かくいうウエスギさん、さわださんもミニマルライフの実践者。以前はデザイナーとして、東京でいわゆる”リア充生活”を送ってきたというお二人だが、ミニマルライフで日常がガラッと変化したという。
「東京でバリバリ働いていたときには、人気スポットのオシャレな部屋に長く住んでいました。でも、日常は慌ただしく、これから自分はどうしていきたいのかを立ち止まって考えたときに、暮らし方を変えることを選びました。もともと海が好きだったこともあって、今は家族と逗子の築40年の平屋に住んでいます。最先端の住宅と比べると設備的には十分ではないですが、モノがないなりに工夫が生まれるので気持ちの面で豊かになったと思います」(さわださん)
「モノを減らしていくと”あれが欲しい”とか、物質的なことを考えなくなるので、思考がクリアになっていきます。それに伴って生活の質が上がっている気がします。あと、ここ2年くらい自宅にテレビを置いていないのですが、その分新たな活動や家族との時間が増え、より充実した毎日になってきていると感じています」(ウエスギさん)
モノを持たない生活なら家も大きい必要はない
ミニマルライフを実践すると、自然とスモールハウスに行きつくことが多いそう。車一台分の駐車場くらいの土地に建てられるような『極端に小さな家』のことを指す、スモールハウス。こちらもあまり馴染みがないが、どんなものなのだろう?
「日本に限らずスモールハウスやトレーラーハウスに住んでいる人は昔からいたと思うのですが、どちらかというとヒッピーというか、自分の哲学や思想が強めな人たちが多かったような気がします。それが最近では生活スタイルの多様化も相まって、とくにアメリカや北欧のクリエーターを中心にオシャレでかっこいいスモールハウスが増え始め注目が集まっていますね」(ウエスギさん)
「未来住まい方会議」のサイトには、そうしたハイセンスなスモールハウスも数多く紹介されている。そんなスモールハウスのなかでも、とくにお二人が「秀逸!」と感じたというものをピックアップしてもらった。
日本でスモールハウスを建てることはできるのか?
ちなみに、いま日本でスモールハウスに住んでいる人たちは、法律的な部分をどのようにクリアしているのだろう?
「ごく一部に限られると思いますが、スモールハウスならではの『移動が出来る』という部分を取り入れたかたちであれば、住宅ではなく自動車の一部としてトレーラーハウスやキャンピングカーなどをカスタマイズして住んでいる人もいます。また、中古コンテナを使ったスモールハウスやショップなどは地方にはちらほらみられますが、基本的に都市近郊(都市計画区域内)では、中古のコンテナを使ったスモールハウスの建築は難しいため、建築確認申請に準拠したコンテナ風の鉄骨建築などで対応しているケースもあるようです。そのほかでいえば、一般の住宅と同じように基礎の上に小さな家を建てる方法があるかと思います」
じつは、さわださんとウエスギさんは、各国の事例を踏まえて日本でもスモールハウスをつくって広めていこうと企画したこともあるそうだが、日本で普及させるには法律や環境など乗り越えなければいけない壁も多かったとか。
「コンテナを活用したスモールハウスなら、日本でも広めていけるのではないかと思い、色々調べたのですが、住宅としての基礎がないとダメいうことで建築基準法にひっかかってしまいました。耐震の問題などもあって、日本でスモールハウスを住居スタイルのひとつとして一般的なものにしていくには、クリアすべき問題が多いです」(さわださん)
圧倒的な低コスト、住宅ローンに縛られない人生という選択
また、家全体を小さくするにあたり、コストを抑えつつ設備面をいかにコンパクトにするかがアイデアの出しどころだという。
「エネルギーや水道などのインフラが、ある程度独立した状態で整えば、住まいとしてかなり充実してくると思います。例えば、太陽光エネルギーやバイオトイレを取り入れるといったかたちです。現状、それらの設備にはコストが掛かりますが、価格が落ちてくれば予算も抑えられます。また、建築コストの大半を占める人件費を抑えるため、一定の作業は素人でもDIYできるような仕組みや、パッケージ化されたスモールハウスがあってもいいと思います」(さわださん)
こうした課題をクリアできれば、金銭面においてもスモールハウスはじつに魅力的だ。賃貸住宅や従来の持ち家に比べ、遥かに安い価格で住まいを手に入れることができる。
「30平米前後であれば、コンテナでも木造でも400万円前後で建てられる、というのが欧米でも主流になっています。普通の家を買うよりもずっと安い価格で、2人もしくは3人でも暮らすことができます。数十年にわたる住宅ローンに縛られない人生が送れるので、その分のお金や時間を勉強や趣味に費やすことだってできるわけです。
今の日本では『衣』『食』に対するアイデアはほぼ飽和状態ですが、『住』に関してはようやくシェアハウスが定着したくらいで、あまり選択肢がないように思えます。スモールハウスをひとつの居住方法として幅広い人に知ってもらえたらいいですね」(ウエスギさん)
今後、「YADOKARI」では日本での普及を目指し、スモールハウスの商品化も念頭に置いて活動しているとのこと。昨年、Facebookを通じ土地の所有者に向けて、スモールハウスを建てるための空き地を募集したところ、1年間で北海道から沖縄まで70件もの応募がきたという。実現すれば、従来の住まいに対する価値観に一石を投じるものになりそうだ。