使い慣れた本が傷んで,困ったことはないですか.使うたびに本の糊が割れて,本がバラバラになってしまうことはないですか.昔使っていた辞書の表紙が取れて使いずらくなったので,買い換えますか.使い慣れた本の価値は,中々お金に換えられない価値がありますね.そんな本が絶版になっていたりして,手に入らない状況で,サイトを探していると,本の修理をしてもらえるところを発見しました.「古本と手製本ヨンネ」です.
早速メールでやり取りしながら,電話でも相談して,修理に出すことに.
1.「最新 代数学と幾何学」(瀧澤 精二著 廣川書店 昭和50年2月15日修正12版発行)
2.「岩波 英和辞典 新版」(島村 盛助,土居 光知,田中 菊雄 共著 岩波書店 1973年1月10日 新版第1版第17刷発行)
の2冊です.1については,無線綴じ→解体,補修,つなぎ,糸綴じ.2については,革装→中身補修と補強,新しい革装という内容です.出来上がりの写真は,以下です.
写真ではわかりずらいのですが,新しい製本でよみがえった感じで,今後長く使えます.
1は,大学1年の時の教科書です.当時の京大の1回生の数学の講義は次のようなものでした.
理学部,工学部,医学部(当時は医学科のみ)・・・数学1(微分積分)週2コマ,数学2(線形代数)週1コマ
薬学部,農学部・・・数学3(微積と線形代数を合わせたもので,数学があまり必要でない学部としての数学)
これらが必修でした.文系は必修ではなく,数学4(数学史など一般教養的な数学のお話)でした.理学部はこの数学4でも単位が認められていたのですが,工学部ではこの数学4を履修しても単位は認められないというものでした.今はどうなっているのか,よくわかりません.しかし,当時より親切なカリキュラムになっていることは確かでしょうね.
この1の教科書は当時としても少し古い内容で,多くのクラスでは佐竹一郎や,斎藤正彦の教科書は使われていましたが,私のクラスでは担当の松本教授が彼の友人で同じ微分幾何の専門家の瀧澤教授の本を意識的に使われたと思います.内容も線形代数というより,解析幾何的な内容でしたので,のちには佐竹本や斎藤本を自学する人も多かったようです.しかし,私自身が高校で教鞭をとるようになってからは,この教科書の内容は高校生を教える際には,却って貴重なものになり,座右でいつも参考にしていました.数学の基礎的な定理なども付録でいろいろ紹介されていて,数学の基礎を身に着けるような配慮がなされている本だと思います.
2については今は絶版になっていて,革装のものだと,古本で高額な値段が付けられています.共著者のうち,田中菊雄は,苦学して研鑽を積まれた学者で,彼の読書論では有名な本が以下です.
またこの田中菊雄の伝記を読んで感動した記憶があります.
数学の本や,英語の辞書などは座右の書として,繰り返して使うことが多いのが共通点かも知れません.その結果,本が傷むことになり,自らの知識の源になっている本に対しては愛着も半端ではなく,その意味でも今回の修理をお願いして,帰ってきた本を眺めると,本が「生き返った」と思えます.まさに,血が通うように直していただいたという印象です.
気になられた読者の方は,一度ネットで「古本と手製本ヨンネ」を探してみてください.この場を借りて,私の青春を生き返らせていただきお礼申し上げます.