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まさおレポート

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新電電メモランダム(リライト)66 ソフトバンクが800メガヘルツ帯の周波数割り当てで行政訴訟 その1

2013-05-03 | 通信事業 NTT・NTTデータ・新電電

<ソフトバンクが800メガヘルツ帯の周波数割り当てで行政訴訟>

2004年10月13日にソフトバンクは牧野二郎弁護士を代理人として、携帯電話で利用する800メガヘルツ帯の周波数をNTTドコモなど既存事業者に割り当てる総務省の方針案を不服として、割り当て実施の差しとめ他を求める行政訴訟を東京地裁に起こした。 これは世間の耳目を引くことになった。

総務省が携帯電話の周波数再編方針案をつくった経緯は以下の①から④の通りの手順を踏んでいる。①ビジョン作成 ②技術的条件の策定 ③周波数計画の変更 ④再編成案と4つのステップを踏んでプロセスをすすめている。総務省としては法に則って着実に手続きを踏んでおり、一応の筋は通っている。竹田電波部長(当時)が国会の質疑応答でもそのように答えている。しかし、一応の筋と断ったのは、肝心の具体的な周波数再配分そのものが事業者の使命を左右するほどのパワーを持っているにも関わらず総務省電波部の判断で決められたことが引っかかるためだ。

ソフトバンクが携帯事業と電波行政に不慣れなために進行中のプロセスに気がつかなかった事でステップ③の周波数計画の変更段階でのパブリックコメント募集の重大性に気づかなかった。既に述べたソフトバンクのADSL干渉問題も発端はこのあたりの行政向けアンテナの感度の悪さであり、これは反省すべきではあるのだが、だからといって事の重大さにかんがみて再編成案を認めるわけにはいかない。

<パブリックコメントの洪水>

たとえ案とはいえ、携帯事業者にとってもっとも利害のからむ再編成案そのものが審議会でオープンに議論されることなく、あるいは事業者の意見を聞く聴聞も開かれずに密室で作成されたことに対して、他の重要な制度問題の扱いとの異質性を嗅ぎ取った孫正義氏は急遽、猛烈な反攻にでた。パブリックコメントを募集しているとはいえ、この段階での意見で大筋が変わることはない。そのまま実行されることは明らかである。パブリックコメントに対して新聞広告やソフトバンクADSLサービス利用者に対してメールで、この再編成案に対する反対意見を総務省に送りつけるという対抗措置に出ることに下。結果3万通を超える意見が総務省に寄せられ前代未聞のメールによるパブリックコメントの洪水となった。

<総務省が携帯電話の周波数再編方針案をつくった経緯>

①総務省の情報通信審議会は 2003年7月に、「電波政策ビジョン」で周波数の再編を進めることを提言した。 800メガヘルツ帯の利用については携帯電話等の移動通信業務用に細切れに割り当てており 集約、移行を進めることによって、まとまった広い帯域の割り当てを可能にし、周波数利用効率の向上 や国際的な周波数利用との整合による国際ローミングの実現や近隣諸国との干渉防止を目指すことになった。この電波ビジョンではNTTドコモやKDDIの名前は一切でてこない。

この電波政策ビジョンでは2012年以降に実施するTV放送のディジタル化移行に伴い、アナログテレビジョン放送で使用している700メガヘルツ帯と対で900メガヘルツ帯を移動業務に新たに使用することが可能となるというビジョンも発表した。その後の周波数割り当て状況は以下の通り。これにより国際的な周波数利用との整合(上下を700,900に対応させる)による国際ローミングの実現や近隣諸国との干渉防止が可能になる。

その後の経緯では以下のように再編成は進展しているので参考に挙げておく。

2012年(平成24年)7月25日 - ソフトバンクモバイル(以下、「SBM」と略す。)が新規に獲得した700MHz帯の一部(5MHz幅×2)を使用してW-CDMA (HSPA+) 方式によるサービス(プラチナバンド)を開始

2014年(平成26年)7月頃 - SBMがW-CDMA方式を運用していない残りの900MHz帯(10MHz幅×2)にてLTE方式によるサービスを開始

2015年(平成27年) - ドコモ・au・イー・アクセスが700MHz帯(各社とも10MHz幅×2)にてLTEサービスを開始。(by wiki)

②情報通信審議会に対して 800メガヘルツ帯における移動業務用周波数の有効利用のための技術的条件について諮問し 2003年6月に、800メガヘルツ帯における新たな周波数配置の全体像について答申を得た。つまり電波政策ビジョンの技術的可能性の担保をとったわけである。

③情報通信審議会の答申(電波政策ビジョン)を踏まえ 総務省は電波法九十九条の十一第一項第二号の規定に基づき 周波数割り当て計画の変更等を 2004年7月に電波監理審議会に諮問を行っており パブリックコメント及び関係者からの意見の聴取を経て 2004年9月に答申を得て決定した 。

この段階でもNTTドコモやKDDIの名前は一切出てこない。暗黙の裡に理解していたと言うべきか。政策決定プロセスに慣れない向きには見逃してしまいそうなステップの踏み方である。せめて通信事業者に通知して説明会を開くなどの努力をすべきであったのだろうが、こうした努力そのものも総務省の判断に委ねられているのだろう。

④ 総務省の再編方針案つまり800メガと900メガを使用している既存事業者への周波数移行は情報通信審議会、電波政策特別部会には一切意見を諮問せずに、総務省として作成した。これまでは暗黙の了解であったNTTドコモとKDDIの名前が一気に具体的に登場することになる。この点が極めて違和感をもたれることになるのだが総務省電波部は必要なステップは踏んでいるという立場を貫く。

2003年6月に、800メガヘルツ帯における新たな周波数配置の全体像について答申を得た後、2004年7月に電波監理審議会に諮問を行うまでの約1年の間にドコモやKDDIと水面下の調整を行ったのだろうと推測される。

⑤2004年8月から9月にパブリックコメントを招請した。 ソフトバンクの顧客をはじめ、大手新聞の広告によるお誘いによりインターネットのメール等によって3万件を超える賛同意見が寄せられた。孫正義氏の戦術上の重要なキャラの一つがこの行動にも現れており、要注目である。 

<総務省 竹田電波部長の陳述>

何故KDDIとドコモに割り当てたかについて総務省竹田電波部長は以下に述べている。「現時点での周波数の再編方針案におきましては、現在、800メガヘルツ帯及び900メガヘルツ帯を使用しておりますNTTドコモ及びKDDIの移行先の周波数は、移行元と同じ八百メガヘルツ帯とすることが適当としております。この再編方針案の作成に当たりましては、NTTドコモ及びKDDIが現に800メガヘルツ帯の周波数の割り当てを受けて無線局を開設し、事業を展開していること、それから、携帯電話用周波数が逼迫している中で、700メガヘルツ帯及び900メガヘルツ帯において将来新たな携帯電話用周波数を確保するためにも、円滑かつ経済的に周波数の集約、移行を図ることが必要であること、また、他の周波数帯も含めて周波数全体の効率的利用を図る必要があること、こういったことを踏まえまして、幅広い観点から客観的に検討を行っているものであるというふうに理解しております。」( 国会会議録 161 - 衆 - 法務委員会 - 11号 平成16年11月24日を参考にした。)

要は既存の事業者が既得権を持っておりスムースな移行には最適だと総務省が判断したということを述べている。「800メガヘルツ帯及び900メガヘルツ帯を使用しておりますNTTドコモ及びKDDIの移行先の周波数は、移行元と同じ八百メガヘルツ帯とすることが適当としております」とこれほどの重要な判断を省として他の事業者に相談せず聴聞会も開かずに決めたと言っている。

総務省の他の部局なら間違いなく聴聞会を開いていただろう。放送業界を主として主管していた電波部は非常に強い権限を行使してきた。電気通信分野での競争導入に伴う行政には不慣れな電波部はこうした厳しい批判にさらされてこなかったために陥った独断ではなかろうか。(もちろん、法的手続きにおいて過誤があるわけではないのだが他の総務省部局が電気通信業界に影響のあると思われる案件では聴聞や研究会を開催しているのと比較すると違和感を覚えるところだ。孫正義氏の鋭いきゅう覚はまさにこの点を嗅ぎ付け、突いてきたのだと理解すべきだろう)

ちなみに上記の竹田参考人が700メガヘルツ帯及び900メガヘルツ帯の確保について言及している。後のオークション方式での割り当てが期待されたが極めて残念ながら2011年12月2日にはこの周波数帯でのオークション方式の採用を総務省は先送りしている。孫正義氏のこの際の対応は池田信夫氏によっても「ビジネスマンとしては妥当な判断だが、それなら正義を振り回すな」と厳しい批判を浴びている。

<ドコモとKDDIは既得の帯域から28メガヘルツも縮減>

前述の竹田電波部長はさらに「なお、再編方針案におきましては、NTTドコモ及びKDDIに割り当てられている周波数幅は、現在、合計八十八メガヘルツという幅でございますけれども、新しく案の中ではこれが六十メガヘルツへと縮減されることとされておりまして、両社に対しましては新しい周波数を追加的に割り当てるものではございません。」とも述べてNTTドコモ及びKDDIは不利益を忍んで再編に協力してくれているのだ、だから2社にのみ再編するのは当然ではないかと言わんばかりに述べている。心情としてはその通りである。だからと言って聴聞会を開く努力をしなくてもよいという理屈にはならない。

総務省・竹田氏の判断は既得権者への配意としてはもっともな理屈であるが、国会での陳述でも電波行政上、公平な競争政策の視点からの新規参入者へも配意するなどの言及がまったくなかった。あるいは樽井議員がその点についてするどく質問をしていないためにあえてその点にはふれなかったのだろうか。この2点間のバランスを取ることが本来行政の重要な役割であるはずだが、放送行政に強大な権限を持ち競争政策に不慣れな電波部の判断ミスといえば言い過ぎだろうか。少なくとも新規競争事業者に対する配慮不足ではあろう。

<孫正義氏の抗議行動>

携帯800メガの再編成案問題でとった孫正義氏の行動は今後も繰り返されると思われる行動パターンであり要注目の行動である。共通の弱点を見つけてそこを真剣をもって切り込むのものだから官庁と企業のある意味で生ぬるい関係しか経験していない陣営は驚く。

パブリックコメントの締め切りが2004年9月6日で、残すところ三日となった9月3日に下記のようなメールと新聞広告を発表している。 ソフトバンク孫社長がいかにこの再編成案発表に驚いたか、そして9月3日という日がいかにぎりぎりの段階で彼が再編成案発表に気が付いたかをその日付は示している。

結果的にこの再編成案発表とそれに対する抗議、つまりNTTドコモとKDDI2社以外にもプラチナバンドである800メガをよこすべきだという主張とメールによる意見の提出を消費者に促すプロパガンダ、あるいは総務省に対する訴訟という一連の行動により周波数獲得の困難さを身を持って知ったため、後のボーダフォンへの買収意欲を盛り上げたと考えられる。この行動は世間の感心も読んだが同時に少なからず反論や反感などのマイナス効果も呼び起こした。

<抗議行動のマイナス効果>

①ソフトバンクの顧客情報を使って下記の内容の意見の提出を消費者に促すダイレクトメールを送ったことで、顧客情報の不適切な利用にあたると判断され、総務省からもその旨の注意を受けている。

②朝日新聞や日経新聞などの全国紙広告でそのような抗議行動を行うのはいかがなものか。金にものを言わせて世論を誘導するのかという心情的反感も引き起こした。

③特に訴訟行為は総務省や麻生総務大臣(当時)の反感を買った。この事件以前にも麻生総務大臣とは光ファイバーの参議院付帯決議を衆議院で阻止するための国会議員陳情などで何度か顔を合わせてあるときは理解もされ意気投合もしている。麻生総務大臣(当時)からすれば「いきなり訴訟とはなんだ」と思ったのではないか。

<三者共通の弱点 天下りをつく>

天下り批判は総務省のみならずNTTドコモやKDDIにも向けられた。周波数再編成劇がNTTドコモとKDDIの天下り組のロビーングで成立したことを直感的に感じ取った孫正義氏の他の経営者なら絶対に思いつかないと思われる急所攻撃である。この天下り批判は総務省、NTTドコモ、KDDIに共通の弱点であり、大騒ぎされることを極度に恐れる。これをホテルを借り切って大々的に記者会見を開いてアピールした。この会見に併せててソフトバンクグループの天下り状況と他社のそれを調査してみたがオリジナルソフトバンクには皆無であり、買収したソフトバンクテレコムに一名いたが、これは天下りとは呼べないだろうコンピュータ実務者であった。調査はぎりぎりに間に合って報告を会見に挑む孫正義氏に紙切れで伝えた。この時に調べたリストには凄まじいばかりの天下り状況が並んでいた。(下記リストには一部その後のものも書き加えた)

{総務省からNTTへの就職}

廣瀬惠(局長) 1990年 日本電信電話 取締営業部長

西井烈(局長) 1991年 NTTデータ通信 常務取締役

早田利雄(局長) 1992年 日本電信電話 常務取締役

澤田茂生(事務次官) 1996年 日本電信電話 会長

新井忠之(局長) 1994年 日本電信電話 代表取締役副社長

高木繁俊(局長) 1995年 NTTデータ通信 代表取締役副会長

勘場宏海(局長) 1997年 NTTデータ通信 常勤監査役

磯井正義(局長) 1998年 NTTデータ 常務取締役

阿部邦人(局長) 1998年 NTTドコモ 取締役

加藤豊太郎(局長) 1998年 NTTドコモ 副社長

松野春樹(事務次官) 2000年 日本電信電話 代表取締役副社長

栗谷川和夫(局長) 2001年 東日本電信電話 監査役

品川萬里(郵政審議官) 2002年 NTTデータ 代表取締役副社長

有村正意(局長) 2002年 NTTドコモ関西 代表取締役社長

井上陽二郎(局長) 2003年 NTTドコモ 取締役

田中征治(技術総括審議官) 2003年 NTTドコモ 取締役

足立盛二郎(局長) 2004年 NTTドコモ 代表取締役副社長

白井太(事務次官) 2004年 NTTデータフロンティア 会長

松井浩(審議官) 2008年 NTTドコモ 代表取締役副社長

金沢薫(事務次官) 2007年 日本電信電話 代表取締役副社長

{総務省からKDDI}

中村泰三(事務次官) 1996年 KDDI 代表取締役会長

奥山雄材(事務次官) 1993年 KDDI 代表取締役副会長

江川晃正(局長) 1995年 日本移動通信 代表取締役会長

五十嵐三津雄(事務次官) 2000年 KDDI 代表取締役会長

天野定功(審議官) 2004年 KDDI 代表取締役副会長

有富寛一郎(審議官)2010年 KDDI 代表取締役副会長 

NTTとKDDI両社と総務省の関係を天下りと関連付けて攻撃したことや、ソフトバンクは未来永劫一切「天下り」を受け付けないことを記者会見で宣言して総務省の一層の反感を買った事は想像に難くない。当時買収した直後のソフトバンクテレコムに在席した総務省OBまで極めて実務的な職場で働いており、天下りとはいえない立場であったにもかかわらず退職させる徹底ぶりであり、とばっちりを受けた感もあり、気の毒であった。

 


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